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学校をほぼサボった時の話

 何故だろうか? 学校に向かう途中、吐き気がした。

 別に高校ではいじめられてないのに。

 少し精神が不安定なので、行けない気がし、学校に電話をすると、家に帰るか、学校に来るかの二択を提案された。

 学校に行けばおそらく吐き気を催すだろうし、家に帰れば非難されるだろう。

 どちらを取っても辛い。

 最終的には話し会う必要があるし、結局向き合わなきゃいけないから、と先生に促され、家に帰ることに。

 当然良く思われず、責められた。

 まあ、当然だろう。

 自分が理由もわからないのに追い込まれていること、自殺願望があること、心療内科に行きたいことを伝えたが、理解はされなかった。

 父親からは携帯電話のスピーカー越しに怒鳴られ、半ば強制的にまた学校に向かうことへ。

 僕の目から堪えてた物が流れてきた。

 そういえば昔から父には良く怒鳴られてたっけ、特に昔は感情のコントロールが出来ない人で、一文字字を汚く書いただけで、勉強を教えて貰った時、僕の理解力が無いせいでぶたれてたっけ。

 全てが急に嫌になって、僕は玄関を出る前、泣きながらやーめた! と言い家を出た。

 ああ、気持ち悪い。

 前髪を掻き揚げながら思う。

 何でこんな嫌な気持ちにならなきゃ学校に行かなきゃいけないんだろう?

 いじめられていた時よりも辛いや。

 駅につくまでに涙は収まったが、心の中には不気味な怪物のような何かがあぐらをかいて居座っている。

 同じ電車内にいる人に自分の考えが見透かされないよう、窓から外の景色を眺める。

 世界は広い。

 この僕が見ている景色よりもずっと広い。

 僕が生きている間に世界の全てを見ることは叶わないだろう。

 僕の夢には色んな物があるが、その中の一つにこの世界にある景色を直接この目で見る、という夢があるのだ。

 そんなくだらない夢を思い出したころに、いつも降りている駅のホームが見えてきた。

 階段を登っていると、僕の前方にいる人がシークレットシューズを履いていることに気がついた。

 体のバランスに違和感を感じていた理由に今さらながらきずくが、僕はそれに気がついても何も感じなくなったらしい。

 今なら通り魔に刺されても、鼻で笑えるような気がする。

 むしろ死ねるなら光栄だ。

 改札を出て、通学路を歩き始める、普段の僕ならこのまま学校に行くが、今の僕は違う。

 普段通らない道を、感に任せ進む。

 進んでいくと、小さな公園についた。

 人二三人が腰かけることのベンチにリュックサックを下ろし、隣に座る。

 何もする気が起きない。

 唯一したいことと言えば、死ぬことくらいだ。

 何も考えずスマートフォンを取り出し、死にたい、と検索する。

 すると検索結果の最上位に『ヘルプが利用可能今すぐ相談する』という文字の下に、こころの健康相談統一ダイアル、と言う以前偶然つけたテレビで特集されていたセンターの電話番号が出てきた。

 ボランティアのため、人手が足りない、ということが報道されていたため、ここに掛けるのは気が引けた。

 その下に厚生労働省の自殺対策のページが出ていたため、深く考えずにタップして見れば、たくさんの相談ダイアルが出てきた。

 今までこういうところにかけようとは思っておらず、自分がかけることは無い、そう思っていたが、人生何があるかわからないものだ。

 幾つか掛けてみたが、対応時間外のため、つながらず、諦めかけたその頃、法務省の人と相談出来るという相談ダイアルに繋がった。

 電話に出てくれた方は、若い男性らしい。

 少し砕けた、それでいてどこか温かい声音を持った優しい方であった。

 学校ではいじめられていないのに、何故か学校に向かうと吐き気がする事を伝えると

「うーん、じゃあ疲れてるのかな?」

「多分そうなんだと思います」

「じゃあ今日は、さぼっちゃおうか」

 この一言を聞いた時、自然と目頭が熱くなり、頬を伝う水滴が止まらなかった。

 僕はこの短い言葉に救われたのだ。

 ようやく、自分という弱者を理解された気がした。

 電話越しに自分が泣いていることを悟られないようにするのが必死だった。

 犬の散歩をしている老婆が通りかかる。

 この方は私を見てどこか憐れんだような表情をし、どこかへ去っていった。

 あの老婆が私をどのような人だと捉えたかは未だに私には解らない、いや、解りたくもない。

 近くの図書館に行き、その後自習をしていた。

 その後は思い出したくもない。

 学校側から僕が学校に来ていないことがばれ、家族から連絡が何件も来ていた。

 基本サイレントマナーモードにしてるのでバイブ着信が来ることがないので、わからないのだ。

 家族からどうこう言われるのも嫌なので、そのまま学校に向かう。

 なかなか校舎に入るのはなかなか勇気が必要だったので、気をまぎらわせるために、クラスメイトに何で遅れたのか聞かれた時のためのジョークを考えた。

 今までピエロの仮面をかぶってツケがここで回って来るとは思いもしなかった。

 この世は鏡、自分がしたことは悪いことも良いことも返ってくる。

 いつか誰かが言っていた言葉、これは何度も忘れては思い出し、忘れては思い出しを繰り返していつも自分を強く叩く言葉だ。

 僕は昔の記憶に未だにさよならを告げられない自分にうんざりしながら廊下を歩く。

 クラスメイトと偶然すれ違う、すれ違う五秒前にクラスメイトは口を開き、少し笑いながらこういった。

「もう終礼終わったよ!」

「マジで!? 電車が遅延しなければなぁ~」

 聞かれもしていないのに用意していたジョークを言う。

 自分の社交性のなさにうんざりしながら、僕はもうどうにでもなれ、と思いながらクラスのドアを開ける。

「おはよう!」

 クラスメイトが僕の姿を見ると同時に挨拶してきた、もう昼越えてるぞ、と思いながら僕はクラス中にわざと聞こえるように

「あー! 電車が遅延しちゃた~!」

 と棒読みでそう発した。

 クラスメイトがどう思ってるかはわからないが、多分変なヤツだと思っていることだろう。

 まあ、そのキャラで通しているのだが。

 いつの日からか、変なヤツというペルソナを僕は被るようになった。

 このペルソナを被っている時は嫌なことを全て忘れられるし、なりたかった自分になれた気がして、楽だった。

 上手く人の感情を汲み取ることが出来ないから、変なヤツという仮面を被ろう、それが変人として生きることの始まりだった気がする。

 その後はクラスメイトと適当に会話を交わし、十分弱で下校した。

 下校する前に担任と話をしたが、僕が小学校三年生からうつ病を引きずっていることを知っているため、ある程度理解してくれた、気がする。

 下校する時、不思議と脳裏に親友の顔が思い浮かんだ。

 僕が尊敬している人物の一人である。

 彼は絵が上手く、僕よりジョークのセンスがあり、先生が話している時、僕がボーッとしていれば、お前ちゃんと話聞けよ! と注意してくれる素晴らしい人間だった。

 僕は彼のようなカッコいい人間になれているだろうか?

 最期に彼は何を思っていたのだろうか?

 彼のような強い人間に僕はなれるだろうか?

 下らない疑問を浮かべながら僕は重い足を運ぶ。

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