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授乳の予感

 突然だけど、乳首の先から体液が出るっておかしいと思いません?

 いや、出産したもんだから母乳が出るのは当たり前なんですけど、フツーに冷静に考えてみたらおかしいでしょう。異常事態ですよ、これは。

 そう。だってこれは血液だもん。完母の人なんかは1回に100ccとか出せちゃうらしいで。そんなんフツーに死ぬやろ。

……ってついつい喋れたこともない大阪弁になってしまうそんな真夜中がポイズン。

 わたしはひとり息子に拒否られているほうの乳房を絞って搾乳を行っています。


 倫理的にどうなの、と夫とトイザらスの売り場でさんざんディスりまくって購入したピジョンの手絞りタイプの搾乳器。今になっては電動のほうが楽だったのかもなぁと、腱鞘炎で痛む手で搾乳しながら思ったのでした。

 もういいです。わたしは牛で。


 母業をはじめて4ヶ月ほど経った頃から、わたしの乳房は授乳の予感を敏感に察知し始めました。

 医学的にはどう説明されているのかわからないけれど、わたしの感覚ではこんな感じ。

 まず、Bluetoothでつながっている息子の腹の具合をわたしのどこかが受信する。そのタイミングになると、世界の温度は急激に上昇を始め、同時に体温が一気に7度5分くらいまで上がる(気がする)。


 もし授乳中の母親が「ここ暑いわね」と言った場合、今すぐ避難を始めたほうがよい。両乳房に向かって身体中の血液が集まってくるときっていうのは、乳房は上半身だから頭に血がのぼる感覚に似ている。

 イライラするのだ。

 細かいことが考えられない。

 このタイミングで急に部屋は埃にまみれ、夫は頼んだことを何ひとつやってはくれず、半分乳を出しかけたタイミングでインターホンを鳴らした配達員を怒鳴りつけたくなる。がるるるる。

 5分ずつくらい両乳をうまく吸ってくれると、あるタイミングですっと、室温が下がり、涼しさと思いやりと心の平穏が戻って来る。

 両腕には自分から出てきたのにこんなに可愛くていいの? くらい愛おしい我が子、部屋のちょっとした埃くらいで人は死にませぬわ。そしてソファーの影から顔をのぞかせる夫、いつもいてくれてありがとう。

 玄関に届いているのはZOZOTOWNで注文したずっとずっと欲しかったマタニティじゃないお洋服。すっきり爽快、今日もハッピッピー。


 つまり感覚的には自動的にたまり、我慢できなくなると出ちゃうおしっこよりも、意図的に放出するおたまじゃくしちゃん寄りなのでは、と思うのです。

 従って「母乳出てる?」って気安く聞いてくる殿方にはぜひ「そっちはどう? 精子出てる? え、出てないの? なんでなんでなんで」と返せばよろしい。

 うふふ、気まずいでしょう? だから最後に一言言わせて。母乳かどうか聞かないで。完母じゃなくてもうちの子すくすく育ってます。

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