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毎日読書メモ(104)『勝手にふるえてろ』(綿矢りさ)

辛酸なめ子の本の感想を書いた時(ここ)に、友達から、辛酸なめ子の文章でお勧めなのは、綿矢りさ『勝手にふるえてろ』(文春文庫)の解説文、と言われ、何故か解説文目的で『勝手にふるえてろ』を買ってみる。

読み始めるとそれは、イチ彼とニ彼を比較して、イチ彼と結婚したらこうなる、ニ彼と結婚したらこうなる、と脳内シミュレーションするOLヨシカの物語。でも、そこにはどちらが幸福、という視点がない。ヨシカのイチに対する狂おしいまでの愛情と執着が描かれているが、その愛の物語の中には他者がいない。自分だけ。ニからのアプローチを分析するヨシカは、イチに対する愛情をしのぐ愛情を抱ける相手などいないという前提でいるから、突っ込みどころしか見いだせない。そして、再会したイチとの対話は、読んでいるわたしが羨ましくなる位素敵に進むのに、最後に絶望の淵に沈められるオチ。

二次元創作をしたりもするヨシカは、本質的におたくで、自分の輪の中でぐるぐる回っている。その辺の描写がすごく巧みである。畳みかけるように惨事が襲い、徹底的に絶望しているイチカのモノローグがすごいぞ。「想っているわたしに美がある」ときた。そしてイチには「勝手にふるえてろ」だって。絶望の果ての行動が非現実的におかしくて(おかしい、は、笑っちゃう、と変だろ、の両方の意味)、その絶望の淵から、現実が救いの手を差し伸べてくれるラストに涙する。

一緒に収められている短篇「仲良くしようか」は、作家のモノローグみたいな不思議な話だったが、「愛のためになら死ねると思っていたけれど、愛し続けるより死ぬ方が簡単だった」というフレーズに「勝手にふるえてろ」を含む、他の綿矢作品に通じるものがあるな、と思ったりした。

そして辛酸なめ子の解説で爽快に笑う。「勝手にふるえてろ」のストーリーと分析が丹念に描かれているので、本編未読の人は読んではいけない系の解説。ヨシカのここまでの遍歴を丁寧に分析し、そこに自分の思い出話を対比でぶっこんでくる荒業で、辛酸なめ子のエッセイの一編としても成立する完成度の高さになっていた。

いや、本当、ヨシカって、分析して、突っ込みたくなる極上のキャラだな、と思ったよ。と同時に、そのヨシカにそれだけ愛されるイチのことも愛したくなったよ(たぶんわたしもニよりイチが好きだと思う)。


#読書 #読書感想文 #勝手にふるえてろ #綿矢りさ #文春文庫 #辛酸なめ子


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