第1182回「熱意が道をきりひらく」

「熱意が道をきりひらく」、

先日ホトカミの吉田亮さんにお越しいただいて、円覚寺でご講演してもらい、そのお話を聞いて思った言葉です。

ホトカミというのは、2017年4月に公開した神社お寺の投稿サイトであります。

「ホトカミ」は、今や毎月100万人以上の神社寺院・御朱印ファンが集うサイトになっています。

公式寺社も1480件を超えています。

円覚寺も入っています。

その「ホトカミ」を立ち上げた、吉田亮さんにお越しいただいて「100年後にお寺を残していくために」という題で、二時間講演してもらったのでした。

三月の下旬は雨が多かったのですが、吉田さんにお越しいただいたその日は、実に晴れたよいお天気でした。

まさに明るい吉田さんのお人柄をそのまま表しているようなお天気でありました。

二時間のご講演に質疑応答も四五分もかかるほどの熱意のこもった講座となりました。

終わったあとに控え室で、吉田さんから、そもそもどうして自分を講演に呼んでくれたのかと聞かれました。

咄嗟に答えたのは、「おもしろうそうだから」ということでした。

吉田亮さんという方が実におもしろそうだからお願いしようと思ったのでした。

私にとって「おもしろそう」は、最も大事なことなのです。

それから、なんといっても吉田さんの明るさが素晴らしいからなのです。

若い修行僧達には、今の時代あまり希望の持てる話が少ないのです。

これから先お寺の何割かが消滅してしまうなどということも耳にするのです。

暗い顔して暗い気持ちでいては、行く先も暗くなるのは当然であります。

吉田さんにこれから希望の持てる明るい話をしてもらおうと思ってお願いしたのでした。

修行僧達と、最近修行道場を出たばかりの若手の和尚様方にもお声を掛けて、開催したのでした。

二時間にわたるご講演は素晴らしいものでした。

まずなんといっても感じたのはその熱量であります。

声もよろしく、リズムもよろしく、あっという間に二時間が終わっていたという感じでありました。

その日は、吉田さんは和服でお越しくださいました。

このお姿を拝見しただけで、講演に臨む気概を感じました。

若い修行僧に聞かせてあげたいと思って開催したのですが、私自身が最も聞くべきお話でありました。

ホトカミさんの素晴らしいところは、神社お寺の情報サイトなのですが、決して悪いことは言わないようにしていることです。

ご講演でも、ホトカミで素晴らしい成果をあげた事例をいくつも挙げてくださいました。

最寄りの駅からでも歩いて一時間半もかかるような神社でも、ホトカミで情報を発信するようになって、参拝者が増えた神社のお話もありました。

また「ホトカミ」がご縁になってお詣りしていた二人が結ばれて結婚したという話もありました。

お寺でもご祈祷が増えたりした例がありました。

今回のテーマは一〇〇年後お寺を残してゆくためにということで、まず吉田さんから参加者に質問がなされました。

一人ひとりに聞いてゆかれました。

聞いているといろんな答えがありました。

まずは自分がお寺を継ぐこと、まずお寺を好きになること、時代の流れに遅れないこと、日本の文化を大切にすること、まずお寺を信じること、吉田さんのような熱意が大事だということ、自ら喜んで取り組むこと、などなどの意見がありました。

私は、一〇〇年という長い先のことは分からないけれども、残るべく努力しているところは残るし、残らないところは仕方がない、インドでもお釈迦様の仏教は滅んだのですからと申し上げたのでした。

吉田さんは、やはりお寺に足を運んでお参りする人が増えることが大事で、人が集まるから経済的にも成り立ってゆくので、一〇〇年後も残るようになると仰っていました。

ただし、私が述べたように、これからの人口減少の時代には、残らない寺も出てくるので、記録をしっかり残しておくことが大事だと仰っていました。

しっかりした記録を残しておけば、将来また再興されることがあるというものです。

御朱印について私もいろいろ学び直すことができました。

御朱印を一度でも受けたことのある人というのは、二〇〇〇万人もいらっしゃるというのは驚きでした。

一年に一回以上お寺や神社に参拝する人は、なんと七二〇〇万人もいらっしゃるのです。

一般の人がお寺について求めている情報の量を一〇〇とすると、今お寺が発信している情報の量は1くらいしかないというのが吉田さんの見解でした。

これには驚きでした。

まだまだ発信の量が足りていないことを学びました。

それから参拝する人が増えるお寺の共通点というのが、参拝者との会話があるということでした。

御朱印を書くにも、やはり少しでも会話があると違うというのです。

会話はそんな難しいことでないのです。

「よくお参りされるのですか」とか「今日は車で来られたのですか」とか「御朱印帳がかわいいですね、どちらのものですか」とか「今日は雨がひどいですが、道中だいじょうぶでしたか」という何気ない会話が大事だということです。

それからネットの情報のない寺社は、存在しないのと同義だという、ある方の言葉も紹介されていました。

もっともこれはこれからホトカミなど、情報発信を伝えるための講座なので、こういう言葉を伝えてくれたのであります。

情報発信を通じて御朱印や坐禅写経などに見える方が増えて、会話を通じてご縁を深めて、長期のファンが増えていくということです。

情報発信にはホームページ、Facebook、Instagram、Twitterなどがあります。

それぞれ長所短所があるそうで、ホームページは名前を知っている人だけにして見てもらえない、Facebookは登録済みの方の三割くらいだし、Instagramは写真がないと投稿できないし、Twitterは情報が流れてしまうことなどがあるそうです。

そこで吉田さんは、どれも利用すべきだと仰っていました。

その頻度については、週に一回を目指そうということでした。

情報発信することで、する方も気づきが増えるのだと仰っていましたが、まさにその通りで、私も毎日文章を書くことで、いろんなことに気がつくようになりました。

また一般の方々の声として「お坊さんはこわい、神主さんはいない」という言葉も印象に残りました。

禅宗では特に修行時代厳しい顔で修行しますので、「こわい」と思われることに反省させられます。

笑顔でちょっとした会話をするというのがとても大事なのです。

御朱印もかつては一過性のものではないか、或いは単なるスタンプラリーではないかなどの声もあったのですが、これだけ多くの方が続けていると、ひとつの御朱印文化と言えるとのことです。

その御朱印を通して教えや歴史などを伝えることもできるというのです。

毎月禅語を御朱印にしているお寺もあるとのことでした。

御朱印の対応が難しいというお寺には、時間を絞って、何日の何時から何時まで対応できますと知らせておくというのも可能とのことでした。

ともあれ、更に情報発信の重要さと御朱印の意義など新たな気づきをいただくことができました。

それから笑顔とちょっとした会話の大切なことも改めて学んだのでした。

ホトカミからは西脇唯真君もお見えくださって、サポートしてもらいました。

有り難いご縁でありました。
 
 
臨済宗円覚寺派管長 横田南嶺

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