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13.New adventures in Hi-Fi サラダ・ニソワーズ

地中海に面した南仏のコート・ダジュール地方にある都市ニース。隣には映画祭で有名なカンヌ、都市国家モナコ、ブイヤベースで有名なマルセイユなどがある。イタリアとの国境も近く、バジルで有名なジェノバ地方、イタリア北最大都市ミラノもすぐ近くだ。
にんにく、オリーブオイル、トマト、ハーブをたっぷりと使う南仏の料理はイタリア料理との共通点も非常に多い。

よく話題に上がるフレンチとイタリアンの違いとは何なのか?という議題だが、結局のところはフランスもイタリアも地方の郷土料理の集まりであり、簡単に明確にできるものではない。大切なことはその地方の文化であり、料理を知るということだと思う。フレンチにもイタリアンっぽさがあり、その逆も然りだ。
もちろんそれは和食だって同じだ。日本中で食べられているからといってデミグラスハンバーグが和食だというのは、非常に傲慢な考えだと思うし、かといって大根おろしに大葉とポン酢で食べる和風おろしハンバーグを和食ではないというのはやはりちょっと違う。

料理の多様化が極限にまで達している昨今、料理人はまずはその料理の発祥を知り、その国の文化と独自に結びついた料理を見極める目が大事になってくると思う。
芯のない物語のない歴史のない自分もいないフュージョン創作料理は、常に浅く甘い50℃くらいの脳の湖から産まれてくる。そして2歳くらいで死んでゆく.....今も何処かで天才かぶれの料理人が産んだ料理が死んでゆく....天才になれると良かったのにね....残念だよ....

サラダの語源は諸説あるが、フランスでもサラダとして呼ばれる。フランス語(salade)でもあり、英語(salad)でもある。もちろん完全に日本語としても通じる。
サラダは料理名であり、調理法ではない。これがフランスと日本との違いだ。

サラダ・ニソワーズと呼ばれるいわゆるニース風サラダ。日本でもかなり一般的な料理だと思うが定義的にはアンチョビ、ゆで卵、オリーブ、ツナ、葉野菜、トマト、いんげん、ゆでたじゃがいもなどをドレッシングで和えた料理のことをいう。

このドレッシングの違いがフランスの文化となる。フランス語でドレッシングはヴィネグレットソースという。酢と油であり(大体1:3くらいの比率)、酸味とコクとも言える。
日本のように胡麻、シーザー、梅、青じそ、イタリアン、チリソースなどと市販品がある訳ではないのだ。さらにフレンチドレッシングなどという最強に意味不明な商品まである。おいおい、フランスのどこの何のことを代表して語ってんだよ。それをいうなら、ドレッシング誤解の象徴の女王マヨネーズ(mayonnaise)はフランス語なんですよくらい言ってくれよ。

ヴィネグレットソースは白ワインビネガー50cc、オリーブオイル150cc、軽く塩こしょうを混ぜる。これだけで完成だ。これをいわゆるサラダとして使う素材にかける。
全く美味しくない...当然だ。びっくりする程美味しくない。駆け出しの料理人がまずぶち当たる壁がこのビネガー(酢)だ。

サラダに使う素材はは皿に盛る前にボウルに入れて、調味(メランジェ)する。これがフランスのサラダだ。ボウルの中にヴィネグレットソースをかけ、塩こしょうをふって味を馴染ませる。ビネガーも油も脇役であり、塩こしょうを引き立てる、さらにいえば素材を引き立てる役目になる。
そもそも市販品のドレッシングをただかけたサラダを料理と言えるのか.....野菜の味よりもドレッシングの味の方が強いに決まってる。それは美味しいのか.....美味しくなんかないさ。プロがそこを認める訳にはいかないんだよ。

メランジェを繰り返していくことで、僕達料理人はサラダという料理の無限の可能性を感じることになる。使う調味料は何を足しても良いのだ。そこでやっと青じそ、梅、にんにく、マスタード、わさび、チーズ、胡麻などが登場する。あくまでもボウルの中でだ。
素材だって自由だ。りんごとブルーチーズ、紅茶とトマト、スパイス、肉、フォアグラ....
皿にオマール海老の出しやフォンドヴォー、トリュフ....酢と油があれば何を足しても自由だ。
更にフランスには数多いビネガーの種類がある。穀物酢や米酢だけではないのだ。りんご、生姜、パッションフルーツ、オレンジ、イチジク、ピスタチオ、木苺、シャンパン、はちみつ、レモン、バルサミコ、マンゴー、シェリー酒.....本当に沢山のビネガーがある。
ヘーゼルナッツ、くるみ、鴨、ハーブ、バターなどの油もしかりだ。

料理上手な人の物差しを測るのに、サラダは悪くない料理だと思う。0を1にした後、100にできるのか、それとも1で終わるのか簡単に判るのだ。
サラダは料理名であり調理法ではない。

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