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藤岡幸夫『続・音楽はお好きですか?』(毎日読書メモ(356))

関西フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団首席客演指揮者の藤岡幸夫、コロナ下活動が制限されていた時期に書いた『音楽はお好きですか?』(敬文舎)(感想ここ)が好評を博し、1年目に『続・音楽はお好きですか?』(敬文舎)を刊行。さぁ、続きはどうなる? 團伊玖磨の『パイプのけむり』みたいに『又・音楽はお好きですか?』「また」「なお」「重ねて」とか、えんえん続いていくのだろうか?

継続は力なり...前作より文章がこなれてきている感じがする。そしてサッチー(とあえて呼ぶ)のお茶目さ、可愛らしさ全開で行くぜ、というスタンスがはっきりしている。音楽に対して真摯であることを貫き、それ以外の部分は好き放題なのである。文章で表現しきれなくても、それを音楽で具現することが音楽家だ、ということも実感した。

吉松隆「朱鷺によせる哀歌」に感動し、

あまりの美しさに涙があふれ、「僕はこの人に人生の全部はもったいないけど、半分は捧げよう」と真剣に決心したのです。

p.25

と書いてあって大笑い。いや、吉松さんに半分捧げちゃって、残りの半分で、この本と前の本に書かれた他の作曲家全部詰め込むのは大変やろ。

ピアニスト、イングリッド・ヘブラーが田舎の映画館のぼろぼろのグランドピアノを本番までひたすら弾きこなし、素晴らしい音を奏でたエピソード、サー・ゲオルグ・ショルティの「信念とパッション」「指揮台に立ったら絶対あきらめるな」、作曲家ルトスワフスキが演奏会前は会ってくれず、演奏会後、先に会っていたらあなたはわたしの言うことに引きずられてしまうであろうから、あえて会わなかった、と言ってくれたエピソード。

作曲家のテンポ指示は、書いてある限り遵守するのがクラシック音楽のルールだが、そのテンポ感の感覚的な部分をどうとらえるか、原典の根拠を研究する人がいて、例えばチャイコフスキーとかの譜面のテンポ指示は、本人が振ったときのくるくる変わる指示を書き留めたメモみたいな途中経過のテンポがそのまま出版されているので慎重に扱う必要があるとか...。

長く滞在した英国の作曲家、エルガーやヴォーン・ウィリアムズについての解釈も興味深い。
師・渡邉暁雄の愛したシベリウスの演奏解釈も、目鱗(わたしが不勉強なだけだが)。

今回も、生涯言われ続けた師のことばが引用されている。座右の銘。

「指揮者なんて商売は、仕事柄いろんなことを言われる。でもキミは、決して人の悪口を言っちゃいけないよ。悪口は人間だけでなく音楽を汚くする。君は悪口を言われる側の人間になりなさい」

p.95

渡邉さんの遺言の中に「もっと噛んで食べなさい」というのがあったのも笑える...そしてそれを実感したのが年を取ってきてから、という切なさ。

ピアニスト園田高弘さん、羽田健太郎さん、作曲家冨田勲さん、田中カレンさんなどのエピソードも、この人ならでは。

クラシック音楽をすたれさせないために、サッチーが行っている様々な活動に敬意と感謝を込めて、この本を多くの人に勧めたい。

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