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有川ひろ『イマジン?』(毎日読書メモ(453))

有川ひろ『イマジン?』(幻冬舎)読了。有川ひろの1ジャンルであるお仕事小説。今回のお仕事は映像制作会社。5つの章で、映画やテレビドラマの制作現場を描く。
主人公良井良助いいりょうすけは、故郷の別府で、映画「ゴジラVSスペースゴジラ」に別府の風景が映ったのを見て、知っている光景が映画の舞台となる=自分と物語は繋がることが出来るのだ、ということに気づき、映像制作の現場を目指すようになる。福岡の映像専門学校を出て、東京の映像制作会社に就職した、と思ったら、出社した会社はもぬけの殻。計画倒産で周囲の関連会社に大迷惑をかけてトンずらした会社に、形だけでも籍を置かされてしまった良助は、他の会社への転職もままならず、映像とは関係ないバイトで糊口をしのいでいたが、そんな中で知り合った佐々さんというこわもての男に誘われ、たどり着いたのがテレビドラマのロケ現場。そこでパシリをしている中で、殿浦イマジン、という製作会社に拾われることになる。社長の殿浦が繰り返し言うのは、どんな現場でも想像力を働かせろ、その場で一番よいおとしどころがどこにあるかを常にイマジンせよ、という言葉だった。

第1章の、ドラマ「天翔ける広報室」はまんま、有川浩自身の「空飛ぶ広報室」をモチーフにしている。自衛隊広報室との折衝、憧れの主演女優に変なミスで顔を覚えて貰ったり。ノーギャラだった筈のエキストラが一人5000円で集められたエキストラだったという手違いを、とりあえず制作会社がかぶることになり、会社の金庫まで人数分のギャラを取りに行く良助。現場に戻る途中で、1万円札を5000円単位に出来るように崩しながら戻る。
第2章は映画「罪に罰」:横暴な監督の我儘に荒れる現場。現在問題になっている製作現場の無茶ぶりな激務やハラスメント体質を突きながら、ダメの出ない仕上がりまで持っていく助監督の成長を描く。劇中劇「罪に罰」の前半まったり、後半一気にバイオレントな展開にも驚かされる。
第3章は2時間ドラマ「美人女将、美人の湯にて~刑事真藤真・湯けむり紀行シリーズ」。第2章に較べるとのどかで、現場も慣れた感じちゃきちゃきと進んでいる、と思いきや、ここにも思いもかけぬハラスメントが。ロケ現場が島根の玉造温泉で、行ったことのある場所だったので読みながら親近感。良助のイマジネーションの働きに成長を感じ、その中で味わった屈折に読者も共に苦しみ、怒る。
第4章、映画「みちくさ日記」はまた、有川浩の『植物図鑑』に通じる世界観をイメージした作品。原作ファンが製作現場にも多数、一方SNSでは愛読者たちによる、主演俳優が原作のイメージに合わない、という不満噴出。原作者沖田ナオの現場見学、撮影現場を見て、発信する沖田ナオの声は、おそらく有川浩自身の声でもあるのだろう。
最終章「TOKYOの一番長い日」は本格アクション映画の現場。ロケ現場の隣で工事が始まって、音が入ってしまうので、佐々や良助たちが工事現場の手伝いに入り、仕事をしながら、撮影の瞬間だけ作業を止めて貰う協力を依頼する。制作ってそこまでありか! 撮影現場でエキストラを増やすことになって、見物に来ていた人に粗品進呈でさっと撮影の依頼をしたり、逆に、現場を撮影しようとする見物人を炎上しないように制止したり。想像の斜め上を行く展開になっても、なおイマジンし続ける殿浦イマジンのスタッフたち。そしてクランクアップした作品の元締めとなるテレビ局のプロデューサーが、最後に何かをぶち壊す展開。打ち上げの場で良助の怒りが炸裂、まだまだイマジンが足りない! そこを補う同僚たちのイマジン。

5つの作品を使って、色々な現場での制作会社の奮闘を描いたので、逆に、それぞれの現場でもっと色々な苦難や逆に面白いエピソードもあったであろうことを想像させられ、一方で、どんだけ激務なんやん、というところを意識的にぼかしているんじゃないのかな、という気もした。
実際に制作の仕事をされている人から見たら、生ぬるいとか、美化され過ぎているとか思われるのかな、と。
それでもその仕事をしたいという人が一定数いるだけ、魅力的な部分があるだろうし、それを垣間見させてくれた小説だった。
そして、原作者も、その仲間であり、味方なんだよ、ということも言いたかったんだろう。幸せな世界を見せてくれてありがとうございます。

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