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【大人との対話】イベントレポート#4. テレビ西日本 元アナウンサー 四位知加子

人と比べるのではなく、自分の持ち味を見つけよう

さまざまな分野で活躍するオピニオンリーダーから直接話を聞き、学校や家庭とは違ったアプローチで子どもたちの興味・関心を広げるイベント『大人との対話』。元アナウンサーの四位さんをゲストに招いた第4回では、全教研に通う小学5年〜中学3年生の9名が参加。アナウンサーとしての心構えや技術的なアドバイスなど、四位さんの経験談を交えた対話が展開された。

登壇者・参加者紹介

【登壇者】
四位知加子
1987年鹿児島県生まれ。筑紫丘高校、西南学院大学卒業後、株式会社テレビ西日本に入社。アナウンサーとして報道番組のキャスターなどを務め、育児休業から復帰した後、現在は株式会社テレビ西日本 社長室秘書部 主査。元全教研生。

【参加者】
四位さんを除いて左から時計回りに、柴田さん(中学3年生)、佐々木さん(中学3年生)、岩本さん(中学2年生)、渕上さん(中学2年生)、藤谷さん(中学2年生)、尾仲さん(小学6年生)、村石さん(小学6年生)、蓑原さん(小学5年生)、大河さん(中学1年生)

親が転勤族で、子ども時代は毎年のように転校を繰り返していたという四位さん。中学生の頃に全教研に入って勉強の楽しさを知り、第一志望の筑紫丘高校に合格。学校生活は充実していたが、放課後に打ち込みたいものが見つからず、夕方5時頃には帰宅する生活を送っていた。やり場のない気持ちを落ち着けてくれたのが、帰宅時にいつも観ていた『スーパーニュース』だった。当時のキャスターに憧れを抱いたことがきっかけで、テレビ西日本のアナウンサーを目指すようになる。

将来の自分を幸せにするために今努力する

四位:まずは自己紹介から。テレビ西日本からまいりました、四位知加子と申します。名字は1位、2位、3位、4位の「よんい」と書いて「しい」と申します。名字は4位ですが、今日を楽しみにしていた気持ちは誰にも負けません、1位です。どうぞ宜しくお願いします。今言った自己紹介は、アナウンサー採用試験の時に、自分を印象づけるために考えた自己紹介で、これをアレンジして色々なところで使っていたんですけど、そういった私の実体験などもみなさんにお伝えしながら、今日は楽しく、そして有意義な時間を過ごせたらと思います。色々質問してくださいね。

柴田:学生時代はどんな勉強の仕方をしていましたか?

四位:今、勉強はどう?順調?

柴田:漢字を覚えるのは好きだけど、国語が全体的に苦手です。

四位:じゃあ国語が得意な人はいますか?お、大河さん。どんな感じで勉強していますか?

大河:問題集をひたすら解きます。そうすると問題の流れも見えてくるし、小説は得意だけど説明文は苦手とか、自分の弱いところもわかってくるので。

四位:素晴らしい。色んなものに触れて、苦手なものを見つけて対策していくってことだよね。柴田さんは、自分の苦手な部分って分析できていたりする?

柴田:特に古文が苦手です。

四位:じゃあまずは苦手って思わなくて済むくらい、古文を徹底的にやると、気持ちも楽になるだろうね。苦手なものを残したままにしておくと、どんどん大きくなっていっちゃうから、早め早めに対処する。自分でやっても克服できない時は、全教研の先生に頼ってください。まずは自分で一生懸命やるのがもちろん大事なんだけど、一人で解決できることって限界があるから、なんで私はこんなにわからないんだろうっていうところまで突き詰めたものを、プロである先生に投げかけると、それに合わせたアドバイスをしてくれると思うよ。

大河:私は逆に数学が苦手です。公式を覚えたつもりでもテストに出てくるとうまく使えなくて……。

四位:国語の勉強法を応用すればいいんじゃない?いっぱい解けば、きっと活用できるようになると思うよ。

渕上:私は勉強自体あんまり好きになれないのですが……。

四位:私にはモットーが五つくらいあって、そのうちの一つが「将来の自分を幸せにするために今努力する」なんです。今日の授業嫌だなとか、毎日しんどいかもしれないけど、今努力することが明日、そして将来の自分を幸せにすることにつながるんだって思ったら、それがモチベーションになるじゃないかな。嫌なことほど後回しにしないように、小さな芽の段階から対策していくことをおすすめします。

伝えるという気持ちをいつも忘れない

藤谷:僕は放送部に所属しているので、情報を上手に伝えられる方法が知りたいです。

岩本:私も放送部に入っていて、アナウンサーになるのが夢です。今度大会があるので、ナレーションの技術とか、賞が取れるようなコツが聞けたら嬉しいです。

四位:私がナレーションをする時に気をつけていたことは三つあって、一つは原稿の内容をしっかり読解すること。ここが肝だよっていうポイントを見極めて、ずっと同じ調子で読むのではなく、大事なところに向けて盛り上がっていくような読み方をする。そうすると、初めて聞く人も内容を理解しやすいよね。二つ目は、上手な人の真似をすること。このナレーションいいなって思ったVTRを何回も観たり、その人の声と一緒に読む練習をしたりしていると、上手な人と自分の違いがわかってくるし、自分の表現したい形が見えてくるかもしれない。これは常日頃やっておくと、耳が鍛えられるし、一つ目の“大事なところを立てる”ための技術も磨かれると思います。

三つ目は、視聴者を意識すること。賞を取りたいという気持ちだけだと技術に走っちゃうかもしれないから、この人に届けたいんだっていう思いを忘れないようにする。私もアナウンサー時代、上手に読みたいという気持ちが先走って、原稿を読む時に上司や同僚の顔ばかり浮かんでいたんだけど、ある時先輩に「大事なのは視聴者だってことを忘れているんじゃない?」と言われて、ものすごくハッとしたの。それからは肩の力が抜けて、技術に頼らない読み方ができるようになったと思う。だから、もちろん技術があるのは前提なんだけど、伝えるっていう気持ちを見失わないようにすることが大事かな。

見るだけでなく、考える癖をつける

蓑原:アナウンサーになるために毎日やっていたことはありますか?

四位:ニュースキャスターという目標があったから、新聞は毎日読んでいました。お風呂に持ち込んで音読したり、知らない言葉が出てきたらそれを調べたり。アナウンサー採用試験でも「最近気になるニュースは何ですか?」って聞かれたんだけど、ただ何のニュースかを答えるだけではなくて「それに対してどう思う?」ってさらに深掘りされるのね。みんなもそんな機会がこれからどんどん増えていくと思う。自分の意見を持つって結構難しいことで、意識していないとなかなか整理できないのよ。だから、ただ読むだけではなく、それに対して私はどう思うかな?っていうのを自問自答して、言葉にできるようにノートにまとめていました。蓑原さんは新聞は読む?

蓑原:あんまり読まないです。本は好きだけど。

四位:そうだよね。私も大学生になって始めたことだし、いきなり新聞を読むってハードルが高いよね。本で十分だと思う。読んだ本の内容がどうだったか、それに対して自分がどう思ったかを日記みたいに書いたりするといいんじゃないかな。何となくものを見るのではなく、考える癖をつけておくと、のちのち活きてくると思うよ。人と会話する時にも役に立つし、色んなことに興味が持てるようになるし、普段見ているものがもう一歩深掘りできるかもしれない。まずは本でやってみてね。

一つに偏らず、俯瞰でものごとを見る

村石:アナウンサーの仕事で一番気をつけていたことは何ですか?

四位:視聴者や社会情勢、番組制作に関わる人など、全体のバランスを俯瞰で見ることかな。例えば以前、お天気の原稿で「今日は遅い時間から雨が降るかもしれません。帰りが遅くなる方は、雨具を持ってお出かけになると安心です」っていう内容があったのね。これって一見普通の原稿でしょう?だけどコロナ禍でステイホームという言葉が飛び交っていた時期だったから、「帰りが遅くなる方は」ってそのまま読んでしまうと矛盾するし、まずいなって気づいたの。それで「今日は遅い時間から雨が降るかもしれません。洗濯物などは早めに取り込むようにしましょう」みたいに、別の表現にすることにしました。毎日たくさんの人が関わって、一生懸命番組をつくっていると、たまに細部を見落としてしまうこともあるのね。チームの重みを背負って、最終的に視聴者に向けて言葉を紡ぐのがアナウンサーだから、そういうことにも気づける存在でありたいなといつも思っていました。

佐々木:アナウンサーの方は知識が豊富ですよね。私は情報を集める時にどうしても自分の好きなものにばかり偏ってしまいがちなんですけど、そうならないために気をつけていることはありますか?

四位:よくそこに気づいたね。私がそれに気づいたのは社会人になってからで、さっき新聞を読んでいたっていう話をしたけど、西日本とか読売とか、色々ある中の1紙しか読んでいなかったのね。それでアナウンサーになってから、最低でも毎朝4紙は読みなさいと言われて読み比べるようになったんだけど、一つのニュースに対して、ある新聞では肯定的なのに、別の新聞では否定的に書かれていたりして、こんなに違うんだってすごくショックだったの。だから、何紙も新聞を読むのは難しいと思うけど、番組の報道の仕方を比較したり、ネット記事をいくつか読んでみたりして、一つの媒体に偏らないようにするといいと思う。そうしていくと、本当はどうなのかがわからなくなることもあると思うけど、その中で自分の意見を見つけていくっていうことが大事なんじゃないかな。

尾仲:放送事故が起こった時はどうするんですか?

四位:そういう場面を観たことがある?アナウンサーが困っているなっていうところ。

尾仲:はい。急いで「大変失礼しました」って言っていました。

四位:そうそう。あんまり考えたくないことだけど、起こる時もあるよね。とにかくまずは謝罪をして、視聴者を不安にさせずに、丁寧に対応することが大事。例えば、5分間のニュースを一人で読む「定時ニュース」っていう生放送のコーナーがあって、テレビ西日本だと、別室にスタッフがいて指示はしてくれるんだけど、スタジオには私一人だけだから、放送事故が起こった時には私が全部背負わなきゃいけないのね。例えば違う映像が出てしまった時は、そのまま原稿を読み続けるのか、その次の原稿に入れ替えるのか、「大変失礼いたしました。改めてお伝えいたします」って言って最初から読み直すのか、状況に応じて話し続けます。

でも、そうやって読み直してしまったりすると時間がずれちゃうから、5分間の中にぴったり収めるために調整するのもアナウンサーの役目。例えばニュースが3本あったとしたら、何かあった時調整しやすいように、最後の1〜2分はお天気原稿になっているんだけど、そこはアナウンサーが自由に書き直していいとされているから、短くしたり足したりして、できるだけ何事もなかったかのように放送を終えるの。だから、瞬時の判断力も求められる仕事だね。

尾仲:へえ〜!すごい。ありがとうございます。

人と自分を比較して苦しまないでほしい

四位:じゃあ最後に私からみなさんに伝えたいことを。みんなもうスマートフォンとか持っているのかな?今の時代、インスタで色んな写真を見たり、LINEでお友だちとやりとりしたり、色んな環境が整っているでしょう?だからこそ、知らなくてもいいことまで知ることができちゃうし、自分とお友だちを比較してしまう機会がどうしても多くなって、苦しむこともきっとあるんだろうなって思うの。

私も昔、アナウンス部の他の人たちが自分よりも輝いて見えて、私はこれから先活躍できるんだろうかってすごく悩んだのね。その時先輩に「場を盛り上げたり、面白いことを言うのは得意じゃないかもしれないけど、全体を見て司会進行したり、真面目なコメントを言うのは上手なんだから、その持ち味を活かせばいいんだよ」ってアドバイスされたの。それからは、私らしくのびのびと存在していればいいんだって思えるようになって、アナウンス部にいるのが苦しくなくなった。だから、自分の苦手なところで人と自分を比較しないで、自分の強みや魅力、持ち味を見つけながら、頑張っていってほしいなと思います。そうしているうちに、そんな魅力的な自分にぴったりの道が拓けてくるから。これは私が今まで生きてきて、すごく大事にしている考え方です。ちょっと苦しくなった時に、思い出してくれたらいいなと思います。

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その他にも「ボイストレーニングは早くからやっておくべき?」「標準語に直すのは大変?」など、アナウンサーにまつわるさまざまな質問が飛び交い、子どもたちは目を輝かせていた。『大人との対話』は第5回以降も近日中に開催予定。noteでも随時レポートを公開していく。