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chitoseshizuoka
【読書】「東方綺譚」マルグリット・ユルスナール
美しい翻訳文だな、と思うと詩人や俳人が訳者だったりする。この本の翻訳者「多田智満子(1930-2003)」は詩人でもある。
フランス文学者や評論家から「一字も直す必要がない」、「非の打ち所がない」と評されるし、多田の硬質にして華麗な訳文を読み三島由紀夫は「多田智満子さんって……あれは、ほんとは男なんだろ」と言わしめる。
「源氏物語」の書かれなかった帖、書かれたけど失われたと言われている帖を、「源氏物語」に魅せられた物書きは埋めようとする。
この「東方綺譚」に収められている『源氏の君の最後の恋』を読みたくて、この本を手に取った。
老いていく源氏の花散里との哀しい恋物語。
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硬質にして華麗、この表現がぴったりくる文を、
夜が眠りのためにのみ過ごされるほどの齢に達したこの男は、
これほど男性の性の衰えを品よく表現している文を私は知らない。
間もなく彼は自分の視力が衰えてくるのに気づいた、
死に先立って闇がはじまることを覚悟せねばならなかった。
老いると目が見えにくくなるのは「闇へ」の練習、人の体とはよくできているものだ。
老いによる体の衰えへの恐れ、悲しみ、伴う厭世感が容赦なくしかし美しく表現してある。この世の春を謳歌した男性が世から忘れられる時に遭遇する悲哀が余すことなく時には残酷に。
パネギヨティスは焼き上がったパンに一生不自由しないという身分でした。それに、前途には踏みならされた途がひらけていた。
それぞれの小品はそのベースとなった寓話や神話を知っていればより味わい深いものになっただろう。
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