【農業から社会循環を学ぶ “遊園”】企画者の東村先生にインタビュー
親子での共通体験を通して、一生ものの興味・関心を養う
今年から全教研が新たに提供する学びの場『遊園』。その企画から運営までを手がける東村先生に、プログラムを立ち上げたきっかけや、遊園を通して伝えたい思いなどを聞いた。
親子での共通体験が興味・関心を伸ばす
−6月から新たに始まった『遊園』ですが、そもそものきっかけは何だったのでしょうか?
もう何年も前から、「子どもたちが大人になっても来られる村のような場所があればいいよね」と堀口社長が言っていたんです。そこから派生して、農業を通して社会の循環を学べる場を作りたいという構想が生まれたのですが、そのための土地を買って何十年も管理するのって結構大変で、なかなか実現には至っていませんでした。それがたまたま今回、糸島の農家さんにご協力いただけることになって、お借りした土地で作物を育てて食を知り、販売して経済を学び、利益の一部を投資して地域の価値を上げるという農業体験のプログラムを組むことができたんです。全教研が保有している農園というわけではないですが、子どもたちが大人になってからも訪れることができるので、村の実現にも一歩近づけたのではないかと思います。
−同じ体験型のプログラムであるエコアドと違う点はどんなところですか?
一番大きな違いは親子参加型である点と、作ったものを販売するというところです。まず、エコアドは親御さんと離れた環境下での体験ですが、遊園はあえて親子での共通体験に重きを置いた企画となります。『大人との対話』などのイベントでお世話になっている予防医学研究者の石川善樹さんが、「小学校低学年の時に家族で共通の体験をすることで、子どもたちの興味・関心が伸びる」とおっしゃっていて、私もすごく共感したんですよね。親御さんにとっても初めての体験となる内容が多いので、親子で感動を共有できるとてもいい機会になると思います。また、育てた作物を販売するという目的があることで、少しでもいいものを作りたい、こだわりを伝えたいという気持ちがより高まりますし、ゼロから価値を生み出す体験ができます。特に注力したのはこの2点ですね。年間を通して行うのでスケジュール調整が大変なプログラムですが、予想以上に多くのご家族が参加してくださって、すごく嬉しいです。
−年間通してとなると、運営も大変なのではないでしょうか?
実施日以外も月に2、3回は現地に行って、田んぼや畑の状況を確認したり、安全面をチェックしたりと、農園の管理はやっぱり難しいですね。ただ子どもたちが怪我をしたり、がっかりして帰ったりすることのないよう、そこは必要な手間だと思っています。
オープニングイベントを終えてみて
−実施前の5月末、プログラム発足を記念したオープニングイベントが行われましたが、いかがでしたか?
親子で語り合いながら作業をしたり、ビックリしたことをお互いに伝え合っている姿を見ることができ、遊園を企画してよかったと心から思いました。私、人生の運をそこに全部費やしているんじゃないかというくらいの“晴れ女”なんですよ(笑)。逆に私が産休で休んでいた1年間は台風でほぼイベントが実施できなかったくらいで(笑)。そんなわけで当日はかなりの暑さでしたが、みなさんに楽しんでいただけたようでよかったです。
−素晴らしい(笑)。今回はスペシャルゲストを招いてのイベントだったそうですね。
合田真さんと岩間敬さんにご協力いただきました。合田さんは植物燃料を用いてアフリカの食糧生産や経済を支援されている方で、農業の仕組みや普段私たちが食べている農作物と絡めながら、サーキュラーエコノミーについてわかりやすくお話ししていただきました。「1本の稲にお米は何グラムできますか?」「ウクライナとロシアの戦争でガスが入手できなくて燃料がなくなったら、馬がたくさん増えますか?」など、子どもたちからもさまざまな質問が飛び出し、これからの農業を考えるいいきっかけになったのではないかと思います。
岩間さんは、山で伐り出した木材を馬で運搬する「馬搬」や、馬に鋤を引かせて畑を耕す「馬耕」などの伝統的な文化を継承・普及している方で、はるばる岩手から馬と一緒に来ていただきました。
乗馬用の馬よりも体格がしっかりしていて、「馬ってこんなに大きいの!?」とみんな驚いていましたね。子どもたちには実際に馬耕を体験してもらい、1.2トンの馬力のすごさを感じてもらうために馬と綱引きもしました。
個人的には、岩間さんが「自分で石油を掘るのは難しいけど、馬はそこに生えている草を食べれば働くことができるんだよ」と子どもたちに語りかけていたのが印象的でした。当たり前のことなんですが、改めて考えてみるとそうだよねという気づきがたくさんあって、馬耕を体験したからと言って実際に馬を飼おうとはならないかもしれませんが、馬を使う方法があると知ること自体が大切ですし、その上で機械を選択することになったとしても、その先の使い方に違いが出てくるのではないかと思いました。
−こういう農業が正しいという答えではなく、自分で考えるきっかけを与えるということですね。
全教研がやりたいことはまさにそれで、大人の私たちが知っている答えを教えるのではなく、自分なりの答えを探してほしいと思っています。子どもたち一人一人をしっかり観察しながら、「どうしてこの花は黄色になるんだと思う?」「ナスにトゲトゲがあるのはなんでだろう?」など、その子自身の言葉を引き出せるように、それぞれに合わせて問いかけの仕方も変えるように心がけています。
−イベントでは野菜の収穫体験も行われたそうですが、一番人気は玉ねぎだったとか?
そうですね。すごく大きくて立派な玉ねぎで、親御さんたちも興奮されていました(笑)。普段何気なく食べている野菜でも、家族で楽しく会話しながら収穫することで、より美味しく感じるのではないでしょうか。
体験でしか得られないことを子どもたちに伝えたい
−東村さんはエコアドの企画・運営も中心となって行われていますよね。かなりハードなのでは…と思ってしまいますが(笑)、その原動力はどこから湧いてくるのでしょうか?
そう言っていただけるだけで少し報われます(笑)。原動力は、とにかく子どもたちに“体験”をさせたいという一心ですね。今の子たちってYouTubeなどのツールもあるし、知識はすごく豊富なんですよ。この間ロケットが大好きな生徒と話をした時にも感じたのですが、まだ小学1年生なのに、私なんかよりはるかに詳しいんです。ただ私は、たまたま以前、種子島でロケットの打ち上げを見たことがあって、その時の風圧のすごさや光の強さなどを話してあげると、「もっと聞かせて!」となるんですよね。いくら勉強しても、やっぱり実際に目で見て触って感じる“体験”は、すごく大きなものなんだと思います。遊園でも「田んぼってこんなにぬるぬるしているんだ」とか、本当に小さなことでもいいので、実際に土に触れて、野菜に触って、何かを感じ取ってもらえたらと思っています。
−実施内容はどのように決められたのでしょうか?
その時期に採れる農作物を軸に大枠を組み、その中で子どもたちに体験させたいことを考えながら肉付けしていった感じです。例えば収穫した野菜を使ってピザを作る回があるのですが、せっかくなら自分たちで割った薪で焼いてもらおうということで、薪割りをプログラムに組み込んだり。何がフックになるかはやってみないとわからないので、思いつく限り色んな仕掛けを用意しておくのが重要ですね。何かしらの学びにつなげたり、興味・関心のきっかけになることを持って帰ってもらえるよう、工夫を重ねています。
−薪割りは初めてやる子も多いのではないでしょうか?
刃物を使うので危険を伴いますし、そもそも私自身がほとんどやったことがなかったので、本番前に割りに行きました。びっくりしたのが、割った瞬間、すごくいい匂いがするんですよ。アロマみたいな木のいい香りがふわっと立ち上って、すぐに消えてしまうので、割っている私以外の人は気づかないくらいの香りで。これは実際にやってみないと絶対にわからないので、ぜひ子どもたちに体験させてあげなきゃと思いましたね。
−子どもたちが遊園でどんなことを学び取ってくれるか、これから楽しみですね。
そうですね。先程お話ししたように、何がフックになるかは本当に一人一人違うんです。例えば、農園の土に鳥の小さな足跡がついているのを見て、「この足跡だったらどれくらいの大きさの鳥なんだろう?」なんて言う子もいるんですよ。感動や疑問のポイントが大人とは全く違う目線から生まれるので、逆に私も学ばせてもらっています。