第1260回「まっすぐに立つ」

先日、呼吸法アドバイザーの椎名由紀先生にお越しいただいて講習を受けていました。

毎回テーマを決めて下さるのですが、今回は「姿勢」でした。

「姿勢」ほど大事なものはありません。

「姿勢」を『広辞苑』で調べてみると、二つの意味があります。

①は「からだの構え」です。

「正しい姿勢」「不動の姿勢」「姿勢を崩す」という用例があります。

それから②に「事に当たる態度」という意味があります。

「政治姿勢」「前向きの姿勢で検討する」という用例があります。

この①のからだの構えと、②の事にあたる態度は通じています。

からだの構えができていないと、事にあたる態度もできません。

お互いの人生は、いろんな事にあたる連続であります。

どんなことにあたるにもやはりからだの構えは重要であります。

私もイス坐禅の研究などを通じて、呼吸を調えるには姿勢が大事だとつくづく感じています。

逆に姿勢さえ調えば、呼吸は自然と調ってくるものです。

それだけに姿勢は簡単なようで難しいものです。

今回はじめにしゃがむ姿勢をとりました。

しゃがむというのが、できない人もいるのであります。

かつては和式のトイレが当たり前でしたので、誰でもできたものです。

このしゃがむという姿勢がまた良いのです。

どうよいのかは、椎名先生と私の共著である『ZEN呼吸 「健康」は白隠さんから』に書かれていますので、引用します。

「和式便所の効用」として書かれています。

これは「上半身の力が最もゆるみやすい」もので、「和式便所」のスタイルです。

椎名先生は

「この姿勢を取ると、足腰がしっかりと使われ、上半身が脱力します。

しゃがむことによって太腿が大腸を押し、上半身はゆるんでいるので自然と腹式呼吸ができて、横隔膜が下がることでも大腸を動かします。

つまり、この姿勢を取るだけで腸の蠕動運動が自動的に行われるため、どうしたって便秘は解消します。

さらに、この姿勢は下半身をしっかりと使う姿勢なので、寝たきり防止のための足腰強化トレーニングとしても有効です! できない人は要注意!!」

と書いてくれています。

しゃがんで踵がつかないのは、ふくらはぎと足の裏が原因だと教えてくださいました。

立つ姿勢は難しいものです。

よい姿勢になると、どうなるか椎名先生は『ZEN呼吸』に

「頭頂、耳の付け根、肩峰(肩の付け根)、大転子(大腿骨付け根の曲がった突起部位で、もも横から触れられる骨)が一直線に並び、大地と垂直になっています。

これが、重力に逆らわない自然な姿勢です。

上半身は脱力してゆるみ、下半身はドッシリとします。

土台となっている下半身に、上半身はふわりと乗っているだけ、また頭部も、脊椎のトップに紙風船のように優しく乗っているだけ、どこにも負担をかけず、重力に従うだけの柱のような姿勢で、コリや痛みもありません。」

と説かれています。

こういう姿勢を作りたいものです。

今回、くるぶし、大転子、肋骨の下、肩の付け根にシールを貼って、橫からお互いに見てもらうようにしました。

なかなか一直線にゆかないものです。

どこかにゆがみがあるものです。

肋骨が後に傾くことが多いようです。

そうすると身体のあちこちに負荷がかかってしまいます。

頭が前へ出ているため、首や肩がこってしまいます。

肋骨が後ろに傾いていることにより、内臓を潰してしまっています。

そして後傾している肋骨をなんとか支えようと、太腿の前の筋肉にも負担がかかり、前腿がパンパンに張ってしまっています。

腰もつらそうになります。

椎名先生は「姿勢が悪いということは、身体の一部分に負荷がかかるわけではありません。どこか、ではなく、全体の、大元のバランスを崩してしまうのです。」

と説かれています。

「また呼吸の観点から見ても、首が傾いていることによって気管が閉塞し肺も圧迫され、これでは深い呼吸はできません。常に身体にストレスがかかり、わざわざ自分の身体を傷めつけているようなものなのです。」

ということになってしまいます。

ではどうしたらよい姿勢になるのか、今回も丁寧に指導してもらいました。

『ZEN呼吸』にあるまっすぐ立つ方法を椎名先生の文章から引用させてもらいます。

「まずは、両足を腰幅(肩幅ではありません!)に開いて、両足の人差し指が平行になるように立ちます。

足の向きが外側に開きがちな人が多いですが、人差し指は体の向きに対して垂直にします。」とあります。

これをすると、なにか内股になったような気がするのですが、この足が土台となるのです。

そして「次に、膝をしっかりと曲げ、足裏全体をべたりと大地に着けます。

この時、膝が内側に入らないよう、膝頭の向きにも注意しましょう。

そこから頭頂を天に向かって引き上げ、膝がピンと張る手前でストップ。

常に膝は軽く緩んで、足裏全体に体重がのっている状態をキープします。」

というようにします。

それから仙骨を立てるのです。

椎名先生の手順では、

まず「仙骨に手を当てます。

やはり中指の指先が仙骨の下部に当たるように、掌をぺたりと仙骨に沿わせます。」

それから「その状態で、お尻だけをプリッとヒップアップ(出っ尻に)させます。

わざと骨盤を前傾させるのですが、この時、上半身や膝は一緒に動かないで、骨盤だけが動くように気をつけましょう。」
というようにして仙骨を調えてゆきます。

その状態にしておいて更に「鼻から静かに息を吐きながら、中指の指先(仙骨下部)を、テコのようにゆっくりと前に押し入れ、仙骨を立てます。

自然と下腹部(臍下)が締まったのを確認したら、仙骨に当てていた手をほどきます。」
ということなのです。

たったこれだけなのですが、新しく入った修行僧には難しい者もいました。

なかなか骨盤が固まって動かないことも多いようです。

それから

「次に、肋骨を真っ直ぐに立てます。 みぞおちに軽く指先を当て、あえて胸を張ります。

肋骨が後傾しているこの状態を、 わかりやすいように、正面や斜め前からも見てみましょう。

自分は「胃が出ている」と思っている方が多いですが、胃は勝手に出てきたりしません!

それは、肋骨下部を自分で前に突き出し、胸を張り過ぎている、それだけのことなのです。

そこから、息を静かに鼻から吐きながら、ゆっくりとみぞおちを押し下げていきます。 上腹部がソフトに締まり、また肩回りや腕の付け根が楽になるのも感じられるでしょう。

すぐにはわからないという人も、何度もやっていくうちに次第にわかってきます。」

ということなのです。

私もいくら気をつけていても肋骨が後ろに傾くようで毎回治してもらっています。

そのあと竹を使って肩や背中、お尻股関節などをしっかりほぐして、仰向けになってストレッチを教わりました。

そうして体をほぐしてもう一度立つと、自然とまっすぐ立てるように感じました。

まっすぐに立つことは難しいと毎回学ぶのであります。
 
 
臨済宗円覚寺派管長 横田南嶺

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