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Fukushima50を一切背景を考えずに観た感想

皆さんこんにちは、たいらーです。

世間では「コロナによる自粛疲れ」などと言われていますが、こういう時いかに「娯楽」が無いと世の中キツイかということを思い知らされますね……。

まあ本当に生きるか死ぬかという点で生活費に困ってる人もいるとはいえ、困ってなくても映画の延期なんかは結構堪えるもので……。「ブラック・ウィドウ」延期があったりMARVEL作品にもいろいろと影響が出るみたいなのは勘弁してほしいです。

さあ、そんな中でも継続中の「毎週映画チャレンジ2020」、前回三池崇史監督の「初恋」を観てからもう1本邦画を観ることにしました。今回取り上げるのは東日本大震災を取り上げた1作——

「Fukushima50」!



・概要

震災の影響で発生した津波によってもたらされた福島第一原発事故で、現場に残り続けた職員たちの奮闘を描く「真実の物語」。佐藤浩市、渡辺謙のW主演のほか、豪華キャストが名を連ね、監督を「空母いぶき」の若松節明が務める。

地震大国と言われる日本の中でも最大級の被害を出し、今なお大きな爪痕を残す「東日本大震災」。その二次被害と言われ、福島県民に対する偏見や東京電力の旧経営陣への訴訟などの出来事も起こった「福島第一原発事故」という、なかなかセンシティブな話題を扱った本作(劇場前には「震災の様子を再現した映像が流れます」という板が立ってたりしました)。

Fukushima50というのはイギリスの大手新聞”the guardian”が、実際に現場に残った職員たちの勇気を称え付けた呼び名で、ドイツ紙は「忠臣蔵」で知られる四七士に例えたりもしたそうです。

またこの作品、原作があり、ジャーナリスト・門田隆将さんのノンフィクション作品「死の淵を見た男:吉田昌郎と福島第一原発事故の五〇〇日」(角川文庫刊)を基にしているということもあり、冒頭「事実に基づく物語」というテロップが入ります。実際には既に亡くなられている渡辺謙さんが演じる福島第一原発所長・吉田昌郎さんのみが実名で、佐藤浩市さんの当直長含め他はまあ本名ではないなど、エンターテインメントとして観られるように実際は事実から変えている部分もある、ということですね。

・この作品の評価について

KADOKAWAと松竹のW配給という、それなりに気合いの入ったセッティングで制作された本作。中央制御室などのセットも当時の物をほぼ完璧に再現、震災時に出動した自衛隊のほか、アメリカ軍の協力まで得ての制作という事でかなり総力戦感も漂っていますが、取り扱う話題が話題という事もあって公開後はかなり賛否別れた感想が飛び交うという印象でした。

特に「原発」という物に対する見方の問題、佐野史郎さん演じる時の政権を担っていた総理大臣の描き方をどう思うかなど、かなり持っている信条等によって意見が変わってくるポイントが多く、そもそも「東電を美化したプロバガンダである」という観点からコンセプトそのものを否定する意見もあるという状態。

何故か日本アカデミー賞を受賞した「新聞記者」と照らし合わせる人がSNSで目立つという状況でしたが、鑑賞にあたって僕はそういった背景は一旦無視し、あくまでエンターテインメントとしてどうであるかという感想に徹したいと思います。

何故なら「作品の「テーマ」と「エンターテインメントとしての出来」は別のものだから」です。

映画は芸術だなどと言われますが、映画は本来誘導するメディアなのです。プロバガンダだと言われても実際映画がプロバガンダに使われていたのは事実ですし、逆のことをできるのも映像の力です。「国民の創生」だってテーマは最悪だと言われていますが映画的技法を生み出したという点で映画史に名を残していますし、エンターテインメントとして楽しめるかどうかはどれだけ繕っても大事な要素なのです。

要は与えたい「テーマ」を「面白く」、納得できるように作れているか、それが僕にとっての評価軸です。

前回の感想で挙げた「初恋」、「パラサイト」、「ジョジョ・ラビット」といった今年ベスト級の作品はそういう面で最高の作品でした。

では今回「Fukushima50」はどうだったか―――——


うん、すごい微妙でした。

というかこの映画、はっきり「長い」ですよね。


・それなりに盛り上がる前半

「微妙」とは言いましたが本作、全体が決して悪いというわけではありません。むしろ結構楽しんだところもありました。

特にやはり上がりやすいのは冒頭の地震、からの津波のシークエンス。開幕から大災害とそれに驚く人々のシーンというこの手の映画としては不謹慎かもしれませんがワクワクさせられる下り。中央制御室では当直長の「訓練通りやるんだ!」の号令で皆が冷静さを取り戻す中、「安全三箇条」の額縁が落ちるという象徴的なシーンもあります。

この冒頭で特に目立つのが字幕の出方。所長室で地震に遭いながら渡辺謙さんに「吉田昌郎」という紹介の字幕が出たり、非常用のディーゼル発電機にも字幕が入り、シーンごとに日付と時間が入り…とガイド的に色んなものを解説してくれる演出が入ります。

そして津波を目の当たりにした所員達が制御室に現れ、原発がメルトダウンの危機に直面している事を知る職員達。吉田所長と連絡を取りながら、事態の収束にあたります。

この前半のあれよあれよと話が進んでいく感じ、僕は非常に2016年の「シン・ゴジラ」を連想させられました。「シン・ゴジラ」もまた東日本大震災を下地にしたとされており、日常を描く間も無くいきなり事態が始まるところからを描いて、災害の如く首都を蹂躙するゴジラを見せています。

そして恐らくリンクするポイント、「起こった事態に当事者らがどう立ち向かうのか」、という点も本作の前半はなかなか楽しいです。

特に見どころだったのがSR弁を開け、格納容器の外に気体を出す「ベント」という作業を行ったりするという形で、2人1班で発電所内に向かう下り。放射線が既に充満している空間で20分しか酸素がもたず、視界は最悪という決死の状況。若手からベテランまでいる中で誰が行くのかというメンバー選出から、「時間内に間に合うのか、それとも間に合わないのか」というサスペンスが展開されます。

吉田所長が「決死隊」と言っているように命がけではあるものの、もしもの時は命を優先して戻ってくるという面で決して死を美化しているわけではないというバランスで、これはこれで好感が持てます(失敗した件でごめんなさいと必死で謝るというのもまた日本人らしいというか)。

一方制御室の外では本店と舌戦を繰り広げあらゆる窓口対応を一手に引き受けさせられる吉田所長のシーン。中間管理職の苦しみ…というやつなんでしょうかね、本店側の篠井英介さんが本当に憎たらしい演技を見せてくれてました(この人女形とかやってる人ですよ…?)。総理役の佐野史郎さんは思ったより悪辣には描かれていないというか、「終始気が立ってる人」という感じでしたね。むしろ佐野史郎の演技で楽しくなっちゃいます。

あとこれは東映特撮ファンとしては忘れてはいけないところ、自衛官の役で「仮面ライダービルド」のラスボスを務めた前川泰之さんが出てきた時は「この人何する気だ…?」と身構えました。実際は終始良い人でしたね、はい。

・後半の盛り下がり感

……と、いった感じで前半は普通に楽しんでいた筈なのですが、この作品、ベントの第二班が結局内部の状況に耐えきれず戻ってきた中盤辺りから急激にテンポが落ち始めます。

というか、なんなら制御室の職員が何か具体的にオペレーションを実行するというシーンが中盤以降特に無いというまさかの事態が発生します。

代わりに何が繰り広げられるかというと、実際に起きていたらチェルノブイリの10倍、本当の意味で東日本が壊滅したと言われる「2号機爆発」の危機に、現場にいる職員達が家族を想ったりしてやたらしんみりするという下りが延々と続きます(しかもかなり諦めモードという)。

しかもここ、「当直長が事故が起きる前に結婚に反対して娘と喧嘩していた」ことがいきなり明かされるという、作り手は昭和から来たのか⁉と言いたくなるような本当にどうでもいいサブプロットが急に展開されてはっきりノイズでした。

この後半、トイレで佐藤浩市さんと渡辺謙さんが話し合うところとか悪いところが無いとは言いませんが、「要らない、あるいは描写として無粋すぎるシーンの多さ」が目立ちました。

例えば米軍が行った物資補給、「オペレーショントモダチ」に関する下り、米大使館からホワイトハウスに何度か電話を入れるというシーンがあって、記憶だと3回はあるんですが、ほぼ全部言ってることが同じで「日本のために何かできませんか我々?」とずっと言っていて、なんかその描写自体が類型的だしシーンとして1回で十分機能しない?と観た後思わされました。秘書が朝食運んできたりしてて緊迫した現地に対して妙に呑気な空気が流れてましたし。

あとマスコミの描写もよく分からないバランス。これは前半ですがテロップで「AM3:06」と出ていて作業を3時から行いますという会見に対して「もう3時過ぎてますよ?」と真顔で言い出す女性記者とか、東電の社長に詰め寄る記者団の中で謎の含みを持たせて「福島はどうなるんですか…?」というダンカンさんのシーンとか、無理に中立に描こうとして失敗してる感が出ています。

結局2号機が爆発しなかったラスト、当直長が避難所で家族と再会し、米軍が支援に来てくれた後、突然時間が2014年春まで飛びます。原作は2012年発売なので、その更に先を描く場面ですね。

なぜ2014年なのかというと、2013年に吉田所長が食道がんで亡くなられてしまったから。所長と懇意にしていた当直長が、所長からの手紙を手に福島へ美しい桜を見に行き、震災が爪痕を残しつつも復興の兆しを見せていることを車を中心としたショットで見せるというこのラスト。「オリンピックが復興五輪と言われてるよ」なんてテロップが最後に入りますが、これ自体は決して悪くないと思います。

ただ、どう考えてもバランスがおかしいですよね。どうせなら要らないシーンを削りまくってこのラストにもっと時間を取って、震災から3年経ってどうなったかをより詳細に見せてくれれば、なんかこうまだ収まりが良く見えたのではないかと思います。

・総括

というわけでまとめに入ります。

前半非常に「シン・ゴジラ」的だなぁと思った本作、ただ「シン・ゴジラ」と違うのは徹底した現場目線であったこと(あっちは官僚の話ですしね)。そして登場人物たちのキャラクター描写にウェイトが傾いていること。

ただこのキャラクター描写が前半にあまり無く後半に集中しているというのが話のテンポを著しく削いでいて、しかもあまり面白みが無いというのが一番の問題かと思いました。あと家族家族言う割に吉田所長の家族の話あったっけ…と思ったり、なんか所長が全体的に他の人から浮いて見えるのも奇妙な味わいでした。渡辺謙だからでしょうか。

あとキャラクター描写も含め、カタルシスに欠ける後半の構成の問題は大きいですね。色々削るかもう少し尺の配分を変えればやりようはあったと思います。

というわけで「Fukushima50」、政治的スタンスからの賛否が目立ちますが、普通にちょっと…と言いたくなる面が多々ありました。

役者陣は火野正平さんとかこころ旅の人と思えないぐらい存在感があって皆良かったですし、頑張ってるのは伝わってくるものの…という、なかなかの「惜しい」作品です。この「惜しさ」を味わいたい方、是非、劇場へ!


……はい、というわけで大慌てで鑑賞作品の貯金を潰しています。

このブログ自体「冗長」になっているかもしれませんね(笑)

次回はDCコミックス映画最新作、「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY」を観てきましたのでこちらの感想を上げたいと思います。

ここまでのお相手は、たいらーでした。

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