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毎日読書メモ(165)『上と外』(恩田陸)

2001年9月のブログを発掘。現在は上下2巻となっている恩田陸『上と外』(幻冬舎文庫)だが、刊行されたての当時は、12ヶ月にわたって2ヶ月に1冊ずつ刊行された全6巻本だった。

わたしはかつて、スティーヴン・キング『グリーン・マイル』(新潮文庫)も、毎月新刊が出るたびに買っておいて、全部揃ってからまとめて読んだ卑怯者である。作者の意図としては、雑誌のように、毎月物足りない位の量を読み進め、早く来月になって続きを読みたい、と渇望して欲しかった筈。でも『グリーン・マイル』が刊行されたのは子育てでばたばたしていた時期だったんだもん、勘弁して~。
『上と外』も、同様のコンセプトで刊行された続きもの。但し、本当に刊行と並行して書き下ろされていたので、2ヶ月に1回の刊行で、しかも当初5分冊と言っていたのが6分冊になった。3と4が「神々と死者の迷宮」上下となっているので、その辺のエピソードが伸びたのだろう。
最初から、完結したら読む、と決めていたので、書評系サイトの感想欄は見て見ぬふりをして読まずにいた。恩田陸というだけで買いだったので、本の帯や裏表紙の梗概も読まなかった。斜めに表紙をツートーンに分けた表紙のデザインが昔の福武文庫みたい、とどうでもいいことを思っただけで全く先入観なしで読みはじめた。

中米G国で遺跡発掘調査をする父を訪れる中学生楢崎練。父と離婚した義母千鶴子と、千鶴子と暮らしている妹千華子も一緒だ。年にほんの10日ばかりの家族の再会が、予想外の事件によって、明日の命をも知れぬジェットコースター的波瀾のストーリーとなる。主人公がはっきりしているので、この6冊の物語が終わるまで、練が死ぬことはないのだろう、と確信しつつ読んだけれど、じゃなければとても彼が生還出来るとは思えなかったほど、過酷な物語。練の超人ぶりは、ちょっと真保裕一『ホワイトアウト』の富樫を思わせる。日本で練たちの無事を祈る祖父や従兄弟ら親族のキャラクターもすごくいいし、恩田陸作品らしく、作者の主張が、様々なキャラクターの口からも、地の文からも伝わってくる。
これまでの恩田陸の物語とは、テーマも舞台も全然違い、スケールの大きさに驚かされたが、風呂敷を広げ過ぎた、という感じは全くなく、詰まるところ悪人が一人も出て来なかったことにも驚かされ、気持ちいい読後感を楽しむことが出来た。中盤からストーリーの格の一人となるニコがまた練以上に超人で、カタストロフィからの脱出の物語があまりにも現実離れしてはいたが、展開はあくまでも寓話の狂言回し、と割り切れば、充分楽しめた。

上巻は〈上〉、下巻が下(2)という表記になっているのは何故だろう?? 下(1)がある訳じゃないよね(それだと全3巻になっちゃう)

2000年8月に刊行されたときの『上と外(1)素晴らしき休日』はこんな感じ。文庫6冊刊行後、2003年に1冊本の単行本が出て、2007年に上下2巻の文庫本が刊行されている。



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