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Q 私は会社を経営していますが、誹謗中傷に対して法的措置を取るにあたって特に気を付けるべきポイントを教えてください。

A ①開示請求等が認められなかった場合、同様の投稿が増加するリスクがあります。また、②法人に対する投稿と、社長や役員に対する投稿が混在していることがあり、どの投稿が誰を対象としているのかをよく吟味することも重要です。

解説いたします!

1 投稿が増加するリスクについて
⑴ 開示請求等のハードルが高いことについて
開示請求・削除請求を行う場合、被害者の側で、①名誉を毀損することに加えて、②公共の利害に関する事柄でないこと、③公益目的でないこと、④真実でないことについても立証する必要があります。
(これらの要件については、別のQで詳しく解説します)

ア 名誉を毀損することについて
具体的な事実の摘示のない馬頭雑言の類(「バカ」等)については、裁判所はなかなか社会的評価の低下を認めない傾向にあります。そのため、具体性に欠ける不平不満のような投稿については、そもそも名誉を毀損しないと判断される可能性があります。

イ 公共の利害について
公共の利害に関する事実とは、摘示された事実自体の内容、性質に照らし、客観的にみて、当該事実を摘示することが公共の利益に沿うと認められることをいうとする裁判例があります。裁判所は、企業の労働環境や、商品とサービスに関する情報について、公共の利害に関する事実と判断することが多いです。

ウ 公益目的について
公益目的とは、事実を摘示した主たる動機が公益を図ることにあればよいとする裁判例があります。裁判所は、公共の利害に関する事項といえる場合には、公益目的も推認されると判断する傾向にあります。そのため、企業の労働環境や、商品とサービスに関する情報については、③も認められてしまうことが多いと思われます。

エ 真実でないことについて
裁判所は、真実でないことを客観的資料等で疎明するのが難しいような場合を除き、資料の提出も求めてきますので、単に陳述書等で投稿内容は虚偽です、と指摘するだけでは足りないことが多いです。
ないことの証明は「悪魔の証明」とも言われますので、裁判所もそこまでの証明は求めませんが、私の経験では、ここのハードルはかなり高い印象です。

オ まとめ
このように、企業に対する誹謗中傷については、具体性がないとそもそも名誉を毀損しないと判断される可能性が高いほか、仮に名誉を毀損すると判断された場合でも、商品やサービスに関する情報については公共の利害・公益目的が認められやすいので、客観的資料をもって真実でないことの証明に成功しない限り、開示請求等が認められないというリスクがあります。

⑵ 投稿者は開示請求等が認められなかったことを察知すること
そして、開示請求・削除請求がなされた場合、通例、プロバイダは、投稿者に対して意見照会を行いますので、投稿者は、意見照会によって、具体的にどの投稿について開示請求等が行われたかを知ります。
プロバイダは、その後、開示請求・削除請求が認められた場合には、投稿者に対してその旨連絡しますが、認められなかった場合には、ちくいち投稿者に対してその旨の連絡をしませんので、投稿者は、プロバイダから意見照会が来た後、開示の連絡がない場合には、開示請求等は認められなかったことを察知することになります。
そうすると、投稿者によっては、この程度の投稿であれば許される、と考えて、同様の投稿を繰り返す可能性が生じます。

こうしたリスクを回避するためには、どの投稿であれば上記のような高いハードルをクリアできるのかについて、弁護士とよく相談して、開示請求等を行う投稿を吟味することが重要です。そして、ほかのQでも記載しておりますが、弁護士であってもすべての分野に精通しているわけではありませんので、開示請求等に精通している弁護士に相談することも重要です。

2 誰に対する投稿なのかということについて
法的手続を利用する場合には、名誉毀損やプライバシー侵害等の①「権利侵害があること」が必要ということは、皆様もよくご存じのことかと思いますが、それと並んで、②「誰の権利が侵害されているのか」ということも非常に重要となります。

ここを間違ってしまうと、裁判所から取り下げを促され、従わない場合には却下決定へと進むことになります。これまでのQでも少し述べていますが、特に開示請求の場面ではスケジュールが非常にタイトなため、②の点を間違って申立てをやり直していると、投稿者の特定が非常に難しくなってしまう可能性があります。そして、こうしたことが特に問題となるのが、法人に対する誹謗中傷のケースです。

でも、読者の皆様の中には、誰に対する投稿なのかなんて、間違うはずないんじゃないか?とお考えの方もいるかもしれませんので、具体例を出して解説します。

たとえば、「A社ではB専務が横領している」という投稿があった場合、上記②の点をよく理解しないでいると、A社に対する誹謗中傷と考えてA社代表から委任状をもらい、A社を申立人として手続を始めることになりますが、こうした投稿は、B専務の社会的評価についての投稿であって、A社に対する投稿とは解釈されないと思われます。こうした場合、上記のとおり、裁判所からは取り下げを促されることになると思います。

そのため、一見すると法人に対する誹謗中傷と思われる投稿については、漫然と法人を申立人とするのではなく、「どの部分が誰に対する投稿なのか」ということをよく吟味し、必要に応じて役員個人も当事者とする等、慎重な対応をすることが重要です。

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