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【読書】「死神の浮力」伊坂幸太郎

世間様から遅れてやってきた、私の「伊坂幸太郎」ブーム。

娘を殺された小説家の山野辺は、一審で無罪になった犯人・本城への復讐を決意。山野辺は妻と共に、釈放された本城を探し始める。そこに、人間の生死を決める「死神」千葉がやってきた。「本城の居場所を知っている」と。 山野辺夫妻は半信半疑ながらも、「死神」千葉と行動を共にすることにする。

サイコパス、幼児虐待は私の苦手な分野の筆頭だが、伊坂氏の小説ではこれらが出てきてもウンザリしない。それはひとえに、人間界の斜め上をいく、死神との会話の可笑しみ、洒脱さによるところが大きい。

「かける言葉がない」という言葉がある。
自分の命に代えてでも失いたくない人を失った方、
良かれと思った自分の判断によって、あろうことか大切な人を失った方等、
TVやネットでその方たちの横顔にふれたり、その方を目の前にした時、私を文字通り「言葉を失った」。
朝目覚める度に、愛する人の不在を突き付けられる。愛する人の不在が、夢ではなく現実なのだと、毎日毎日打ちのめされる。その日から、その方たちの時が止まり、砂をかむような日々をおくる。
その方たちこそ、「日々のクスっとした笑い」や「ちょっとした楽しみ」が必要だろう、と心の中で思ってきた。
それがあながち頓珍漢な思いでないことを、「死神の浮力」が表現していた。

先週から、[死神]千葉さんと過ごす僕たち[山野辺夫妻]は、この一年では考えられないほど、何度も笑っている。千葉さんにそのような思惑は微塵もないのだろうが、無愛想で生真面目な千葉さんの言動が、僕たちを沈み切っていた沼から何度か引き揚げてくれている。
 過去のやり切れない悲劇や、先の見えぬ未来のことを考えることなく、僕たちは一日一日を摘んでいた。

死神の浮力

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