見出し画像

12.There is a light that never goes out テリーヌ

小説には純文学と大衆文学とがある。
賞も純文学は芥川賞、大衆文学は直木賞とわざわざ違いがあり、きちんとした判別がある。作風の違いであり、対象の違いであり、目的の違いであり、どちらが優れているのかの比較など全く意味をもたない。
これは映画や音楽にもいえることだと思う。
トムクルーズ主演の映画にしたって、マグノリアやアイズワイドシャットや7月4日に生まれてを、ミッションインポッシブルやトップガンと比較してどちらが優れているのかなんて難しい問題だ。
羊たちの沈黙やロストイントランスレーションをどうやってスターウォーズと比較すれば良いのか.....
音楽だってそうだ。僕はただのロック好きなのだが、トムウェイツ、デヴィッドボウイ、ナインインチネイルズ、レディオヘッドなんかをモトリークルーやジューダスプリーストなんかと比較はできない。
どちらも世界中にファンを持つ優れた音楽であり、結局のところはただの好みだ。
問題はこの好みというヤツだ。それはそれ、これはこれだと別のフォルダー内で考えてもらいたいのだ。

この問題は飲食業界にもあてはまる。
ジョエルロブションとサイゼリアを同じフォルダー内で考えられても困るのだ。もちろんロブションは純文学であり、サイゼリアは大衆文学に当てはまると思う。ロブションが商業的に成功しているからといって、大衆文学の文脈で語ることはどう考えても変態思考だ。
世の中には純文学のアティテュードで大衆文学に挑戦して、純文学のアティテュードのまま商業的に成功を収めてしまった人達がいるのだ。僕はこんな人達を″天才″と呼んでいる。素晴らし過ぎて天才としか言いようがない....
クリストファーノーラン、ドゥニヴィルヌーヴ、村上春樹、ヘミングウェイ、U2、ニルヴァーナ、イチロー、松本人志、メッシなんかだ。きっと彼等は世界から解放されて、自己の世界の中で何かが弾けてぶっ飛んでるのだろう...
フランス料理人ならば、ポールボキューズ、ジョエルロブション、アランデュカスになるだろう。彼等はフランスでミシュランの星付きのレストランを持ち、それらを世界中に展開しているのだ。どんな経営能力なのか検討もつかない。

フランスにテリーヌという料理がある。実際にはテリーヌとは型の名前であり料理名ではない。テリーヌ型と呼ばれる台形のような型で作られれば定義的にはテリーヌと呼ばれる料理になる。
豚ミンチやレバーを焼き固めたパテドカンパーニュ、ゆでた野菜や海老などをゼラチンで固めたテリーヌ、フォアグラのテリーヌ、豚肉をゆで固めたジャンボンペルシ、塩味のパウンドケーキのようなケークサレ、パイ包みのパテアンクルート、チョコのテリーヌ、果物のピュレとイタリアンメレンゲを合わせて冷やし固めたパルフェ.....型に入れてしまえばテリーヌであり、発想は様々で料理人のデザイン制、嗜好、遊び心などが反映されやすい重要な料理だ。

僕が修行を始めた20年程前にテリーヌといえば、魚のすり身に赤パプリカのピュレと生クリームを合わせた、ちょっと滑らかなかまぼこのようなものが代表作で、多くの人がこれをテリーヌという料理だと思っていた。そしてその料理はびっくりするほど不味かった....

一体誰が何の為に、あんな不味い料理をフランス料理の代表作ですみたいな顔をして作っていたのだろう.....切って置くだけだから作業制抜群、既製品だって数多くある。フレンチといえば1皿目にあいつが出てくるのだ。フランス料理って美味しくないよねって言われるのもよく判る。
魚のすり身だけでは美味しくないので、必ず帆立のすり身を足す。ポルチーニやジロールなどの茸を加える。粉チーズ、ドライトマト、ほうれん草、ハーヴやスパイスなどを足す.....工夫しないと美味しく仕上がらないのだ。さらにテリーヌの横に魚のカルパッチョやいくら、野菜のマリネなどを添えて、ある程度の濃厚なソースが必要だ。かつての料理人達も本気でこれを美味しい料理だと思って提供していたのだろうか.....間違いなく思ってなかっただろう....フランス料理なんて全く好きでないのに何故かフランス料理人をやってるヤツなんて未だに沢山いる。というかそんなヤツばかりだ。
彼等は料理のコツを知らない....だから作るフランス料理が美味しくない。だからフランス料理は美味しくないと思っている。不味さを生み出す半永久機関だ。

そして彼等には純文学の精神がない。何故かフランス料理人をしてるだけで純文学の精神を持ってると勘違いしている。大衆文学の精神しか知らないから、実際のところ大衆文学も表現できない。大衆文学を作るのがどれ程難しいことなのか、量産型純文学ぶりっこ料理人は知るべきだと思う。

料理人の社会的地位はどうしても上がらない....給料も上がらない.....利益も上がらない....それが何故なのか僕達は見つめ直すべきだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?