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10.Monkey gone to heaven フレンチトーストとパンペルデュ

バケットという言葉は一体いつくらいから一般化されたのだろう?
田舎育ちだったこともあるが、昔はバケットのことを誰もが、いわゆる"フランスパン"と呼んでいた。硬くてバリバリと音を鳴らして食べていた。このパンの何が美味しいというんだと思っていた。30年くらい昔の話だ。
それから10年が経ち、調理師として活動する頃には、名称が変わりフランスパンはバケットとして呼ばれるようになっていた。
やっとフランスパンは細分化される権利を得たのだ。少年時代と違い、硬い訳でもバリバリと音が鳴る訳でもなく、ただただ美味しかった....

パイ生地を巻いて焼いたクロワッサン、バターがたっぷり入ったブリオッシュ、バケットを丸く成型したブール、ベーコンやチーズをいれたエピ、ラグビーボール型のクッペ、ライ麦や全粒粉で作るパンドカンパーニュ、チョコレートを詰めたパンオショコラ.....当然だが"フランスパン"にも色々ある。
そして未だによく分からない名称と宿命を背負っているパンがひとつある。
フレンチトーストだ。

おやつの定番であるフレンチトースト。作り方はもちろん簡単だ。

食パン    4枚
卵      6個
牛乳     330g
グラニュー糖 70g
バニラエッセンス 少々

家庭ではリッチ過ぎる分量かもしれないが、大体この辺りが標準的なレシピだ。材料をよく混ぜて、食パンを3時間程浸し、バターで焼き上げる。浸す時間はガチガチに硬いバケットならば1晩浸した方が良いだろうが、柔らかい食パンならすぐに浸透するだろう。仕上げにメープルシロップやバニラアイスをかけて食べる誰もが知ってる最高に美味しいパンだ。

材料だけ見れば、クレームブリュレやクレームキャラメルとなんら変わりない、ただのデザートだ。
なのでアレンジも豊富だ。オレンジジュース、紅茶、ピスタチオ、カシス、抹茶、レモングラス、シナモン.....発想次第で幾らでもバリエーションができるのも面白い。

フランス語の語感の問題なのか、義務教育が英語のせいなのか、いつもいつもフランス料理は勝手に英語で浸透されてゆく。フランス語なのに英語だと思い込まれてる言葉も数多いはずだ。僕達フランス料理人はいつもその壁に悩まされる。だがだからこそビジネスチャンスがあるともいえる。What a wonderful world...ララララ♫

フレンチトーストはフランス語でパンペルデュと呼ぶ。フランスパンはバケットと呼ばれるようになったが、フレンチトーストをパンペルデュとは誰も呼ばない。意味は直訳で失われたパン。
硬くなったパンや、形の悪いパン、食べれなくて余ったパンなどをアパレイユに漬け込みバターで焼くことによって、再生させたパンということだ。とてもロマンスを感じる名前だと思う。これこそがフランス語の魅力であり、料理に秘められた高い文学性だ。なにしろマルセルプルーストを生んだ国だ。文学性の塊のような読破しにくいランキング個人的No.1の小説を生んだ国だ。
僕は料理に込められた物語が大好きだ。初めてカルパッチョの意味を知った時、カルボナーラの意味を知った時、プッタネスカの意味を知った時.....イタリア料理の遊び心満載の物語は最高に楽しかった。
そしてフランスはとにかくロマンティックだ...さらにとても機能的であるともいえる。さすが芸術の都パリをもつ国。その国の料理を学ぶということは、その国の文化を学ぶということだ。

この素晴らしき世界で生きていく為には、結局は自分を素晴らしいと呼ばれる領域に高めてゆくしかない。素晴らしい人が世界を素晴らしいと言うのは当然だ。世の中に残された前向きな名言は、ただの成功した上級人の自己満足で下級人を蔑んだだけの言葉だ。怠惰な人間には素晴らしき世界など目には映らない。いつもいつも美しいものが見えない。だが不満を言っても仕方がない。生まれながらにして成功してる人も沢山いるだろうが、多くの成功人はその領域に至るまでに想像も出来ない豊かな戦いを経て、成功へのチケットを手にしたのだ。

ではその戦いに負けた人はどうなるのだろう?

勝つまで戦うしかないのだと思う。1度ステージにあがった人間は降りるわけにはいかないのだ。The show must go on....ショーは続けなければならない。考えて考えて、行動して行動して、失敗を成功に失敗を成功に....



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