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さかさまのあさ『ししゅう#2一聖夜にまつわるエトセトラ一』 クロスレビュー

 まだ、無名の劇団の知名度向上のため公演を観に行き一人10点満点でクロスレビューをするこの企画。本編としてはようやく3回目。

今回取り上げるのは2018年結成、さかさまのあさ
多摩美術大学出身で【世界はなるべくシンプルに。想像力を最大限に活用する。】をテーマに作っている劇団である。
今回は、クリスマス短編集公演をとりあげる。

   さかさまのあさ『ししゅう#2一聖夜にまつわるエトセトラ一』
       作・演出:宮田みや/宮越虹海
       会場:新宿44ファンタジーホール
    出演:伊藤みさこ、宮越虹海、大西彰子、みきゆずか、満
             あらすじ
サンタは親なのではないかと気づいた少女と妙なリアクションをする親「サンタクロース失格」、
サンタを派遣する仕事の悲哀「ジングルコール」、
聖夜にまつわる朗読「さかさまのゆめ」、
ケーキをめぐって心の天使と悪魔が争う「チョコ・ショート戦争」、
突然天井から天使(本物)が落ちてきた「天使が街にやってきた」。
聖夜にまつわる短編集。

レビュワーは平井寛人、公社流体力学の二人です。

●平井寛人(FUKAIPRODUCE羽衣・尾鳥ひあり)
 クリスマスから連想される事柄をモチーフに、全体的にはコメディ味を濃くして、(客観的には)少女性の強いポエジーを剥き出しのまま舞台に載せる短編集と私は解釈して観た。キャストさんの佇まいが魅力的で、良い意味で単にキャラクターものとして観ても充分たのしめるのは、団体の強みだと思った。老若男女隔てず舞台を開くには随所で若く排他的なジョークが先行して置いてけぼりにされる印象も持ったけれど、冷静に整理されて発表されているように感じられる瞬間の輝きには確かなセンスを感じたので、自分たちの中にある確かな感覚をこれからも信じて進んでくれると嬉しい。中でも『ジングルコール』~『さかさまのゆめ』の流れが私は特に好きだった。

 ただ単純な好みというところでいうと、話が展開して意外な設定が明らかになる時にぬるっと流れてしまわないような気持ち良いキメがあったり、サンタクロースや天使というところで常識的・表面的なイメージだけではなく独自の解釈がもう少し投影されていたり、観客をより信用しつつ更にシビアになってくれると本作の良いところを伸ばしつつ観劇としての満足感はぐっと高まると感じた。全体的にいたずらに少女のジョークが際立って進行するシーンは、完全に他人な私のような人間はついていけないので、部分部分、老婆心でいうと少し批判的に省みてから世に出してくれると団体による舞台の商品価値というところでは向上するのではないかと感じる。
総合して、好き度は
7点

公社流体力学(美少女至上主義者)
 
会場の白い空間を生かしたファンタジックな作品。少女のクリスマスに対する想像力をそのまま具現化したような作品。この内容が児童文学で出てきても違和感ないなと思う、イノセントな魅力がある。多摩美出身だけあって全体的なクオリティに瑕疵はなくバカコメディ、社会人の苦しみ、不思議ファンタジーとテイストの違う話を一つの空気でまとめるのは上手い。OPシーンも如何にも幻想的で良い。
 また、短編の間にポエトリーリーディングの「さかさまのゆめ」や作者の言葉を挟み込んだりする構成は飽きさせない努力を感じて好感。
 しかし、短編ごとに出来のばらつきがある。最初の「サンタクロース失格」と最後の「天使が街にやってきた」は良いが、「ジングルコール」や「チョコ・ショート戦争」あたりはアイデア以上の物がない。短編だからこそ、ワンアイデアでは成立しない。どう展開するんだろうの前に終わっちゃうから。それに、間に作者独白を挟んでいるとはいえ天使の話が2つ続いているのはちょっと幅がないかなと。聖夜縛りでももっと題材あるし。
 また、「失格」もシルバニアの妙な商品名とか、サンタは親だったという展開から急に少年漫画みたいなバトルシーンに入る熱血馬鹿とか面白いけど、もっと笑いが起きてもいいのに少なかったり、笑いが起きなかったりした。笑わせる部分は役者の濃い個性を生かさないといけないが、役者がおとなしすぎる。まず、個性のない俳優はこの世に存在しないので演出が俳優を生かし切れていない。間違いなくこの劇団は優等生で丁寧にセリフを言うことを大事にしているが、残念ながら面白いセリフというのは丁寧に言うだけでは笑いは生まれない。ある種の破綻、優等生がその瞬間だけ破綻することで推進力が生まれる。
 ただ、優等生だったからこそ最後の話は良かった。過去の痛みを天使との出会いが癒していく。オーソドックスなのだが丁寧に優しく作る演出。素直に良い話だなぁと感動できた。
 さて、点数は出来不出来トータルバランスで今後に期待ができる普通の劇団の点数。
5点 

 
という訳で20点満点中12点。
本編クロスレビュー最高得点。(まだ3回目だけど)
優等生が作品を重ねるうちにどう成長していくのだろうか。

執筆者の紹介


平井寛人
(演出家、脚本家、作曲家。尾鳥ひあり主宰。FUKAIPRODUCE羽衣所属。普段は、事態が膿んで膿ませてぐっじゅぐじゅになったところから思うままにやってみる、というテーマで表現活動をしている。佐藤佐吉演劇祭初のショーケース「見本市」、バーで行う演劇ショーケース「
劇的」のプロデュースも行っている。)

公社流体力学
(2015年旗揚げの演劇ユニットであり主宰の名前でもある。美少女至上主義啓蒙公演を行い、美少女様の強さを知らしめる活動をしている。やってることが演劇かどうかは知らんが10代目せんがわ劇場演劇コンクールグランプリ。来年、新作『ミッシェリーの魔法  -1928年、ラジオジャック-』(原作:萩田頌豊与@東京にこにこちゃん)をやります。
note

演劇クロスレビューは執筆者を募集しております。東京近郊在住で未知との遭遇に飢えている方を求めております。(一銭にもならない活動ですので、その点はご了承ください)


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