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笑いたい人は「初恋」を観ろ。泣きたい人も「初恋」を観ろ(映画感想です)

皆さん、こんにちは。たいらーです。

ライダーVシネマランキングの後、今年観た映画でもちょっとしたランキングを考えてみたのですが、今年は年始から良い映画が出揃ってますね。

特にベスト3を決めるとなるとかなり難しいですね。とりあえず「ジョジョ・ラビット」と、「パラサイト 半地下の家族」は入るかと思います。この2つはアカデミー賞でも作品賞を争っただけあった本当に傑作でした(軍配は「パラサイト」でしたが)。

そんな中継続して行っている「毎週映画チャレンジ2020」、ここに来てちょっと邦画をチェックしようというターンが回ってきたところに、とんでもない作品が現れてしまいました。

今回取り上げるのは、三池崇史監督最新作、

「初恋」

今なお一部で熱狂的な支持を集める「ケータイ捜査官7」以来約10年ぶりに三池崇史監督×主演窪田正孝の強力コンビが復活。脚本は「ガールズ×ヒロイン!シリーズ」で監督と関わりのある中村雅。ヒロインは3000人の中から選ばれた新人女優・小西桜子。その他大森南朋、染谷将太、ベッキー、内野聖陽など豪華俳優陣が脇を固めています。

監督が「自身初のラブストーリー」と語りながら、ボクサーがヤクザの争いに巻き込まれるというただならぬあらすじが目を引く本作。

感想を一言で言うならば……

最、っ高でした

期待と不安半々で観に行ったら思わぬアタリを引いてしまいましたね。

三池監督も微妙な作品が続き半笑いで言われることが多く、正直ナメてかかってましたが、いざ観てみるとそんな昔の自分を殴りつけて土下座したくなるぐらいの面白さでした。

まず褒めたいのがキャスティングの完璧さ

染谷将太さんが演じるさとり世代っぽい雰囲気の若手ヤクザと大森南朋さんのくたびれた汚職警官のコンビ、内野聖陽さんの武闘派ヤクザ、カメオ出演的に登場する滝藤賢一さんの腰の低い医者と端役に至るまで絶妙な配役で、「全員主役」と言われても違和感のない雰囲気を醸し出しています。

中でも最高に楽しかったのが「色々とあって」凄まじい変貌を遂げたベッキー。ポスターでも野郎どもに交じって一番殺気を放っていますが、「色々」無かったらこのキャラは成立しなかっただろうなという奇跡のキャスティング。ヤクザの彼氏を殺され復讐の鬼と化しますが、別に彼氏を殺されていなくてもやたら強いのが笑いを誘ってきます。「勝手に死んでんじゃねーよ!」は今年の流行語大賞に入れたいくらいです。

一方でそのアンダーグラウンドの世界に首を突っ込んでしまう主演2人の繊細な演技と佇まいが光るのもこの映画の魅力。

窪田正孝さんが演じるのは幼い頃親に棄てられ、生きるためだけにボクシングをやっている天才ボクサー、葛城レオ。肉体作りもさることながら機械のように黙々とトレーニングをやる冒頭の下りからもう面白いですし、寡黙な彼の境遇を記者やトレーナー、バイト先の店長など周囲の人と合わせて語りながら積み重ねていく序盤の過程が静かながら丁寧で、後の物語にしっかりとした厚みを感じさせてくれます。今年30という窪田正孝さんの童顔ぶりに驚きますが、脳腫瘍の宣告後も含めてどこか俯きがちな面持ちが「ケータイ捜査官7」の網島ケイタを彷彿とさせ、懐かしさを感じさせてくれました。

対するヒロインのモニカ(本名:桜井ユリ)を演じるのが期待の新人、小西桜子さん。およそヒロインとは思えない下着姿で登場し、幻覚に襲われクスリを欲しがるというショッキングなファーストインプレッション。

このまた「ブリーフ一丁の父の幻覚」がまたシュールながら、やをら誰も入っていない布団が「何かが生まれた」かのように盛り上がってこれが出てくるというホラーチックな演出もあってかなり印象に残ります。

役者のインタビューによれば窪田さん曰く小西さんは「「ケータイ捜査官7」の頃の自分を思い出す」と言うようにガムシャラにこの役を演じられていたようですが、この役に終始漂う不安定感は新人だからこそ出せた味だと思います。今後に期待したい女優さんですね。

あと東映キャスティング的に個人的に楽しかったのが「轟轟戦隊ボウケンジャー」や「仮面ライダーエターナル」など特撮作品で活躍の多かった出合正幸さん。染谷ヤクザの「計画」を嗅ぎつけていた別の角度からの裏切り者というまた美味しい役でした(裏切り者ばっかりかあの組は)。

そして素晴らしかったのが、この豪華な役者陣が繰り広げるこの映画の最大級の見どころである一夜の「宴」。染谷将太がドアノブに引っかかってスタンガンを当てそこない、大森南朋が天才ボクサーの窪田正孝に殴られ(手帳を落としただけなのに…)、協力者の中国人がやたら強かったベッキーに殺されるという「計画」の綻び(と言うにはガバガバ過ぎる)から、特に関係の無かった中華ヤクザを巻き込んだ大騒動に発展していきます。

この第二幕(映画の4分の1から4分の3まで)、とにかく染谷将太さんの引っ掻き回しぶりがちょっと主演2人を食うレベルで凄まじく、突き抜けすぎて映画全体が最早コメディの領域までに振り切っていきます。

特に笑ったのが爆発する家からアクションスターばりの勢いで窓から脱出するベッキーのシーン。「こんなバカな絵面あるか!」と耐えきれず噴き出してしまいました。

そして淡々と「あ~あ、今日何人目だよ…」と出合正幸さんを轢き殺しながら呟く染谷将太さん……。シュワちゃん的な「人を殺して捨て台詞」の日本版を見た。

ハイテンションなヤクザパートに対して着実にお互いのことを知っていく主演2人。沖縄民謡で踊り出すMAD動画感のある幻覚のようなシュールな場面もありつつ、かつて住んでいた家の中に生霊のように「閉じ込められている」幼い頃の自分を幻視する場面など今度はモニカ周りの描写を丁寧に重ねていきます。ヤクザ側に比べると若干本筋側がトーンダウンしてしまうというやや歪な構成ながらも、逆にヤクザ側がエクストリームな方に行きすぎているので中弛みせずむしろ酷いレベルでバランスが取れていました。

そしてこうした積み重ねの末にカタルシスを生む、群像劇構成の醍醐味である後半の「合流シーン」。

染谷大森コンビがクスリを回収して主演2人と共に逃げ、ベッキー、内野のヤクザ勢が追跡、更にどうやら血に飢えていたらしい中華勢も参加し、物語は更なるエクストリームな領域に達していきます。あまりに崖っぷちすぎてヤケクソになっていく大森デカ、クスリで普通におかしくなる染谷ヤクザ、クスリ中毒が抜けきっていないモニカと異様なテンションのカーチェイスが繰り広げられ、舞台は真夜中の決戦場、「なんでもあるホームセンター」、通称ユニディ狛江店へ——。

ホームセンターでクライマックスと言えばデンゼル・ワシントン主演の「イコライザー」なんかを思い出しますが、ここで行われるのはヤクザの、ヤクザによる、ヤクザのための最早いくつ巴か分からない血で血を洗う大ヤクザ大会。灯りのついていない直線の狭い通路だらけのホームセンターという最高に視界の悪い空間での戦いは非常に緊迫感がありましたし、青龍刀やショットガン、クスリのお陰で撃たれても痛くない染谷ヤクザなど楽しい出し物が目白押しで楽しい辺りです。

そんなヤクザ(と刑事とベッキー)達が命を散らす中、ここで主役であるレオに起こる反転こそがこの映画のある意味で本当の見どころ。「実は前提としていたものが違った」というのはまあ映画の世界ではよくあることですが、「ここまで来てそれ言う⁉」というタイミングでの誤診通告と、滝藤さんのすご~く申し訳なさそうな声……w(しかも留守電で何件も)。

これ以上ヤケになる理由がなくなったにもかかわらずモニカの手を離さず、「死んだ気になればなんだってできる」と自分に言い聞かせるレオ。それに対しかつて自分が追い求めていた「高倉健」を感じ見逃す中華陣営のお姐さん。そして深手を負いながらもレオ達を逃がし、朝日を浴びながら死んでいく内野さん演じる「高倉健」、権藤さん……。

そして文字通り「夢のような」一夜を乗り越えたレオとモニカ。モニカはかつての幼馴染、そしてクスリに別れを告げ、レオは序盤とは打って変わってボクシングに全霊を賭け、泥臭い勝利をトレーナーと分かち合い、最後は2人が同じ部屋のドアを閉めるところの遠景で終わるのでした。


かつて日本のメインカルチャーに間違いなく名を刻みながらも、今は無きもののように扱われなんならバカにされている感すらある日本の残酷・残虐な任侠映画群。

東映が作っていたような「高倉健」は消え、ヤクザもまた時代の波に乗って消えていく世の中で、この映画は「仁義」という概念を敢えて掘り起こし、それをこれまで担ってきたヤクザ達には刹那的な死のカタルシスとして、レオ達のような望まずその世界に足を踏み入れかけた者にはこれからの生に向けた一種の啓示として与え、結果として普遍的な哲学に読み替えてしまうという、かなり面白い目線を上手く提供できていたと思います。

それでいてコメディというかスラップスティックに笑えるシーン、窪田正孝さん目当てに若い人が来られるよう設定したであろうPG12の範囲内で可能なギリギリの表現(実際鑑賞した回は女の子が結構いました)にもかなり挑戦的で、エンターテインメントとして衒いが無く楽しめる部類の映画でした。

やたら多いパトカーなどリアリティのレベルを適度に下げてくれる演出がまた意図的に挟まれており、終盤車で駐車場から飛び出すというマンガみたいな絵面はまさかのアニメーションで表現するなど、非常に自由にアイデアを盛り込んだ感じがまた新鮮な喜びを与えてくれ、終始笑いながら観ていました。

不満点を述べるとすれば内野さん演じる権藤さんの最大の見せ場、中華ヤクザの片腕のワンのボス対決がカメラワークのせいなのか妙に見辛いであるとか、権藤さんが「実はレオのことをボクサーとして知っていた」と明かされるところの唐突感などちょっと勿体ないと感じるところが特に終盤にありました。

ですがエンターテインメントとしては本当にアガりやすい構成になっていますし、それでいて主人公とヒロインのラブストーリーとしてしっかりと厚みのある物語を語り切っていてしっかり感動できますし、公式が「#こんな初恋見たことない」と言っていますが、個人的には「#こんな映画見たことない」と思うほどの衝撃に当てられました。

今年観た映画の中では最初に挙げた「ジョジョ・ラビット」「パラサイト 半地下の家族」に並んでベスト級の評価になります。上映から暫く経っていますが、観に行っていない方、本当に観に行ってください!


……はい、以上が映画「初恋」の感想です。

ちょっと最近忙しくて感想書く暇が無く、ストックが溜まっていきそうな悪い予感があります。

とりあえず次回、邦画が続きますが東日本大震災時の福島原発を題材にした話題作、「Fukushima50」を既に観てきましたので、できれば軽い感想を書きたいと思います。

それでは、今回はここでお別れです。

ここまでのお相手は、たいらーでした。

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