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ENGINEは日本初の取り組みになる。ー白旗和也(日本体育大学教授)×佐藤壮二郎(フラッグフットボール・筑波大学SA)対談【後編】

2019年2月、「学校という船で、未来への航海に出よう」というビジョンを掲げ、小学校の体育・音楽の課題解決と発展を目指す新プロジェクト「ENGINE」が始動。

今回はENGINEのプロジェクトメンバーである日本体育大学・白旗教授と日本フラッグフットボール協会設立委員で筑波大学スポーツアドミニストレーターも務める佐藤壮二郎氏が、「これからの学校教育」そして「これからのプロジェクトENGINE」について語った対談の後編(第3回)をお届けします!

前編・中編はこちら↓↓


”ENGINE”に関して

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(佐藤)
ここまで学校教育全般に関する話(前編)と体育に関する話(中編)でかなり本質的な議論と整理ができてきました。

白旗先生を始め、今いろいろな方が参画していよいよ“ENGINE”というプロジェクトが立ち上がったのですが、ENGINEというのは今日まさに議論してきたような日本の学校教育の課題と本気で向き合って、あるべき解決策と同時にこれからの学校教育で体育・スポーツ本来の価値を最大化できるものをみんなで作ろう!というテーマでプロジェクトがスタートしました。

ENGINEのプロジェクトがスタートして、期待していることや、関わって面白いなと思うポイントはどこだと思いますか?

(白旗)
まずは「ゴールを決めていないこと」が1つ素晴らしいところだと思います。大抵仕事というものはゴールが決まっていて、スケジュールが決まっていて、予算が決まっていて、その中でやらなければいけない。そうなると諦める事が沢山出てきてしまいます。結論が先にあるので、そこに向かっていかなければいけない。ENGINEが面白いのはそれを決めていないところ。

そうすると日本人体質で、「具体的に何をやるんですか」という話になるのですが、様々な可能性を探れるというのが、このプロジェクトのいちばん価値のあるところだなと思います。

日本の教育はすごくいろんな素晴らしさを持っているのですが、余裕が無かったり、日本の中だけにいるとその違いというのが分かりにくかったりするので、日本だけではなく広く世界を見て、日本の良さを明らかにしつつ、今までやってきた事にこだわらずに新しいものを作っていけたら良いなと思っています。

新しいものが良いとも限らず、「やっぱりこれはいいな」と再発見するというのもありでしょうしね。それも含めて、広く、そして長く答えを探しにいけるというのが、いちばん魅力に感じているところです。

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(佐藤)
ENGINEの立ち上げに際して、「何をやるの?」と散々聞かれるのですが、現時点(2019年8月現在)ではそれはまだ未定としています。考えていることがあっても、言葉にしません。それが先入観になってしまうからです。ただ今の学校で本当に求められていることが何か、また、これからの学校教育がどうなっているべきか、ということから考えていけば、必ず答えに辿りつけると思います。

白旗先生がおっしゃったように、「何をつくりたいか」、「予算はいくらか」と先に決めてしまうと、本質と向き合えなくなってしまう。きっと日本のこれまでの学校教育を取り巻くサービスはそうやって作られてしまったのだと思います。だから「これって何であるの?」と思うものもいっぱいあります。

我々は「現時点では、未定」ということを力強く自信をもって言っていて、誰が来ても意識してそう答えています。もっと言えば、それ(解決策となるサービス)がこんなに短期間で分かっていたら、とっくに展開されていると思います。

新しい何かを開発していくには、メンバーそのものも多様性を担保しなければならないし、専門的過ぎてもいけないし、素人ばかりでもいけないし、多様性と「距離」が必要です。”距離”の離れたメンバーを集めるところから、じっくりやっています。

その中でENGINEの大きなポイントは、ビジョンやコンセプトを決めるのに1年近くもの時間をかけているところです。ENGINEのモチーフは実際に様々なテーマと向き合う中で、デザイナーさんの閃きもあり「船」になりました。これは学校という場所が昔から変わらずに「ずっと動かないもの(=ずっと変わらないもの)」ではなく、わくわくしたエンジンが積まれると、船のように動き出し、子どもたちも先生方もみんなが乗って、「次の港(=未来)」まで進んでいく。そういうものを日本中の学校に届けよう!という想いが込められています。そういうビジョンづくりからじっくりスタートしているのも、このプロジェクトの魅力だと思っています。

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(白旗)
「何が良いのか」探していくこと自体が目的という感じですね。結論ありきではなく。私もここでいろんな人と関われていくことで、自分の幅が広がっていく可能性もすごく感じています。それ自体が楽しいですね。たぶんまだまだ教育だけやっていたら関わらない人も沢山出てくるのではと思います。

(佐藤)
いま音楽会社さんとも協議を開始し、新たに参画してもらっていますが、全く別の視点でアイデアが出てきますので、このまま多様なメンバーで続けていけば、世の中が想像しないものが生まれると思いますね。まとめるのは大変ですけどね(笑)。「具体的に何をやるのか」はまだまだ決めないようにしていますが、同時に「こういうことをしたい」というビジョンは明確にあるので、ビジョンに合わせた対話が出来ているというのは、仕事のあるべき姿としても正しいなと思います。

(白旗)
いまの小学生が大人になって仕事に就く頃には、3分の2の子どもたちが、いま世の中に無い職業に就くとも言われてますので、そもそも結論がいま見えている訳ないんですね。常に答えを探していく。

もしかするとENGINEは「ずっと(その時その時の)答え」を探し続けるプロジェクトかもしれません。答えが見つかったと思って港に着くと、また次の目的地が見えてきて、ということの繰り返しかもしれませんね。

ただ、未来がわからないから考えても仕方ないのではなく、「どのような変化があっても対応できる土台作り」はしっかりしておく必要があります。何事にも基礎・基本がありますからね。

(佐藤)
それが非常に健全な姿だと思うんですね。何かを学校に届けてみて、その反応を見た時に、全然違うことを感じて、また協議が始まるということもあるでしょう。 やっぱり我々社会活動をする大人も、何か問題を解くのではなく、問題そのものを発見しながら前進していくというのがとても重要だと思います。

いま日本社会は問題が山積みだと思いますが、その事はあまりネガティブな事ではなくて、問題があるから新しいアイデアも出てくるし、学校において先生や子どもたちが困っている事であっても「前向きなテーマ」として議論を重ねていきたいなと思います。

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これからのENGINE

(佐藤)
ENGINEにさらにこういう人が入ってきたら面白いな、というのはありますか?

(白旗)
両極端な人がいると良いかなと思いますね。すごく運動が得意な人もいれば、苦手な人もいる。対比になる人が入っていると面白いかなと思います。プロのスポーツ選手もいたり、全く運動が嫌いな人がいたり。人間って知っているつもりでいて、実は本当に断片でしか知らないということがあり、自分がいろんな事を知るに従って、その事に気付きます。

アフリカにいくと、子どもたちが裸足で走りまわっているイメージですが、実は近代化が進んで閉じこもっている子もいたり、体育で言えば、日本の子どもより圧倒的に「運動の苦手な子」が多いんですよ。我々のイメージでは「全員足が速い」と思っていますが、実は真逆だったりします。私もアフリカに数回通ってみて初めて分かりました。

そのように知っているつもりで、知らない事が沢山あると思います。これから答えが分かっている事であればAIに仕事を任せれば良いので、「人間はこれから何をしていったら良いか」を考えていくこと自体がENGINEの大事な役目だと思いますね。

(佐藤)
船に込めた思いは「探究」や「発見」ということです。昔マゼランが世界周航を成し遂げるまで「地球が丸い」という事は証明されなかったように、歴史的にも船は「探究心」、「好奇心」、そして「発見」や「前進」のモチーフですよね。

あとはおっしゃる通り「世界」です。これからENGINEで作るものを日本から世界に発信していきたいとも思っています。メディアでは欧米至上主義で世界から持ってきて、それにあてはめればいい、という風潮が何となく多いですが、日本から生まれるモノがこれからの世界の役に立てるはずで、むしろ世界に輸出していきたいとも思います。

また日本のスポーツ界では殆どがスポーツが得意な人ばかりですし、私のような部活動未経験のスポーツ関係者はそれだけで超イレギュラーな存在だと思うのですが(笑)、そもそも大前提としてスポーツ・体育を取り巻く環境には驚くほど多様性が無いとも言えます。

(白旗)
スポーツ界だと、同じ文化を持った縦系列の中で、なかなか踏み出せない。しかし、スポーツのルールは毎年のように変わっていたり、協会によってはそのスポーツの経験者でない人をあえて幹部に抜擢する動きも出てきていますが。


(佐藤)
学校でも、大学でも、省庁でも、先輩・後輩を気にしながら議論をしているシーンがありますよね。そういう中からだと、結果として政治的に配慮したサービスしか創れないと思うのです。

しがらみ無く、我々がファシリテーターの役割を担うことで、多様な力が組み合わさり、「こんなものが出来た!」ということを通じて、日本にポジティブなニュースや、小学校に新しいワクワクしたエンジンを届けられるようにしていきたい。

ちょうど1年後くらいに「すごい島が見えたぞ!」となることを目指して、それまではいろんな仮説を立て続けていきたいなと、それくらいのスケジュールで考えています。

(白旗)
それくらいアバウトでないといけませんね。「締め切りまでに急いで原稿を仕上げる」ようでは良いものは出来ないでしょう。

(佐藤)
急いだ瞬間にエネルギーが小さくなります。今後ファウンディングしていく中でも、それが分かっている人と出会わないと、「お金出してるんだから、こうしろ」と言われてしまえば、そこで終了ですので、その事にはものすごく時間をかけてコミュニケーションしています。ぜひENGINEを成功させたいなと思います。

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”ENGINE”という名には3つの意味が込められている


(佐藤)
ENGINEは勿論①「船=(学校)のエンジン」「子どもたちや先生の動力となるエンジン」という意味もありますが、語源がラテン語で②「生まれながらの才能」。つまり、「その子が生まれ持った個性はそのまま大切に育てていこう」という隠れた意味があります。そして、最後に日本語との掛け言葉で③「円陣」。みんなで創り上げよう!というメッセージを込めています。

(白旗)
やはり日本人は凄いと思います。日本人だからできること、日本から世界に発信したこと、日本の誇れる文化・・・そうしたことに日本人が自信を持って、さらに新しい事に進んでいけるような、そういう日本人を育てるためのENGINEになりたいですね。

(佐藤)
そうですね。やっぱり小学校の授業が変わると、小学生が変わり、地域社会も変わっていく。そして若き人材は国の財産でもあり、国が変わっていく希望にも繋がっていきます。

大人や社会が黒子となって次の世代の子どもたちに、自信と生きる力をプレゼントしていくため、今まで教育に関わってこなかった人にもどんどん加わって頂き、ENGINEプロジェクトをドライブしていきましょう。

文=櫻井義孝、写真=栗原論

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白旗和也(しらはた・かずや)/ENGINEプロデューサー(体育)
日本体育大学教授。1963年生まれ。小学校教諭、教育委員会、文部科学省スポーツ青少年局教科調査官、国立教育政策研究所教育課程調査官を経て、平成25年4月より現職。文部科学省では「小学校学習指導要領解説体育編」「幼児期運動指針」の作成に携わる。現在は、日本体育大学スポーツプロモーションオフィス・オフィスディレクター、JICA(青年海外協力隊)技術顧問(体育・スポーツ部門)、日本フラッグフットボール協会理事、世田谷区体力向上・健康推進委員長、日本体育科教育学会理事なども務める。
元々は高校野球の監督を志していたが、大学在学中に体育教育の重要性に気付き、小学校教諭に。現在は運動が得意でなかった教師でも自信を持って体育を教えられるようになる事を目指し、「小学校体育における教師効力感に関する研究」をテーマに研究を進める傍ら、日々、大学の職務の合間を縫って、全国で研究会等の講師を務める。また、ここ数年は、アフリカにおける体育普及に取り組んでいる。

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佐藤壮二郎(さとう・そうじろう)/ENGINE チーフ・プロデューサー
(公財)日本フラッグフットボール協会の設立委員/事務局長を経て、筑波大学アスレチックデパートメントスポーツアドミニストレーター。現在は大学におけるスポーツ改革、小学校教材の流通改革に参画するなど、社会起業家として活動を広げている。

幼少期に肺活量が弱く、持久力を前提とした部活動に参加出来なかった経験から「運動の苦手な子どもたちにもスポーツで成功体験を届けよう」と2008年IT商社を退職し「日本フラッグフットボール協会」を立ち上げ。公益財団法人化や新規事業開発と共に大規模な小学校向けのパートナーシップを次々に実現、全国6,000校以上の小学校の授業実践に貢献した。2020年から新・学習指導要領本編にフラッグフットボールが登場する。「次世代のためにスポーツ本来の価値を解放しよう」が活動のテーマ。

【了】

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