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正しい消化器がん検診の受け方(大腸編)~便潜血検査受けてるだけでホントに大丈夫?〜

2021年5月16日に予防医療普及協会によるオンラインサロンYOBO-LABOの講演内容をもとに記事化しています。


2人に1人は「がん」になる時代!?


「がん」になるなんて、自分とは無縁、と思っていませんか。みんな、自分が「がん」を告知されるその日まではそう思っています。

国立がん研究センターの最新がん統計によると、男性の65.5%、女性50.2%、つまり2人に1人以上は生涯で一度は「がん」を経験するとされています。[1]

…決して他人事ではありません。

大腸がんは全ての「がん」の中でも罹患数No.1

中でも「大腸がん」は全ての「がん」の中で罹患数がナンバーワン、つまり最もありふれた「がん」なんです。

どのくらいありふれてるか?というと…なんと!10人に1人は生きているうちに1度は「大腸がん」ができる、といわれています。[1]

AYA世代の「がん」としても重要

小児がんを除く多くの「がん」は通常、高齢になるほどリスクは高くなります。

この傾向は大腸がんも例外ではありませんが、大腸がんで特徴的なのは、比較的若い30歳代から増加傾向がみられる、ということ。

子育ての真っ只中や、仕事もバリバリこれから!って時に「がん」を宣告されるのは、とりわけツラいものがあります。

「忙しいから検査受けられない」という声も聞かれますが、「忙しい時だからこそ、ちゃんと検査受けて」と言いたい。

あなたはどっちを選ぶ?2つの「大腸がん検診」

大腸がん検診は大きく分けて「便潜血検査」と「内視鏡検査(いわゆる大腸カメラ)」の2種類があります。

実はこの2つの検診方法には明確な目的の違いがあるのですが、意外とみなさん「分かっているつもり」で、ちゃんと理解できている人は「少ない」どころか、「ほとんどいない」と言ってもよいくらいです。

この後の解説を読んで、2つの検診方法の違いをしっかりと理解した上で「自分はどっちを選ぶのか?」を決めることが大切です。

大腸がんはどうやってできる?

最初に「大腸がんはどうやってできるのか?」について知っておくと、2つの検診方法の違いへの理解がしやすくなります。

実際にはいくつかパターンがありますが、一番よく知られているのは、まず「大腸ポリープ(中でも「腺腫」と呼ばれる良性のポリープ)」ができて、これが育って、ゆくゆく「がん」になる、というものです。

これだけではイメージがつきにくいと思うので、実際の写真で見てみましょう
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一番左ができて間もない「大腸ポリープ」。
実はこれ、僕自身の腸にできた記念すべき?大腸ポリープ1号です。ちなみに切除した時の年齢は33歳です。

これを放っておくと、だんだん悪くなって「癌の一歩手前」の状態から→「早期大腸がん」→「進行大腸がん」へと進んでいきます。

ちなみに大腸ポリープ(腺腫)は大きくなるほど癌化率は高くなると言われていて、下記のようなデータがあります。[2]
腺腫の癌化率:5mm以下で1.8%、5~10mmで9.1%、10~20mmで32.9%、20mm以上で67.8%

「ポリープ」を切除して大腸がん予防!

「大腸ポリープ」から「大腸がん」へと進んでいくイメージがなんとなくできたでしょうか。

実は「がん」になる前の「ポリープ」の段階では、内視鏡治療といって、お腹を傷つけることなく、腸の内側から大腸カメラを通して簡単に取ってしまうことができます。

この「ポリープ」の段階で治療する事で、なんと大腸がんは70〜80%も減らせることがわかっています。[3, 4]

また、「がん」になってしまった後は、だんだん根っこが深くなっていくのですが、根っこが浅いところまでに留まる「早期大腸がん」の一部までは、ポリープと同じように内視鏡治療で切除することができます。

一方で、「早期大腸がん」でも「ある程度、根っこが深くなってしまったもの」や、「進行大腸がん」まで進んでしまったものは、いわゆるお腹を切るような外科手術や、抗がん剤治療なんかが必要になります。

さらに「がん」のできどころが悪ければ、最悪、人工肛門になってしまうことすらあるんです…

【最重要!!】便潜血では「進行がん」は見つかっても「ポリープ」は見つからない!?

40歳になったら年に1回、便潜血検査を受けましょう」というのは厚生労働省の指針でも示されていて、会社の職場健診でも多く取り入れられています。

ただ、これは本当に多くの人が誤解していることなんですが、便潜血検査は「ポリープを早期発見すること」を目的としているものではありません!

下記のデータを見てください
↓↓↓↓↓

便潜血陽性の割合

国立がん研究センターのデータ[5]によると、それぞれの段階において「便潜血検査陽性率」はそれぞれ下記の通り
浸潤がん(根っこの深い早期大腸がん〜進行がん):79.6〜86.2%
粘膜内がん(根っこの浅い早期大腸がん):47.1〜57.1%
Advanced Neoplasia:26.2〜35.7%
→10mm以上の腺腫や、異型度の高い(=癌に近い腺腫)、粘膜内癌も含む
Nonadvanced Neoplasia:10.6%(※このデータのみ他文献[6]より)
→10mmまでの異型度の低い腺腫

「検診で便潜血検査だけ受けとけば大丈夫だ」と思っていた人も多いんじゃないかと思いますが、この数字を見ると、みなさん結構びっくりされます。

(※上記データは1年だけ検査を受けた場合のスクリーン感度。毎年繰り返し受けると成績はもう少し向上することが予想されます。)

じゃあ便潜血の意味って??

便潜血検査の目的はあくまで「死亡率を減少させる」ということです。

つまり、放っておけば近いうちに命に関わるかもしれない「進行癌を確実に見つけること」が便潜血検査のミッションで、何年先に大腸がんになるか分からないポリープまで全部見つけよう、という目的のものではないんです。

そもそも大腸ポリープは、特に症状のない健康な人でも、内視鏡検査をすると、だいたい3〜4人に1人くらいは見つかります。(便潜血陰性の人の中でも約20%は何かしらの大腸腫瘍あり[6])

かと言って、この人たちが、全員将来大腸がんで命を落とすか?というと、そうではありませんし、小さなポリープがある人まで含めて全員が全員、便潜血検査に引っかかってしまったら、パニックになってしまいます。

つまり言い換えれば、便潜血検査では見つかる段階の早い遅いは問わず、とにかく命だけはなんとか助けよう、というものだということを理解してください。

便潜血検査に引っかかったら、症状がないうちに精密検査を!

「便潜血陽性になったけど、症状ないから大丈夫でしょ」
「去年は便潜血陽性だったけど、今年は引っ掛からなかったし大丈夫でしょ」
よく言えば楽観的、とも言えますが、これ、かなり危険な発想です。

これは大腸がんを含めて全ての「がん」に言えますが、治せる「がん」は通常は無症状です!

裏を返せば「がん」によって症状が出ているとすれば、かなり進行してしまっている段階の可能性が高い、と言えます。

あるデータによると同じ便潜血で引っかかった人の中でも「無症状のうちに、すぐ精密検査を受けて病気が見つかった人」と、「検査で引っかかったのに、放ったらかしにして、便に目に見える血が混じったり、急に便秘や下痢になったり、お腹が痛くなったり…なんて、何かしらの症状が出てから初めて検査を受けて、病気が見つかった人」とを比べると、同じ進行癌でも死亡リスクはなんと約5倍も違う、と言われています。[7]

便潜血検査に引っかかったら、症状がないうちに精密検査を!命が助かる大事なチャンスを自らふいにしないで。

とはいえ「早期発見・早期治療」したいなら内視鏡検診一択

ここまでをまとめると、便潜血検査の最大のメリットは、安くて、簡単に誰でも気軽に受けられることです。

一方でデメリットは「早期発見」するにはやや不向きで、引っかかった時には「命は助かったけど手術が必要でした」なんてことはザラにあります。

内視鏡検診ではなく便潜血検査を選ぶ場合に重要なことは、
便潜血は毎年、繰り返し受けること
便潜血検査にもし引っかかったら、症状の有る無しに関わらず、気が重くても必ず精密検査、大腸カメラを受けることがマストだということです。

とは言え、皆さんが一般的に「早期発見」と聞いてイメージするのは、もっと早く、カメラで治せるような「大腸ポリープ」や「早期大腸がん」の段階で見つかることですよね。

この早期発見・早期治療を狙うなら、定期的に大腸カメラを受けることをお勧めします。

便潜血検査に対して、大腸カメラの最大のメリットは、「早期発見が可能」ということです。また、モノによっては検査のついでに治療まで済ませてしまうこともできます。

一方でデメリットは、検査に対する抵抗感、心理的なハードルがやや高いことと、どこでやってもおんなじ、というわけにはいかず、検査をするドクターの腕にもかなりバラツキがある、ということです。(どうせ受けるなら、腕のいいドクターに楽に検査してもらいたいですよね)

便潜血検査と内視鏡検診、どちらを選ぶかは、皆さんがメリット・デメリットを天秤にかけた上で、それぞれ選べばよいのですが、とは言え、ここまでちゃんと知識がついた人はだいたい、「やっぱり見つかるなら早い方がいいし、どうせなら癌になる前のポリープのうちに取ってしまいたい!」と思う方が多いと思います。

もちろん僕自身を含めて、多くの医療関係者は、便潜血検査より定期的な大腸カメラを受けることを選んでいます

【結論】みんなに大腸カメラ受けて欲しい!

結局何が言いたいか、というと、みんなに大腸カメラ受けて欲しい!ということです。

冒頭でも書いたように、大腸がんは30歳代から増え始めるのが特徴です。

若い方の大腸がんも度々経験しますが、若い方へのがん告知は特にこちらとしても心苦しいので、個人的には、できたら少なくとも40歳までには、みなさん1回は大腸カメラを受けて欲しい、と思っています。

さらに、大腸がんの中には遺伝的にできやすい家系もあって、 全大腸がんの30%は遺伝的な要因が関与していると考えられています。[8]

ですから、血の繋がったご家族に大腸がんとかポリープがあったよ、っていう方には特に、早いうちから定期的な検査を受けることをお勧めします。

正しい知識が広まって、大腸がんで苦しむ人が減りますように。

参考文献

[1] 国立がん研究センターがん対策情報センター. 最新がん統計. https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
[2] 味岡洋一.  adenoma-carcinoma sequence. 『胃と腸』用語集 2012 HTML版. https://gastro.igaku-shoin.co.jp/words/adenoma-carcinoma_sequence
[3] Winawer SJ, et al. Prevention of colorectal cancer by colonoscopic polypectomy. The National Polyp Study Workgroup. N Engl J Med. 1993; 329: 1977-81.
[4] Murakami R, et al. Natural history of colorectal polyps and the effect of polypectomy on occurrence of subsequent cancer. Int J Cancer. 1990; 46: 159-64. 
[5] 松田尚久ら. FIT陽性癌 vs. FIT陰性癌 (3)内視鏡医の立場から. Intestine. 2019; 23: 441-8.  
[6] Chiu HM, et al. Association between early stage colon neoplasms and false-negative results from the fecal immunochemical test. Clin Gastroenterol Hepatol. 2013; 11: 832-8. e1-2.  
[7] 松田一夫. FIT開発の歴史と現状 (2)FIT判定のとらえ方と取り扱い. Intestine. 2019; 23: 403-7.  
[8] 大腸癌研究会. 遺伝性大腸癌診療ガイドライン 2020年版. 金原出版. 2020.

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