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毎日読書メモ(75)『ワイルド・ソウル』(垣根涼介)

垣根涼介の本も一時はいっぱい読んだ。最初の頃は、こなれてない感じにちょっとイラっとしたりしたが、どんどんうまくなっていくのが手に取るようにわかって、次々と楽しく読み進めた。時代小説に進んだあとの本(『光秀の定理』や『信長の原理』など)はまだ読んでないので、これからの楽しみ。

『ワイルド・ソウル』(上下)は、幻冬舎の単行本(単行本時は1冊本、幻冬舎創立九周年記念特別作品だったらしい)で読み、その後幻冬舎文庫に入ったが、現在は新潮文庫から刊行されている。

今日の読書は垣根涼介『ワイルド・ソウル』(幻冬舎)。前に読んだ2作(『午前三時のルースター』『ヒートアイランド』)より、掴みから面白い。戦後のブラジル移民=国家から見捨てられ、アマゾンの奥地で、見込みなき開拓にかりたてられたいわゆる「アマゾン棄民」の物語。戦前に移民した人たちの難行については、昨年(2005年)末にドラマ「ハルとナツ」で再現されていたが、それより更に過酷と思われる人生を戦後の移民たちが送っていたとは。息詰まる思い。

昨日から読んでいる垣根涼介『ワイルド・ソウル』(幻冬舎)、往復の電車でも職場の休み時間にも必死に読み、夕食後もひたすら読む。ちょうど今朝ニュースでドミニカ移民に対して国家が補償金を払う、という話をしていた記憶があるのだが、どうもドミニカ移民が一番悲惨で(与えられた入植地は塩分を含んだ土壌で作物なんて作れなかったらしい)、それよりはややマシとはいえ、それでもすごく悲惨なブラジル移民の物語...国家に棄てられたアマゾン棄民たちの復讐の物語。テロの内容は意外と単純だったが、小気味よい展開。今までこの作者の作品を3作読んで、どれにもコカインとマツダのスポーツカーが出てきたが、両者ともこの作品で初めてしっかりと役割を持って出てきた感じ。暴力とセックスの多用はちょっと鼻につくが、貴子という別の側面からの準主役がうまく生きて、物語に深みを与えている。わたしは、子どもの時に日本を出ていた時期があったので、逆に、日本でない場所で、戻るあてもなく暮らす、というのがすごく辛くて、長じても海外に生活の場を求めようという気にならなかった。日本にいるよりはよい生活を夢見て、戻れるあてもなく日本を出た移民たちが、そこで地獄を見て、しかも抜け出せなくて、とういのはなんと辛いことだろう。mother tongueの国に、もう二度と戻れなかった人たちの無念を思うと辛い。本当に関係者が謝罪できるタイミングというのは訪れるのか?(2006年7月)


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