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リュドミラ・ウリツカヤ『ソーネチカ』とT.E.カーハート『パリ左岸のピアノ工房』、新潮クレストブックスの歓び(毎日読書メモ(406))

【ちょっと追記】もう少し先の日記に『パリ左岸のピアノ工房』についてもう少し書いてあったのでそれも足してみた。

過去日記より。リュドミラ・ウリツカヤ『ソーネチカ』(沼野恭子訳、新潮クレスト・ブックス)と、T.E.カーハート『パリ左岸のピアノ工房』(村松潔訳、新潮クレスト・ブックス)の感想。
ここに書いてある感想だとあんまり感じ取れないかもしれないが、『パリ左岸のピアノ工房』は、わたしが21世紀に入ってから読んだ本のベスト10に、たぶんベスト5にも入る好著であった。愛情のほとばしる本の気持ちよさを堪能。
最後の方に言及したファツィオリ、ずっと知る人ぞ知る的なマニアックなピアノだったが、2021年のショパンコンクールの覇者ブルース・リウが演奏したことですっかり有名になりました。

昨日から読んでいたリュドミラ・ウリツカヤ『ソーネチカ』(沼野恭子訳・新潮クレストブックス)を行きの電車で読了し、続けてT.E..カーハート『パリ左岸のピアノ工房』(村松潔訳・新潮クレストブックス)を読む。こないだ新潮社のPR誌「波」の2004年8月号を買って読んだ時、クレストブックス創刊6周年記念特集が出ていて、その中で揚げられていた2冊。『ソーネチカ』はとても不思議な物語。本を読むのが大好きなぱっとしない少女が、運命的な出遭いによって結婚し、その結婚生活の中で色々な体験をしていくのだが、その、ある意味ドラマチックな人生を、彼女が淡々と受け止め、ドラマチックでなくしているところがなんだか凄い。上手く語れないが、登場人物みな、淡々と、運命を受け止めている感じ。一応、女性の一生を描く大河的作品なんだが、一瞬一瞬の心の震えが、柔らかな北国の陽射しの中で輝いているような、そんな小説。
そして、続けて手に取った『パリ左岸のピアノ工房』。アメリカからパリに移住してきた男が、ピアノ工房への出入りを許されるようになり、自分のピアノを手に入れる。物語にもなっていないような単調な骨子だが、男のピアノ人生を振り返ったり、世界各地のピアノのしょっている物語を紹介したり、ピアノの歴史が語られたり、取りとめもなくなく、ひたすらピアノについて語られているのだが、文章が明晰(訳文も明晰!)で、どんどん本に引き込まれる。語り手であるアメリカ人の男(おそらく作者自身)、そして、ピアノ工房のリュック、その他、ピアノというものへの愛情にあふれた登場人物たちが魅力的で、ピアノへの愛がふんだんに出てくるところがすごくいい。後半で、近所のホールに置いてあるピアノ、ファツィオリのエピソードも出てくるらしい、期待。

【追記】『パリ左岸のピアノ工房』、本当に素敵な本だった。登場人物の一部は、設定を変えてあったりするが、実質的に作者自身が体験したこと、思ったことを中心に書かれていて、小説、というとちょっと違う気もするが、ピアノへの愛に満ち溢れた、輝かしい本。手に取るきっかけとなった「ファツィオリ」の章も、近所の公民館で住民ボランティアの活動の結果購入することとなり、すっかり街の一部となったこのピアノが、どんなに贅沢で素晴らしいものかをよく伝えていて、近所の人たちにももっと読んでもらいたいな、と思った。そして、わたしの家にあった、わたしが買って欲しいとねだったのに、ちゃんと使ってあげられなかったヤマハのアップライトのピアノが、なんて可哀想な人生を送ってしまったんだろう、とピアノに申し訳ない気持ちがじわじわじわ。
(2004年8月の日記より)


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