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通訳者の勉強方法(Part 1: L/R編)

前回に引き続き、今回もTwitterで募ったテーマから一つ書きたいと思います。

ちなみにこれがおおもとのTwitter。これらのテーマを今後書く予定。

これが前回の記事「英語の専門職になるためには」です。

さて、今回のテーマ「通訳者の勉強方法」・・・。このタイトルを見て、「メモの取り方とか、通訳技術の取得方法が書いてあるに違いない!」と思った方もいると思います。

ごめんなさい、違うんです。ここでは通訳技術については全く触れません。通訳技術は特殊技術なので、通訳学校に行って勉強することをおオススメします。
ここでは、通訳学校に行って感じた帰国子女との絶対的な差を埋めるために、私があの手この手で生み出した「ネイティブに近づくための勉強方法」について書こうと思います。現在通訳者として稼働していますが、当時生み出した勉強方法は今でも継続実行しています。

*長くなってしまったので
Part 1:L/R編、Part 2:S/W編、Part 3:タスク管理編
の3つに分けて掲載します。Part 2、Part 3はしばらくお待ちください!

はじめに)通訳学校での経験


通訳学校に通い始めた時の私の英語力は英検1級、TOEIC975点…自分ではもう天下を取ったような気分だった。でもいざ通訳学校に入ってみると…オーマイガーッ!なんと、クラスの中で自分が一番英語のできない生徒だった。
英検1級程度の英語力では帰国子女ばかりのクラスメイトの中では全く太刀打ちできない。というか、自然に身に付けた技術と苦労して身に付けた技術の違いって感じ?
クラスメイトは生まれながらの人魚で、自由気ままに泳いでいる。一方私は、畳の上でビデオを見ながら泳ぎのフォームを必死に練習し、週に1回1時間プールで泳いで訓練しただけの、ナンチャッテ人魚なのだ。泳ぎの自然さ、優雅さが違うのは言わずと知れていた。

なので、通訳学校では私は常に落ちこぼれ。Listening、Speaking、Writing、Readingの全ての技能で間違いなくクラス最下位だった。
そんな私が帰国子女レベルで行われる授業にしがみついて行き、落第することなしに次のレベルに上がって行くために実践した勉強法、また通訳学校を休学した後もより良い通訳者を目指して継続実践している勉強法を、一番効果があった方法に絞って紹介しようと思う。

1)L:リスニングを伸ばすには ⇨ メモを取る

通訳学校の授業はメモ取りから始まる。英語音声を聴いてメモを取り、それを見ながら和訳する。それが英日逐次通訳の基本だ。
私は英日逐次が苦手だった。理由は簡単。課題の英語音声が何を言っているかさっぱりわからなかったからだ。
先生は生徒ができない理由はメモ取りの技術がないからだと思って、メモに使える記号なんかを教えてくれる。
「違うんです、先生!私には英語が何言ってるか聞こえないんです!チンプンカンプンなんです〜!」
そう叫びたかったが、自分の英語力のなさを暴露しても、下のレベルのクラスに降格させられるだけだ。
それで私は「英語は完ペキに聞こえてるけど、メモ取りがメチャクチャ下手な生徒」を演じることにした。実際にメモ取りも下手だったので、演技するのに苦労はしなかった。でも、そうは言ってもリスニング能力は全然上がらない。「困ったなあ〜」と思いながら季節は春から夏になり、通訳学校も夏休みに入った。

夏休みには夏季特別レッスンがあった。日米ハーフの先生による「日英逐次通訳特訓」をとりあえず受講。
日本語も英語も完璧なバイリンガルの先生が、日本語から英語への逐次通訳のデモンストレーションをやってくれた。メモを見ると、記号などは一切なく、ぎっしり英語が書き込まれている。
「あ、この先生は日本語を聞いた時に英語でメモを取るんだ〜。日本人が英語を聞いて日本語でメモを取るのと同じだな〜。」
ここで何かが閃いた!のであればカッコイイのだが、別に何も閃かない。「入力言語と出力言語をメモ取りの時に切り替えるんだな〜」と思っただけだった。

夏休みが終わった。相変わらず英語は聞こえない。私は相変わらずもがいていた。
「英語を書くより日本語を書いた方が楽だし、あのハーフの先生の逆真似をしてみよう!」と思って英日逐次のメモ取りを日本語でするようになった。すると、英語を聞くことよりも、意味を捉えることに集中するようになる。英語を一生懸命聞いていた時は「今の前置詞なんだった?聞こえなかった〜!」とパニクっていたのが、意味を理解することに一生懸命になると、前置詞がなんであろうと構わなくなってきた。

すると…ジャジャ〜ン!何ということでしょう!気がつけば、英語のリスニング能力が爆上がりしていた。その理由は、推測だが、意味を取ろうとすると耳が必要な情報だけは何としても聞こうとするからだと思う。結果として、聞こえなかった音も脳が補って意味が通るように成形していく。その積み重ねで、だんだんと全ての音が聞こえるようになるのではないだろうか。


【具体的なL練習方法:メモ取り】

●用意するもの:リスニング用音源(ノートやA4の裏紙。メモ用紙だと小さすぎる。A4やB5サイズが良い)、ペン(書きやすい黒色ボールペン。私はいつもDr. Grip)
●方法:英語音声を再生しながら日本語でメモを取る。

①音源を聞きながら、まずは意味に集中する。キーになる単語(人物や組織の名前、場所、動詞、時制、ディスコースマーカー=論理展開の目印になる言葉)を紙に大きくメモる。英語では書かない。単語はカタカナ、もしくは日本語に変換して書いていく。書いている時も、意味を理解することに集中する。
(例)スティーブ・ジョブズ スタンフォード大学卒業式でのスピーチより(以下*印の英文は同引用。省略箇所有。)
音源:Truth be told, this is the closest I've ever gotten to a college graduation.*
メモ:トゥルー 言、ディス クロ エバー カレ グラ

②慣れてきたら、全部の単語を日本語に変換してメモる。意味を理解することに集中する。
(例)①と同じ
音源:Truth be told, this is the closest I've ever gotten to a college graduation.*
メモ:真 言、これ 近 今ま 大 卒

字が汚くても、読めなくてもOK。通訳であれば後で読んで訳す必要があるが、単にリスニング力を伸ばしたいだけなら、後で読めなくても構わない。聞いたときに、日本語で意味を捉えることが大事。

③継続して練習を続けると、英語が何かと考える前に意味が入ってくるようになる。


たとえ英検1級、TOEIC満点の人でも、英語を聞いた時、意味はわかるけど日本語と比べると輪郭がなんとなくぼやけている気がすると思う。この練習方法を継続していくと、輪郭がはっきりしてくるのを実感できる。


2)R:リーディングを伸ばすには ⇨ サイトラをする

ご存知の方も多いと思うが、サイトラとはサイトトランスレーション(sight translation)の略で、英文を前からそのままの語順で訳していくことである。
通常のサイトラは英文にスラッシュを入れてチャンク(かたまり)で訳していく方法が主流のようである。通訳練習のサイトラは少し違う。通訳サイトラは同時通訳の基礎練習としておこなうので、きちんとした日本語で訳出しなければいけない。

通訳学校で初めて先生が通訳サイトラをしているのを見た時は驚いた。英文を目で追っているのに、あたかも普通の日本語の記事を音読しているかのごとく、スラスラと完璧な日本語がよどみなく出てくるのである。しかもTIMEの記事を!「有り得ない!私には無理~!」と思ったが、宿題として毎週TIME記事を3つほどサイトラする羽目になったので泣く泣く取り組んだ。

初めは同時通訳練習として始めたサイトラだったが、継続しているうちに英文を読む状態が変化してきているのに気がついた。
実は英検1級レベルになった後でも、英文を黙読しながら頭の中で音読していた。小学生の子供達が本を読む時に頭の中で声を出して読まないと理解できないのと同じ状態である。頭の中の音読を止めて読もうとすると意味がぼやけてしまっていた。

それがサイトラをするようになってから英文に突然色が付き始め、人物の動きや風の音、匂いなど、イメージが物凄くビビッドになった。黙読しても、英文の意味がしっかり入ってくるようになった。同時通訳練習のためのサイトラだったのに、思わぬ副産物でリーディング能力がUPしたのである。やった!すごいぞ西虎!西虎?

それにしてもサイトラと打つたびに西虎と出てくるのはなぜなんだろう?西虎なんていたっけ?西洋の虎と東洋の虎がいるっていうこと?ガ〜ッ!もう、嫌になってきた。間違って西虎のままになっていても、「あ、サイトラのことね」、と無視しておいてください。

閑話休題。

で、通訳練習としてのサイトラ方法を以下に示す。

(1)とにかく前から後ろに訳す

例文:I think we should wash our hands before eating dinner.
普通の和訳:後ろから前に訳す → 夕食を食べる前に手を洗うべきだと思う。
サイトラ:前から後ろに訳す → 私が思うに手を洗ってから夕食を食べるべきだ。

お分りいただけただろうか?意味は少し変わっても良いので、とにかく前からどんどん後ろに訳していくのである。
動詞はI think「私が思うに」、We have discussed「我々が検討しているのは」、 He was shocked「彼がショックを受けたのは」、と辞書そのままの訳でなくても、後に言葉が続けられるように訳していく。

(2)that節は種類によっていろいろな訳し方があるが、文が長くなる時は「次のことを~する」と一度文を終了させてから訳すとよい。
例文:She felt very strongly that I should be adopted by college graduates.*
普通の和訳:that節の中を主文の中で訳す → 彼女は私が大卒の人の養子になるべきだと強く思っていた。
サイトラ:前から後ろに訳して「次のことを~する」と一度文を終了させ、その後that節を訳す → 彼女は次のことを強く思っていた。私が大卒の人の養子になるべきだと強く思っていたのである。

他にもいろいろ訳しづらいところが出てくるが、基本的に大きく意味が違っていなければ大丈夫なので、自信を持って前から後ろにどんどん訳して行ってほしい。

では、サイトラを使った、具体的なリーディングの練習方法を以下に挙げる。

【具体的なR練習方法:サイトラ】


●用意するもの:リーディング用英文(何でも良い)、辞書(スマホでも電子でも紙でも何でも可。)
●方法:前から後ろに英文のままの語順で日本語に訳していく。

① 英文全体を一度も読まず、初見で前から後ろに訳していく。声を出して訳したほうが、最初はやりやすい。見えた単語をどんどん日本語に変換しながら訳していく。
参照:上記(1)(2)

② 知らない単語があまりにも多い時は、辞書を使って単語を調べながらサイトラをする。知らない単語が数個しかない時は、調べずに推測しながらどんどんサイトラをし、全部終わってから辞書で調べる。

サイトラの例)
原文:I didn't see it then, but it turned out that getting fired from Apple was the best thing that could have ever happened to me.*
私はそれを当時気がつかなかったが、それは結局次のようだと判明した。つまりアップルをクビになったのは最良の出来事だった。私にそれまでに起きたことの中で最良のことだったのである。


どんな英文でも構わない。ペーパーバックの小説でも、TIMEでも、有名なスピーチの原稿でも、全部サイトラで読むことができる。はじめは思った以上に時間がかかるし、頭も痛くなるが、そのうちどんどん読めるようになってくる。

私はサイトラが好きで、英検1級レベルの友人との勉強会では強制的にやってもらうのだが友人たちにはあまり評判が良くない。「いつもと違う部分の脳を使う〜」「頭が痛くなってきた〜」と、かなりダメージが大きいトレーニングらしい。
私はサイトラすると脳みそを雑巾絞りしているような感じがして、大好きなんですけどね〜。みなさんも、ぜひトライしてみてください!

Part 2:S/W編へ続く…


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