【Endeavor Article】🇵🇰パキスタン起業家の未来｜インドネシアから学べる教訓はあるか？

数年前、パキスタンのスタートアップコミュニティは急成長を遂げていました。2018年から2021年にかけて、若手エンジニアがスタートアップを設立したり、そこで働くことを求めたり、外国の投資家が参入し、海外で教育を受けたパキスタンの大学生が卒業後、母国でのビジネスチャンスを感じて帰国しました。
 
しかし、良いスタートを切った後、パキスタンのスタートアップブームは急停止したように見えました。昨年は政治的動揺、通貨切り下げ、過去最高のインフレといった新たな課題に直面した起業家が増えました。2022年半ばにパキスタンのトップクラスのスタートアップAirliftが廃業し、起業家コミュニティに衝撃を与えました。
 
しかし、私たちの経験では、これはパキスタンでエンデバーを立ち上げるのに理想的な時期でした。

パキスタンマーケットの存在はかなり前から重要でした。デジタル人材が豊富で、多くの問題を解決できる才能ある人材が十分に存在する大きなマーケットです。GitHubが2023年1月に発表したイノベーションレポートによると、パキスタンのソフトウェア開発者は前年比43％増加しており、世界で最も急成長している国の一つとされています。現在変わりつつあるのは、パキスタンが自国のロールモデルの存在を認識しはじめていることです。これにより、トップクラスの人材にとってスタートアップが魅力的になり、ローカルの資金源が解放されています。パキスタンでのエンデバーの立ち上げがこの機会を導き、拡大するのに役立つと私達は確信しています。

*GitHubのレポートによるとパキスタンは開発者数で3番目に急成長している国です

エンデバーは、世界30カ国以上の起業家コミュニティで30年近く活動してきた経験があります。 パキスタンと、これまでオフィスを立ち上げてきた国々（特にインドネシア）には多くの類似点があります。パキスタンのエンデバーチームは、Abhi、Bazaar、LAAM、SadaPay、PostExなど、7社のエンデバー起業家を選出しました。パキスタンが自国のユニコーンを生み出すのは時間の問題です。過去10年間におけるインドネシアの躍進をみれば、パキスタンの起業家の未来をより強く信じることができるようになります。

*幼なじみのハムザ・ジャワイド氏とサード・ジャングダ氏は2020年にBazaarを設立し、パキスタン初のエンデバー起業家となりました。

インドネシア: 10年先を行く国からの教訓

今日、インドネシアは東南アジアで最も活動的なスタートアップ市場の一つです。インドネシアの起業家は、B2B製品プラットフォームのBukalapakや水産養殖スタートアップのeFisheryなど、15のユニコーンスタートアップを生み出してきました。しかし、ここに至るまでには多くの努力が必要でした。

*養殖市場に革命を起こす同郷の起業家、eFisheryのジブラン・フザイファ氏。撮影：Kieran Kesner for Endeavor

エンデバー・インドネシアオフィスを開設した12年前、インドネシアのスタートアップ・エコシステムは苦境に立たされていました。現在のパキスタンと同じように、起業家精神は文化として支持されておらず、経済的・政治的環境は厳しいものでした。インドネシアは、2008年の世界金融危機と2013年の通貨切り下げ「テーパー・タントラム」による国際投資家の引き揚げから回復しつつありました。
 
エンデバー・インドネシアのマネージング・ディレクター、デヴィーナ・ハルトノ氏はこの問題の大きな要因の一つとして、インドネシアのビジネス・コミュニティはスタートアップ企業で働く機会に対して価値を感じていなかったからであると振り返っています。大学卒業後の就職先として皆が大手企業での仕事を求める傾向にあったためスタートアップ企業は人材確保に苦労しチームから人材が引き抜かれるリスクに常に直面していました。
 
それでも、現在のパキスタンのように、インドネシアは若くテクノロジーに精通した人材が多く存在していたため、大きな可能性を秘めていました。当時の人口が2億5,000万人以上（現在のパキスタンの人口に近い）であったインドネシアは、スタートアップ企業が国外展開をする前に、国内で大規模なビジネスを展開できる国でした。

当時、インドネシアの起業家は三つの主な課題に直面していました：

①地元のロールモデル不足：新しい起業家に対してインスピレーションを与えることができる成功したスタートアップ創業者が国内にほとんどいませんでした。また、例え成功した起業家がいたとしても、彼らは秘密主義の文化を持ち、他の起業家を奨励したり、メンターとして投資したりすることを好みませんでした。
 
②限定的な資本：インドネシアの富裕層はほとんどがスタートアップに投資せず、グローバル投資家も同国に焦点を当てていませんでした。
 
③グローバル市場へのアクセシビリティ：国を超えてビジネスの拡大を考える地元のスタートアップ企業は、スケールアップするためのコネクションやノウハウが不足していました。

これらはエンデバー・インドネシアの前マネージングディレクター、サティ・ラスアント氏と故ウェヤ・スリヤ・ワイロト氏が特に注力していた課題でした。彼らはインドネシアのスタートアップコミュニティを拡大するために起業家精神のアウェアネスを育み、投資家と起業家を繋げることに従事しました。彼らはインドネシア発となるユニコーン企業の輩出を支援し、国際投資家やパートナー、同業者とのネットワーキングを促し続け、最終的に成功を収めました。
 
エコシステムが成長し、さらに多くのスタートアップがグローバルな成功を収めるにつれて、インドネシアの起業家たちはエンデバーが提唱する「マルチプライヤー効果」の恩恵を受けました。ユニコーンのステータスに達した企業がイグジットを経験した後、彼らはシード投資家やメンターとして次世代の起業家を支援するようになりました。時が経つにつれて、その従業員たちも自らのスタートアップを創業するようになり、ますます影響力が増していきました。”Mapan”の共同創業者であるアルディ・ハリヤプラトモ氏は他の創業者にとって影響力のあるメンターとなり、特にeFisheryの創業者であるギブラン・フザイファ氏にとって重要なメンターとなり、彼をサポートしました。

*アルディ・ハリヤプラトモ氏のマルチプライヤー効果： アルディ氏が支援した各社を示したマップ

アルディ氏がインドネシアで会社をスケールアップする経験は、他の創業者がより速くスケールアップすることに大きく貢献しました。彼は父の道路建設事業から影響を受け、自国を繁栄させる責任があると信じています。
 
“Mapan”のような成功したスタートアップは、自国で波及効果を生み出すことができます。アルディ氏はインドネシアで最初に選ばれたエンデバー起業家の一人で、2017年に“Mapan”が買収されて以来、彼は12社以上の会社の創業者にメンタリングを提供し、多くのスタートアップに投資しています。さらに、“Mapan”の従業員からはこれまでに8社の起業家が輩出されています。

“若い開発者たちがスタートアップ企業の誕生を目にすれば、さらに多くの開発者たちが触発され、自分たちも起業の道を歩み始めます。”

インドネシアの経験は、パキスタンの創業者やエンデバー・パキスタンに成功のロールモデルを提供します。

成長の準備が整ったパキスタン

パキスタンにおける現地のロールモデルはまだまだ限られていますが、他人を奮い立たせ、投資する数少ない成功した創業者がいます。彼らは重要な存在です。
 
ムダッシル氏はそのような創業者の一人です。彼は2012年にCareemを共同創業し、そのビジネスは2020年初めにUberに30億ドル以上で買収されました。ムダッシル氏と彼の共同創業者であるマグナス・オルソン氏とアブドゥラ・エリアス氏のマルチプライヤー効果は拡大を続けています。
 
彼らは91社に投資し、32のスタートアップの創業者にメンタリングを提供し、元Careemのスタッフは南アジア、中東、北アフリカ全域で124の新しいビジネスを始めました。彼らのコミットメントにより、今日ではより多くの起業家がスタートアップの構築とスケールアップの方法をよく理解するようになりました。

*Careemは、中東初のユニコーンになっただけでなく、創業者たちが「Pay it forward」というコミットメントを掲げたことで、中東初のサクセスストーリーのひとつとなっています。

Careemのようなローカル企業のサクセス・ストーリーは、グローバル・プレーヤーの目から見た起業エコシステムの検証に役立っています。これにより、アーリーステージの資金調達や投資家の関心が高まっています。国際的な資金提供者はここ数年、パキスタンの市場に触れる機会を得ており、これは将来的に実を結ぶと確信しています。

創業者の前途

*エンデバー・パキスタンのローンチイベントで示されたように、パキスタンは世界経済の主要プレイヤーになる可能性を秘めています。それは「もし」という仮説の話ではなく「いつ」できるか時間の問題です。

より厳しいマクロ経済的要因に対処するために、パキスタンのスタートアップ企業は、より一般的なエコシステムの企業群とは異なる発展を遂げる必要があります。
 
パキスタンのような新興市場では、起業家はパロアルトの同業者よりも回復力があり、粘り強く、ある意味では強くなければなりません。
 
自分たちが置かれた状況を理解し、それに適応する現実的な起業家が成功するのです。Bazaarを共同設立したサード・ジャングダ氏とハムザ・ジャワイド氏のような回復力のあるパキスタンの起業家たちは、スケールアップの運営方法を理解する優秀な人材を確保するための方法を既に模索しており、並行してエンジニアが大企業の雇用に戻ってしまうことに対応するための独自のトレーニングを開発しています。
 
著名なハイテク投資家ビル・ガーリー氏は、起業家たちにマクロの観点を無視することを勧めています。マッキンゼーのポッドキャスト「Provocations to Ponder（熟考すべき提言）」の中で彼は、マクロには多くの変数があると語っており、インタビューの中でスタートアップとスタートアップ・エコシステムに関連して心の奥底に残っている2つのことについて話しています。

"まず、スティーブン・コヴィ氏はかつて影響力の輪について語り、バフェット氏は能力の輪について語っていました。マクロの視点で語ることができることは、スタートアップ企業が影響を与えたりコントロールしたりできることではありません。だから、起業すべきかどうかの考えに影響を与える理由はあまりありません。不安は増すかもしれないが、実際の影響はないと思います。"

ビル・ガーリー｜投資家

彼のアドバイスは、優れた製品とチームの構築に集中し、誇大広告にとらわれすぎるなということです。ガーリー氏の視点は、Airbnbの共同創業者・CEOのブライアン・チェスキー氏の顧客に対する焦点の当て方と、マクロ要因を調整する能力を思い起こさせます。

その中でチェスキー氏は、素晴らしいユーザー体験と口コミの増加のための一つのルートは、たった一人のために完璧な体験をデザインすることだと説明しています。「どうやって100万人のために何かを作るのか？どこから手をつけていいかわからない。でも、一人を選び、その人を研究し、その人の旅をすれば、本当に個人的なものを作ることができる。」と。
 
ムダシール氏は、自分が指導するパキスタンの創業者たちによくこんなメッセージを送っています

“資金調達ばかりを追いかけるのはやめて、価値あるビジネスを構築しなさい。"

結局、最も成功した企業の多くは、より困難な時代に設立されています。ディズニーは大恐慌のさなかにガレージで誕生し、Airbnbの創業者たちは2008年の金融危機の最中、家賃を払うのに苦労しながら事業を始め、Slackは2009年のアメリカの大不況のさなかにスタートしました。パキスタンも同じように、イノベーションを起こし、真の問題を解決する創業者がこの時代から現れるでしょう。
 
私たちの共同設立者であるリンダ・ロッテンバーグが常に述べているように：「前へ、そして上へ！」

原文はこちら
https://endeavor.org/stories/pakistan-indonesia/