【随想録*01】貯金残高10万円

とにかく何かはしていなければならない、生きている限りは。
焦燥感に追い立てられた心とは裏腹に、僕は未だに就労を果たしてはいない。
怠慢と、未来が確定してしまうという恐怖のせいで、僕はまともな大人にはなり切れなかった。

1、現実の光で角膜が

最近、やっと通帳管理アプリをスマートフォンにインストールした。
表示された数字は、7桁に満たない金額。
同世代の友達だった奴や、好きだったあの子よりも、明らかに少ないだろう貯金額に辟易とした。
自己と他者を比較するのであれば、僕よりも貯金額の少ない人間も居るには居るのだろうが、≪まともな大人≫という線引きに排他された僕らには、どんぐりの背比べ程に滑稽なものと理解しているので、そんな事はできもしないのだ。
未来も過去のことも同じくらい考えたくはないが、現在を直視するよりかはいくらか楽だと気付いたのはいつの事だっただろうか。

2、偏在する現在の免罪

話は変わるが、僕は高校を就学して大学を中退した、どこにでもいる間抜けである。
そこから十数年、まるで就労しようともせず、アルバイトで生計を立てる日々である。
家賃は3万前後、上京したての学生が住むような部屋にずっと住んでいる。
壁は薄く、夏は暑く、冬は極寒である。
劣悪な環境だろうが、それでも家賃のみは長年支払ってくれている両親に感謝しなければならない。
そればかりか、進学に必要な100万円単位の投資をこの僕にしてくれていたというのに、その期待を裏切り続け、騙し続けている。
最低な人間とグーグルで調べれば、検索候補に僕の本名が出てくることだろうと思う。
ここで開き直り、それこそパラサイトの様に生きられる胆力がこの僕に存在していたなら、どんなに人生が楽だっただろう。
いつまでも変わらない、完成されたぬるま湯に浸かりながら、ブヨブヨと親の金銭を啜る僕の肌はヒルよりも醜い。

3、嫉妬だけは一人前にする化け物

もう、今月は12月である。
世はクリスマスに近づき始め、浮足立つイルミネーションやイベントが乱立され、女は受精の準備を始め、男は射精の準備を始める。
人並みの幸せを自ら手放したくせに、街往くカップルのシルエットに呪詛を呟くなんてのは朝飯前である。
モテる努力もせず、男の癖に伸び切った前髪を風に飛ばされないように俯いて歩く姿は、さぞや化け物らしく気色が悪いだろうなぁと妄想しながら歩く。
そんな自分のことが嫌いではないのが、歪さに輪をかけているのは気づいている。
が、他者の目の為に自分の容姿を変えないという傲慢さは、視点を変えると貫き通す男のカッコ良さがあり、それを見出してしまった僕の口元は湾曲する。
キモい見た目よりも、その精神性の方がキモいという二重の罠で、良心から寄って来てくれる人間を全て弾き飛ばし、孤独を誇るキモヲタがそこには居た。
ここで言い訳を一つさせてほしい。僕はカードショップに生息する、”ヲタク”を誇りに思っている”オタク”の様にファッション感覚でジャラジャラと萌えグッヅをカバンに貼り散らかさないし、風呂は一日一回は入るし、現実でネットスラングを吐き散らかさない。
そんなことを心掛けていても、朝方に発見される吐瀉物の形跡と、カラスに荒らされる生ゴミ位にしか違いはなく、見る方からしたらただ単に不快なだけなのだ。
客観視ができても、自己嫌悪の材料にしかならないのだからお笑いだ。

4、脆く歪なチェリボーイ

正規雇用されている訳でもないのにGABAチョコレートを食い、ストレスを低減させようとしている。
周囲からは失笑こそ聞こえ、共感は得られない。
実り実った僕の果実は収穫の時期をとっくに越え、今や腐乱してストレスという名の重力によって叩きつけられ、道端に飛び散っている。
執筆の途中だが、ニコチンが切れたのでベランダで吸ってくることにする。
……あまり、うまくなかった。
だが、ニコチンが入るとそれまで考えていたことが霧散し、もうどうだっていいかと思えるようになる。
問題を先延ばしにする癖を助長するように思考は遅延を始め、僕は今日の駄文書き散らしの刑罰を終了することにする。
おはよう世界。


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