第814回「ストレスはエサ」

先日近藤瞳さんの地球ワークショップに参加しました。

昨年の六月にも一度参加したことのあるものです。

今回は修行僧のみの会でありました。

いつもお世話になっている藤田一照さんもご参加くださったのでした。

どんな内容かについては、昨年の六月十三日の管長日記「はだしで歩く」(https://www.engakuji.or.jp/blog/35216/) に書いていますので、参照してみてください。

簡単に申しますと、近藤さんと共に円覚寺の裏山を歩くのです。

裏山を六国見山と申します。

約4.6km、山を歩きながら、地球四十六億年の歴史を辿ってゆくのであります。

今回も前回と同様に、はだしで歩くといいですと仰いましたので皆はだしで登りました。

裸足で登ることに実に多くのことを学んだので、そのことを昨年書いたのでした。

今回二回目を体験するにあたって、私は前回のことを復習することはあえてしませんでした。

真新しい気持ちで臨もうと思ったからです。

案の定、昨年話をしてもらったことをほとんど忘れていたので、実に新鮮な気持ちで受講できました。

四十六億年を4.6キロで歩くのですから、一歩が五十万年に相当すると言われると、昨年のことを思い出しながらも、一歩の重みを感じました。

地球カレンダーというのがあって地球の約四十六億年におよぶ歴史を一年に見立てたものがあります。

今回も地球カレンダーによって話してくださいました。

地球ができて一億年が経った頃、地球カレンダーでいうと一月十二日に月と地球が別れたという話から始まりました。

大きな隕石が衝突したからで、破壊されたからこそ新たな秩序が生まれるのです。

地球の歴史は、この破壊と再生の繰り返しなのだと改めて学びました。

またこの時に地軸が23.4度ずれたのでした。

そのおかげで春夏秋冬の四季が生まれたのです。

隕石の衝突という衝撃から新たな変化ができたので、近藤さんはいやなことが起っても「よしきた」と思うようにしていると仰っていました。

ストレスはエサであり、それをおいしくいただく、むしろ面白がってみるという言葉は印象に残ったのでした。

地軸がずれたおかげで四季ができたので、こういうずれやゆがみにも意味があるのです。

むしろまっすぐよりもいろんなものを生み出すことができるのかもしれません。

四十一億年前、地球カレンダーの二月九日に水ができたそうです。

三十八億年前、地球カレンダーの二月二十五日、最初の生命が生まれました。

微生物です。

二十七億年前、五月三十一日で酸素ができました。

今酸素というと体に必要なものと思いますが、もともとは有害な毒でした。

シアノバクテリアという微生物が水を分解して酸素を出したのでした。

この酸素が大量に発生したことによって、シアノバクテリアも死んだのだそうです。

自分で出したものが、自分に降りかかってきたということは、ただいま人間がたくさんのプラスティックを出していますが、それによって環境や体に悪い影響を与えているのと同じようだと教えてくださいました。

二十四億年前、六月二十四日、マイナス五十度という氷河期だったのでそうです。

二十一億年前にあたる七月十日に細胞に核を持つ真核生物が誕生しました。

これによって生命に多様性が生まれたのです。

十一億年前にあたる九月二十七日、多細胞生物が生まれました。

六億年前にあたる十一月十四日、オゾン層が形成されて、この厚さわずか三ミリのオゾン層によって有毒な紫外線を遮ってくれるようになりました。

五億年前にあたる十一月二十日、生物が多様化して魚類が現われました。

四億二千万年前、十一月二十八日頃、魚類から両生類に別れて陸にあがるようになりました。

受精卵が胎内に宿って一月ほどたつと、受精卵が魚類から両生類、は虫類、哺乳類へと進化を遂げてゆくので、つわりが起きる頃というのは、海から陸にあがるときだという話は聞いて思い出しましたが、深い話です。

三億年前の十二月三日昆虫が現れました。

二億五千年前の十二月十三日、恐竜の時代になりました。

最古の哺乳類はネズミのような小さいものだったそうです。

恐竜に襲われないように、夜行性になっていたというのです。

今も哺乳類の七十%は夜行性とか、人間にも夜行性があるのは、この頃の名残かもしれません。

十二月二十六日に鳥類が出て、十二月二十七日あたりから哺乳類が繁栄しました。

四百万年前、十二月三十一日午後四時になって、ようやくアウストラロピテクスが現われました。

今の人、ホモサピエンスは午後十一時四十分頃なのだそうです。

午後十一時五十八分五十二秒から農耕牧畜が始まったそうです。

五十九分三十秒になって宗教が始まりました。

五十九分五十八秒で産業革命、地球カレンダーではたった二秒でこれだけの産業を発達させたのです。

人生百年といっても地球の歴史では、たったの0.2秒なのだそうです。

しかしお互いのいのちは、宇宙始まって以来百三十八億年プラス何十年なのでもあります。

今回新たに教わったのは、ポリヴェーガル理論というものでした。

「自律神経」というと私などは交感神経と副交感神経の二つを教わってきました。

交感神経が活性化されると活動的になり、副交感神経が活性化されるとリラックスするというものです。

この交感神経と副交感神経のバランスが大切だということをよく耳にします。

さらにポリヴェーガル理論では、この副交感神経の中で最も重要な迷走神経を、腹側迷走神経と背側迷走神経に分けるのだそうです。

これに交感神経を加えた三つの神経の働きで身体の調節を行うというのです。

交感神経は、敵に会った時など「危険」を感じると、戦うか逃げるかという行動を起こします。

腹側迷走神経は、「安心」「安全」を感じた時、リラックスや休息、あるいは他者との交流が出来るように働きます。

背側迷走神経は、「生命の危機」を感じた時、身を守るため、生き残りのために「凍りつき」として働くというのです。

人と関わることによって安心安全を感じることができる神経が具わっているということを学んだのでした。

一照さんはさすがで、このポリヴェーガル理論をご存じでちょうどポリヴェーガル理論と坐禅について文章を書いたところだというのでした。

いつもながら、何でもご存じだと感服します。

今回も午前中から昼過ぎまで山を歩き、午後は近藤さんの講義とワークやシェアリングを行っていました。

七時間にもわたる講座でしたが、あっという間でした。

参加した者の感想には、地球四十六億年の長さを思うと自分の失敗など小さなものだと気づいたとか、近藤さんと歩き、またお話を聞いて元気をもらったという声も聞かれました。

一照さんは、山をみんなで歩きながら、近藤さんのお話に耳を傾ける様子は、ブッダのお説法の姿を彷彿とさせると仰っていました。

この大地地球は四十六億年、幾度も破壊と再生を繰り返してきたのです。

私たちも、その地球に生かされているのですから、少々のストレスはエサと思っておいしくいただくくらいの気持ちを持ちたいものです。

おりから山の桜も満開で、しかも天気は快晴、こんなに心地よい日はないといっていいくらいの有り難い一日でありました。


臨済宗円覚寺派管長 横田南嶺

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