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ベイスターズ愛! 佐藤多佳子『いつの空にも星が出ていた』(毎日読書メモ(502))

これまで、横浜ベイスターズ小説の双璧は、保坂和志『カンバセイション・ピース』(新潮文庫→河出文庫)と、江國香織『間宮兄弟』(小学館文庫)だった。それがいつの間にかスリートップになっていた! 文庫化された、佐藤多佳子『いつの空にも星が出ていた』(講談社文庫)が書店の文庫売り場に山積みされているのを見て、初めて、佐藤多佳子がベイスターズ小説を書いているのを知った。不覚であった。慌てて読んで、涙する。これからはベイスターズ小説の三巨頭って呼ぶよ!

とことん、ベイスターズ愛の小説である。
序章的な「レフトスタンド」は1984年の神宮球場で、部活の顧問に誘われて、ヤクルト対横浜の試合を見た、高校生の思い出話。この小説だけだったら、横浜大洋ホエールズ(当時)は、高校時代の思い出のスパイスとして使われた、という感じだったと思うのだが、続く中編小説3編は、怒涛のホエールズ/ベイスターズ愛が溢れている。
「パレード」は、1997年から1998年、高3から就職の年の美咲と、彼氏のコータとベイスターズ応援団の仲間たちの物語。横浜駅西口の空気とか、横浜市役所の中でスポーツ振興に奔走する部門のエピソードとか、作者がよく調べて、実地を見て描いていることが強く感じられる。1998年のベイスターズリーグ優勝と日本一のことを思い出して胸が熱くなる1編。
「ストラックアウト」は一転して、もどかしい導入から熱狂の応援へとなだれこむ、30代前半の男性2人の物語。大学を出て就職した会社がつぶれ、麦田町で電機店をやっている実家の社員になって働く良太郎と、女性関係のだらしなさで夜逃げ同然で横浜に戻ってきた客先の息子圭士がお互いスタジアム応援を敬遠してきたのに、球団身売り騒動をきっかけにスタジアムに戻る2010年最終戦と、佐々木主浩の思い出の物語。電機店社員の仕事についても手に取るようにわかる、たのしいお仕事小説でもある。
「ダブルヘッダー」は、川崎の洋食店が舞台。おじいちゃん亡き後、おばあちゃんを手伝って、その娘と結婚したお父さん、息子の光希は少年野球でピッチャーを務めている。お父さんの実の父はかつてホエールズ応援団としての活動に入れあげすぎて、息子に絶縁されて遠く下関で暮らしているが、ベイスターズが2017年に日本シリーズに出てソフトバンクと戦ったとき、光希にヤフオク!ドームの試合のチケットを送ってくる。洋食店の様子、少年野球の様子などが丁寧に描かれ、この小説での裏の主役はハマの番長、三浦大輔。

わたしの記憶にも残っている、多くの横浜の雄姿と、そうでもないぐだぐだの姿、色々な選手たちの名前が懐かしく思い出される。
夏の暑さや、ほとばしる汗、色々なスタンスでベイスターズを応援する人たちの姿は、わたしや家族や友人たちの姿でもある。

こんな形での応援もありか、と嬉しくなる本。
こうして応援してもらえる球団は幸せ者だね。

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