第1180回「養生の基本は五つ」

先日、一般社団法人 統合医療チームJIN の皆さんと久しぶりにお目にかかることができました。

諏訪中央病院に勤めておられる須田万勢先生を中心にしている皆さんです。

須田先生が注目されている「養生」とは何か、統合医療チームJINのホームページには、 「「養生」を一言で表せば、「与えられた命を最大限に輝かせて生きるために、いかに生活するか」です。

養生ルネッサンスというセミナーを始められたのですが、それは須田先生ご自身が体調を崩された経験があるからだそうです。

医師として十二分にはたらきながらも、ホームページの記述によると、「寝ても疲れが取れない身体を、濃いコーヒーで無理やり覚醒させて朝のカンファレンスに臨み、ストレスを抱えては医局のお菓子をほおばり、昼食後はコーヒーでも対処できないような眠気と必死に格闘する。しょっちゅう風邪をひく、ふと気づけば大量に生えてきた白髪、足には水虫。

私はある時呆然として思いました。俺は、このままでいいのか。」

そこで、須田先生は「私は自分で自分の身体を復活させるために、人知れず勉強を重ねました。

東洋医学の専門家を訪ねてアドバイスを受け、また学生時代の東洋医学研究会の知識を動員して生活に活かしました。Amazonで健康関連の本や食事関連の本を読み漁り、そのエビデンス(科学的根拠)を調べました。」

と書かれています。

「そうして一年後、私ははっきりと「元気」になっていました」という体験をなされました。

「では、なぜ私は元気になれたのでしょう?」と須田先生はホームページで問い掛けています。

「それは、結局「生活」だったのです。病気になれば病院に行けば良いかもしれません。

でも「病気でないけど何かおかしい」人は病院に行っても相手にされません。医療の前に生活がある。当たり前のことです。

生活の中でも、食事、運動(ここには姿勢、歩行、丹田の鍛え方なども含みます)、呼吸、睡眠、思考という5要素は、自分の意志で変えられ、また変えることによる効果が高いものです。

この5要素に対するアプローチを、養生の基本に据えました。」

というのが、須田先生が「養生」に注目された経緯なのです。

更にホームページには

「ルネッサンスとは、本来、「再生」「復活」を意味します。

「養生ルネッサンス」は我々の造語ですが、現代において養生法を学び、実践することで、自分の中に眠っていたエネルギーが再活性化し、生命が復活するのを感じてほしいと思ってこう名付けました」

と書かれています。

社団の目的として、

1. 人間の可能性を引き出す「養生」を提案し、世界に発信する。

2. 人間に関わるあらゆる職種が、垣根を超えて知恵を出し合うための共通基盤を創生し、古今東西の医療の橋渡しをする。

3. 統合医療を医療のリベラルアーツと定義し、自由と責任を持ってその発展に寄与する。

ということがホームページにも掲げられています。

そうして二〇一九年の四月に第一回のルネッサンス講座が開かれたのでした。

その年の八月に、私も頼まれて講義をしたのでした。

須田先生を中心に、鍼灸師、指圧師、歯科医などの方々が集まって、病気にならないように「養生」について学んでいたのでした。

二〇一九年八月に都内において、「養生ルネッサンス講座」今こそ学ぶ本当の禅という題で講演したのでした。

この題は、主催者が付けたもので私の付けた題ではありませんでした。

そこではじめに申し上げました。

「だいだい自分で本当の禅などと言っているところにまず本当の禅はありませんでしょう。
本物は、自らを本物とはいいません。」

「もし本当の禅とはどんなものかと問われたらこんな会場にいないで早く家に帰って電気を消して眠ることでしょうね」

と話し始めたことを覚えています。

夜の七時から九時までの講座だったのでした。

養生ルネッサンスでは

養生の五本柱として、

一、食事
二、整体
三、呼吸
四、睡眠
五、思考

を揚げられています。

『天台小止観』には調五事ということが説かれています。

以前、小欄でも紹介したことがあります。

調食=適度な食事をとること
調眠=適度な睡眠をとること
調身=身体を調えること
調息=呼吸を調えること
調心=心を調えること

の五つです。

令和の時代の若い医師たちが辿り着いた結論と、天台智顗という六世紀の僧が説いたこととほとんど一致しているというのは実に興味深いものです。

その年の秋には、円覚寺で実際の坐禅実習も行ったのでした。

二時間の講座のうち、一時間は座学で、坐禅は何の為にするのかなど、講義をしました。

次の一時間は、実習で、私が坐禅指導を行いました。

普段、円覚寺で私が直接坐禅指導をする機会は、ほとんどでありません。

その会に集まる方々は、社会の第一線で働いている人たちですので、ただ単に足を組んで、痛いのを我慢してじっと辛抱するだけの坐禅では、あまり意味が無いかと思って、私なりに工夫してみて、禅を「行住坐臥」に分けて実習してみたのでした。

まず、はじめに五分ほど、足首をほぐし、足の裏を自分でマッサージして足の裏の感覚を取り戻してもらうようにしました。

そして、「行」は、歩くことを行いました。

十五分ほど、歩行禅を行いました。前半は足の裏の感覚だけに意識し集中して歩くことを行い、次に呼吸に合わせて、息を吸って足を上げ、息を吐いて足を下ろすということに意識にしてゆっくり歩くことを行いました。

終わった後の感想では、この歩行禅が良かったという声が多かったのでした。

次の「住」は、立って行う「立禅」を十分間行いました。

仙骨の運動をして姿勢を正して、ただ「立つ」禅です。

その時に足の裏を意識して、足の裏から息を吸って吐く「足心呼吸」を実習しました。

それから「坐」、はじめの「坐」は椅子禅を実習しました。

椅子に坐ることがほとんどの皆さんですので、椅子に坐って腰を立てて、呼吸法を実習しました。これを約十分間行いました。

そして「臥」、仰臥禅、横になって、床に身をゆだねて、全身を脱力させるように、ガイダンスを行いながら、静かに十分間横臥しました。

それらを終えて最後の十分間で、座布団に坐って、丹田呼吸を行いました。

いわゆる「坐禅」です。

身体の中にたまった、様々な感情や知識や、悪いものをすべて息と共に吐き出し、きれいな空気をお腹までいっぱいに吸い込むという呼吸を実習しました。

調べてみると、そんなことが記録に残っています。

もう五年前の事でありますが、そんな頃から、やはりイス坐禅を取り入れていたのでした。

そののちすぐにコロナ禍となってしまい、しばらくセミナーなどは開催できずにいたのでした。

今後どのような取り組みをしてゆくのかいろいろ考えを拝聴しました。

また出来ることがあればお手伝いさせてもらいたいものです。

養生の基本が、一、食事。二、整体。三、呼吸。四、睡眠。五、思考の五つ、それは調五事、即ち調食、調眠、調身、調息、調心に通じるのであります。
 
 
臨済宗円覚寺派管長 横田南嶺

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