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毎日読書メモ(83)『サキの忘れ物』(津村記久子)

数日前に『サキ短編集』の話を書いたが(ここ)、その後じっくり味わいながら、津村記久子『サキの忘れ物』(新潮社)読了。本当に愉しかった。

発表媒体もばらばらで、テイストもそれぞれ全然違う9編の短編小説。それがどれもどれも面白くて。

(以下、内容に踏み込んだ紹介になるので、読む楽しみをそがれたくない方はご注意ください)


サキの忘れ物:居場所が見つけられないでいた若い女性が、ふとしたきっかけで本を読むようになって、その後の人生が開ける。彼女の人生が開けるきっかけとなったブックリストはたぶん意識的に明示はしないようにしているが、アガサ・クリスティ、アシモフ、モーム、織田作之助の名前が文中にある。織田作之助??? 妙に渋い。

王国:幼稚園児が主人公だが、彼女もまた居場所が見つけられないでいる。そんな彼女を救ってくれる王国の設定が超面白い。

で、最初2編の主人公が似た感じ、と思っていたら、次の「ペチュニアフォールを知る二十の名所」ががらっと違う、観光案内の形式をとったブラックユーモア小説で大笑い。

次の「喫茶店の周波数」と、最後の「隣のビル」は、津村記久子お得意の会社員小説。どっちも元気の出る終わり方で、とてもよかった。

Sさんの再訪:大学時代の同級生のSさんたちについて思い出そうとする過程で、別のSさんについて、考え直す契機を得る女主人公の話。これも津村記久子らしい力強いエンディング。

行列:前のオリンピック以来数十年ぶりに日本に来た「あれ」を見るために十二時間行列する話。これはSFだね。ちょっと三崎亜記みたいな感じで、大好きなテイスト。

河川敷のガゼル:河川敷に現れたガゼルを見守る人たちの物語。ちょっと村上春樹「象の消滅」みたいな、でもこれも一種の会社員小説(会社じゃなくて市役所だけど)。ガゼルの幸運を祈る。

真夜中をさまようゲームブック:これは懐かしい、ゲームブック(自分で選択肢を選んで、選んだ番号の一節に進み、またそこで選択した番号のところに進み、を繰り返し、自分の物語を作る)形式の小説。最初のうちは本当に選びながら読み進めていたが、主人公が死んじゃう結末に行っちゃうと少し戻って別の選択肢を選んでそっちに進み、を繰り返すことに疲れ、途中からは全部まとめて読む。家の鍵をなくして家に入れず、真夜中の街をさまよう不安と恐怖がじわじわ来る。

どれもとてもよかったので、つい全編紹介してしまった。元気を出したい人に勧めたい。

#読書 #読書感想文 #津村記久子 #サキの忘れ物 #新潮社 #サキ #会社員小説

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