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毎日読書メモ(176)『三月は深き紅の淵を』(恩田陸)

恩田陸の「水野理瀬」シリーズ第一作。『三月は深き紅の淵を』(1997年、短編)の後、
『麦の海に沈む果実』(2000年、長編)
『黒と茶の幻想』(2001年、長編上下巻)
『黄昏の百合の骨』(2004年、長編)と続き、今年、
『薔薇のなかの蛇』(2021/5/26)が刊行されたらしい。読まねば!

2001年7月の日記より。

恩田陸『三月は深き紅の淵を』(講談社文庫)。理瀬シリーズ第一作。

タイトルちょっと覚えにくくないかい?、と思った。
まぁ、タイトルも雰囲気のうちですが。
『三月は深き紅の淵を』という、幻の本があるらしい。
その本が幻かどうかは、この物語の主題ではない。
この物語が語っているのは、この本をさがしている人の話だ。
恩田陸は、自分を語ることの極端に少ない作家のように思われる。独特の味わいのある小説を、文庫になった端から読んでいるところだが、本人については何もわからないも同然できた。
それが、この『三月は深き紅の淵を』の最終章で、自分を投影したかのような作家を使ってぽつぽつと語っている。わたしはこういうのをメタフィクションを呼ぶことが多い。楽屋落ちとも言う。そういう構造が気にならない作家もいるのだが、この『三月は深く紅の淵を』の第四章「回転木馬」は、ちょっと苦手だった。出来ればこの物語もとことん作家自身を隠して語って欲しかった。メタの部分と絡まり合った「三月の国」の物語が面白かったので、そちらを徹底して語ってほしかった。
第三章「虹と雲と鳥と」(タイトルだけ見ると坂口安吾みたい)は、高校生小説って感じの味わいが『球形の季節』や『六番目の小夜子』を思い出させる。
ミステリ的要素が一番面白かったのは、第二章「出雲夜想曲」。この章もちょっと作者自身が投影されているが、そう思ったのは読了したあとだった。
ロアルド・ダール『チョコレート工場の秘密』に捧げられたかのような第一章「待っている人々」は、設定が濃いのに、話が短過ぎて残念。恩田陸ならきっとこの第一章だけでも1冊書けたろうに。この第一章の主人公(?)鮫島巧一の発言が面白かった。「僕は、今の時代、本読む人間は昔よりも憎まれているんじゃないかって気がするんです」だって。講談社文庫版の96ページ。よかったらちょっと読んでみて下さい。こんなもんなのかなぁ?
芳醇な読書の世界を垣間見せてくれているのに、それが100%の効果を示していない、わたしにとっては悔しい1冊。この本から派生させて、もっと面白い小説を読ませて欲しい。


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