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【大人との対話】#5 アフタートーク 佐渡島庸平×堀口宏吉

第5回『大人との対話』終了後、佐渡島さんと全教研社長・堀口による対談が行われた。イベントを終えての感想や今回の対話の意図、今の教育について思うことなど、さまざまなトークが繰り広げられた。

難しくても記憶に残る話をすることが重要

堀口:今日はどうでしたか?

佐渡島:なかなか小・中学生と少人数で語り合うことがないので、すごく貴重な機会でした。今回特にテーマは決めていなかったのですが、実際に子どもたちと話してみると、みんな“我慢”っていう言葉を使うんですよね。僕の考え方とは違っている部分だったので、それをシェアしたという感じです。

堀口:結構難しい話だったかなと思うのですが。

佐渡島:そうですね。どれくらい通じるかなと思いながら話しました。今、世の中全体が“わかりやすい病”で、その場で納得できる話をすることが重要だとされがちなんですけど、僕はわからない話をすることって結構大事だと思うんですよね。

堀口:私もそう思います。

佐渡島:今日は我慢について話しましたけど、彼らはこの後もきっと我慢すると思うんです(笑)。だけど「我慢は楽だって言われたぞ」「なんでこんな辛いのに楽なんだ?」と、もしかしたら何度も思い返すかもしれない。それで5年後10年後に「我慢している限り自分は成長しないんだ」って気づく可能性もあるじゃないですか。今はわからなくても記憶に残るような、そんな話をしたいとは思っていました。

堀口:私たちが小さい頃は、ちょっと難しめの話をしてくれる近所の人が結構いましたよね。でも今はそうしたコミュニティや関係性が薄れていて、子どもたちが将来について考える際、相談する相手が学校と塾と親だけになってしまっている。そうすると、今までになかった新しい仕事であったり、これからどういう社会になっていくかということについて十分にサジェスチョンできない。だから佐渡島さんのような今を生きている大人と話ができるというのは、子どもたちにとってすごく意味のあることだと思うんですよね。

佐渡島:大抵こういう企画だと、人をたくさん集めようとするじゃないですか。でもそうすると、子どもたちは完全にone of them(ワンオブゼム)として話すから、お互いに“会った”っていう記憶にはならないんですよね。どちらかというと“観た”って感じ。今、観るだけならYouTubeでもテレビでもいくらでもできますから、同じ空気感を味わえたという意味でも、今日は少人数でよかったなと思います。

親は子どもの師にはなれない

堀口:佐渡島さんはすごく最先端なことをされているのに、お話のところどころに超アナログというか、昔おじいちゃんが言っていたようなことが散りばめられている気がしました。親御さんからの教えなどもあるのでしょうか? 

佐渡島:う~ん、どうでしょうね。僕は教わる人を自分で選んできたタイプなので、両親から教えてもらったという感覚はあまりないですね。師は与えられるものではなく探すものなので、親は子どもの師にはなれないと思っています。一緒に生活していく環境の中で、子どもたちが自然と何かに気づいたり、逆に僕も彼らから教わって成長したり、その繰り返しが家族なんだと思います。

堀口:息子さんたちは佐渡島さんのことをどう思っているんでしょう? 

佐渡島:どうですかねえ。まあ一番言われるのは、家にいないってことですね(笑)。そして福岡に移住してきたのに、福岡にすらいないじゃないかという。そんな風に僕はすごく好き勝手に生きているんですけど、僕だけじゃなくて全員が好き勝手に生きながらも、家族でいるっていう道を模索したいと思っているんですよね。

堀口:私にはすごく難しいテーマに聞こえます。

佐渡島:難しいですよ。妻は「私ばかり我慢している」と(笑)。「我慢しなくていいよ」って言うんですけど、「じゃあどうするのよ」って揉めるんです。まずは希望を言ってもらって、その上で全員が我慢しなくていい妥協ポイントを探したいんですけど、誰かが「我慢する」と言った瞬間に無理になるので、話し合いを続けていくことが重要だなと思いますね。

期待通りの反応がない方が自然

堀口:今回、子どもたちの中で「我慢しなくていいんだ」という気づきがあったと思います。ただ、そのためには我慢をしなくていい話し方とか、自分の行動についても考える必要があると。

佐渡島:そうですね。人によって受け取り方がそれぞれ違うので、この人には通じた話し方があの人にはよくなかったということも起こりうる。我慢しないようにしようと思うと、自分の周りにいる人も環境ももっと正しく理解しないといけないし、色んな反発もあると思うんですよね。でも反発というものが全て自分への悪意かというとそうじゃなくて、人が行動すると反応はあるわけで、それが常にポジティブである必要はない。例えばお金だったら、自販機に入れれば常に飲み物が出てくるじゃないですか。でも人とのコミュニケーションにおいては、期待した反応を得るために何百往復もしないといけない。それってすごく自然なことで、期待通りのことが返ってくる方がすごく人工的だと僕は思うんです。自然の中で遊んでいたらなかなか思い通りにはいかないですよね。それと同じことを人間関係でも経験すればいいだけのことなんじゃないかなと思います。

堀口:コミュニケーションの重要性を終始話されていましたね。

佐渡島:コミュニケーションは伝える側の責任で、伝わらなかったら伝えていないのと同じという言説が最近よくありますけど、それって1回でコミュニケーションを終える気ですよね。そうじゃなくて、伝える側と受け取る側がいた時に、一度言って伝わらなかったら、今度は受け取った側が伝わらなかったことを伝えて、また次のコミュニケーションが始まる。そうすると今度受け取る側が伝える側に変わるじゃないですか。コミュニケーションというのは向き合い続けて何百往復も何千往復もすることが前提だと思っているので、僕の中では失敗の概念はないんですよ。さっき失敗したから次は成功させるとかって、何らかのジ・エンドを期待していますよね。でもコミュニケーションにしても日々の行動にしても、どこにも継ぎ目がないものだと思うんです。

学問本来の面白さをどう伝えるか

堀口:これはすごく抽象的な質問なんですけど、どんどん変化している世の中で、今の子どもたちが持つべきものって何だと思いますか?

佐渡島:今って、知識を学んでしまっていると思うんですよね。それよりも、学び方を学んだ方がいいなと。学び方さえ知っていれば、変化に対応することができるので。

堀口:私がよく言っているのは、受験を通じて戦い方を学んでほしいということ。1回書いて覚えられないなら10回書くというように、受験を通じて自分を知り、戦い方を学んでいけば、その先の将来にも役に立つのではないかと思っています。

佐渡島:例えば縄文時代なんかでも、言葉とは何かを考えた人がいたわけだし、数とは何かを考えた人がいたわけだし、自然とは何かを考えた人がいたわけですよね。学問というものは好きで勝手に考えまくった人たちの集大成だと思うんですよ。だから何一つとしてつまらないものはないはずなのに、受験勉強ってつまらないものの集大成になってしまっている。

堀口:言い切りますね(笑)。

佐渡島:(笑)。オンラインではゲーミフィケーションのような形で面白さを用意することができますが、学問本来の面白さとは違いますよね。技術や知識がない大昔から学問の原始的な面白さを人は感じていたわけで、まずはその楽しさに気づいてもらうことが重要で、その先に受験勉強があった方がいい設計だと思うんですよね。

堀口:受験は一つの手段でしかないですからね。でも今は一周回って、本来の教育のあるべき姿に戻りつつある気もしています。色んな選択肢を自分の意思で選び取ることができるし、その中でいい大学に行くことだけを決めて受験勉強をする子がいても、それはそれでいいと私は思っているんですよ。

佐渡島:そうですね。僕が思うのは、受験勉強では学問の楽しさは絶対にわからないし、学ぶ力も身につかないんだけど、計画を立てる力は身につく可能性があるなと。でも中学受験はその計画を親が立ててしまうんですよね。それだと意味がない。実際、小学5、6年生で未来のための計画を立てるのは難しいですよ。

堀口:自分の好きなことや興味のあることなら、年齢に関係なく計画も立てられるんでしょうけどね。

佐渡島:未来のための努力って、なかなかできるものではないですよね。ダイエットの計画すら立てられない大人も多いのに。だから、そもそも難しいことだということを子どもと共有した上で受験勉強に取り組むことが大切なんでしょうね。

知識や時間で埋めるのではなく、思考力を鍛える

堀口:今日の対話で、子どもたちの頭の中にはハテナがいっぱいだったと思うんです。そこがすごく重要なポイントで、いいテクニックが手に入ったとか付け焼き刃的なことではなく、家に帰って親御さんと話し合ったりとか、自分で色々調べてみたりとか、そういう学びの入り口になったと思うんですよ。子どもって、私たちが思っている以上に難しい概念も理解しているんですよね。

佐渡島:みんな考える力を持っていますよね。僕も作家たちと接していると、驚くほど複雑なことを考える人に出会うことがあるんですけど、実は高卒で学歴コンプレックスを抱えていたりするんですよ。受験勉強をした方がいいとサジェスチョンする環境で生まれなかっただけなのに、周りからの刷り込みで自分には学がないと思っていたり。だけど、そんなことを考える必要は全くない。

堀口:佐渡島さんは自己否定してしまうような時期はありましたか?

佐渡島:僕は中学受験に失敗して、もう高校受験もしないつもりで南アフリカに行ったので、むこうで散々遊んだんですよ。でも考えながら遊んでいたから思考力が鍛えられたようで、日本に戻ったらすごく学力が上がっていました(笑)。

堀口:すばらしい(笑)。

佐渡島:結局思考力を鍛えるためには、日常の中でたくさんの問いを自分に投げかけるしかないんですよね。それが難しいから、受験勉強では暗記と知識で補おうとしてしまう。難関校の入試って思考力を試す問題が多くて、東大なんかも勉強時間が短くて済むような問題を作ってくれているんですけど、それをみんなどれだけ長く勉強したかで打ち取ろうとするから、苦しくなるんじゃないかなと思います。

堀口:私たち塾がまず考えていかなければいけない課題ですね。今日は本当にありがとうございました。


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