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ヒューストンバレエ版「白鳥の湖」@東京文化会館を見てきました(2022.10.29)

2022年10月29日(土)17:00〜 東京文化会館
ヒューストンバレエ「白鳥の湖」公演
オデット・オディール姫 加治屋百合子
ジークフリート王子 コナー・ウォルシュ

前川國男建築の東京文化会館は、バレエのガラ公演も上演されていたりするので、是非ともホール内部に入るときはバレエを観たい、と考えていました。たまたま夏に上野に来た日にロビーの上演予告チラシを物色する中で、ヒューストンバレエの白鳥の湖が目に止まり。バレエ団独自にオリジナル編成された「白鳥の湖」については評価が高い、というコメントを見て、日程なども勘案した結果、10月29日の公演を見ることに決めました。プリンシパルの加治屋百合子さんのお名前は拝見したことがありましたが、知識はあまり入っていなくて、チケットを予約してから少し人物について情報を集めようかと考えたりもしましたが…日常に追われあまり準備ができないまま当日を迎えます。

白鳥の湖といえば、古典バレエの定番中の定番です。チャイコフスキーの楽曲も好きでした。一番好きなのはブラックスワンのパドドゥのアンダンテ-アレグロ。個人的見解ではありますが、最も美しい曲と華やかな場面が白鳥との場面ではないんだな…というのも色々意味がありそうな。ブラックスワンは好きすぎてyoutubeでも色々なバレリーナのバリエーションを比べ見するほどなので、とりあえず様々な解釈や振付が存在することがわかっています。ボリショイバレエのプリンシパルであるスヴェトラナ・ザハロワが主演する白鳥の湖はDVDを持っていて、幕の運びや舞台の構成も、頭に入っている。だからこそヒューストンバレエ版がオリジナル構成なのだというところに期待が高まっていきました。

第一幕がオーケストラの演奏で始まり、イントロダクションの演奏中に、今まで見たことのない演出がいきなり登場します。人間であったオデットが白鳥に変えられるという経緯が舞台上でドラマ化される。舞台にはフィルターとなるレース状の幕が降りていて、シルエットでその様子が映し出されます。そこから湖で王子と白鳥として出会うまでの流れに、どっと感情移入が始まりました。加治屋さんの、能のような抑えられた一連の踊り方の中から繰り出される細やかなアーム使いと抒情的な表情に一気に引き込まれます。一幕の第2場には王子の花嫁候補たちが早くも現れるくだりも、早く白鳥が見たい気持ちを焦らし盛り上げて来ます。そこからの加治屋さんの白鳥には、終始涙がこぼれてくるほど、表情や表現が濃密で、見入りました。

第二幕は宮殿の舞踏会。舞台美術は抽象画のように美しいモザイクのような壁で、それもまたよく見るクラシックな雰囲気を良い意味で裏切ってくれます。各国王女の舞の後に登場するブラックスワン。パドドゥでは白鳥と全く違った表情やマイムで対比を際立たせてくれる加治屋さん。技術も素晴らしいのですが、それ以上に感情が揺さぶられます。ボリショイなどでよく踊られているグレコローヴィチ版の黒鳥バリエーションの音楽の方が、より妖艶さを表現しやすいのかなと思っていましたが(これは元々花嫁候補の登場の曲だそうです)、加治屋さんの演技が曲の演出効果の有無は上回っていました。グラン・フェッテは最初はバランスを魅せるようにゆっくり始まり、だんだん早くなる、これは彼女独特のスタイルのようです。ここまでで、かなり観劇による満足感が高まっていきました。

第三幕は20分の休憩ののち、短い幕としてプログラムされていたので、身構えずに見ることができました。愛の力を信じて湖に身を投げるオデットを追う王子、その力で悪が自ら滅びていくような…背後の龍の死骸のようなセットがずっと気になっていましたが、象徴に使われていたのか動くことはなくて、最後はかなり抽象的な演出に感じました。


カーテンコールで感極まっておられる様子の加治屋百合子さんとコナー・ウォルシュさん


ちなみにウェルチ版のもう一つの特徴は、男性舞踊パートが多いことだそうです。特に白鳥の湖は、コールドも女性が中心の物語となっていますが、王子をめぐる狩のシーンや、ロットバルトにも男性の従者が複数いたりと、色々男性陣の出番も多かったです。(ひとつ好みを申し立てれば、ロットバルトの衣装はウルフやドラゴンのようなモチーフだったと思いますが、ファンタジックな雰囲気よりもドラマのリアリティを下げていたかも、と思いました。いわゆるデビルマンのような従来的なロットバルトを見慣れすぎたせいかもしれません…)男性舞踊パートが多かったことの印象はそれほど強く心には残らなかったのですが、その分、白鳥黒鳥の美しさや出番が際立ったのかなと感じました。終始加治屋さんの感想ばかりになってしまいましたが…(汗)王子役のコナー・ウォルシュさんの安定感あるサポートのおかげで主役の舞に集中できた部分が大きいです。踊りが正確で、ソロ部分の跳躍などとても美しかった!ちなみに映画バレエボーイズに出演していたシーヴェルト・ロレンツ・ガルシアさんもスペインの従者で踊られていました。カーテンコールでは、来賓の海外関係者がブラヴォーと声を出し始めてスタンディングオベーションをする人が次々現れ、私も思わず立って拍手をし、感動の観劇を終えました。

カーテンコールの写真撮影が許可されていました!


ロビーに設置されていた写真撮影用のパネル


当日のプログラム。舞台の構成や解釈、美術を知ることができるためつい買ってしまいます。


美しい加治屋さん!


今回の鑑賞を終えて、加治屋百合子さんのファンになりました。アメリカンバレエシアター時代の動画やインタビューなども掘り起こして、後日楽しみながら見ています。前川國男建築とともに、素晴らしい舞台でした。ホール建築のことは、また改めて別の記事で書きたいと思います。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


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