オススメ本#4~宮島 未奈 著『成瀬は天下を取りにいく』
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
という冒頭の一行だけで、面白さがわかる。
魅力的な登場人物、そして青春を思い出す。
これを読んで、浮かんだのは「この感覚を忘れてた」ということでした。
正直、”天下を取りにいく”ことを思い出させてくれました。
久々の小説読了。全世代にオススメできます。
それでは早速、おすすめポイントを!
6つの短編から、つながるストーリー
この本を手に取ったのは、本屋のPOPを見た。事前情報は何もなし。
”最高の主人公”というフレーズに、思わず手を取った。
おそらくヒーロー的な主人公が何かに挑戦をして、達成していくストーリーなんだろうな。と思って読み始めた。すぐに意表を突かれた。
…あれ、これ短編なんだ…。
いやいや、あっという間に一章読み終わってる!
この作者の方は、この「成瀬は天下を取りにいく」がデビュー作とのことですが、素晴らしいリズム感の文章を書かれる方だなと思います。
おそらくポイントは
・登場人物が、ストーリーテラーになっている点
・その話しかけ方が、端的な言い切り型になっている点
でしょう。例えるなら、非常に上手い”講談師”がリズムよく軽快に、釈台と張り扇で進めているような感覚。
あっという間に読了してしまったというのが、この作品です。
これは、読みやすさの観点からも是非、中高生にオススメします。
しかしある章に関しては、その形も崩している。
それがまた読むものに違った視点の新鮮さを与えてくれているのだと思います。そしてこれが一つの小説に”つなげる”手法なのだと、感じました。
文章の魂”冒頭文”の力強さ
私が国語・現代文の授業を行っていた際に、必ず問題を解く場合のポイントとして、
”必ず一度は、冒頭に戻ること”
を伝えていました。大雑把に言うと
論説文や随筆であれば、基本は”抽象→具体”と論が進みます。
小説文では最初にテーマやナゾ、または初期設定などを盛り込みます。
この小説では、それぞれの章ごとに”冒頭文”から魂を感じました。
1・2章は、目を引く”会話”から
3~6章は、読む側に少しの疑問を持たせる中身。
語り手は誰なんだろう。なぜ頭を抱えたのだろう。なぜ目を離せないのだろう。選手は誰なんだろう。
冒頭文は、作者の想いがかなり込められているもの。
ここからどんな展開が待っているかを期待させる”冒頭文”の秀逸さに心惹かれます。
魅力?不思議?主人公「成瀬あかり」
もし実在していたら…
そうした「たられば」を考えたくなってしまう主人公。
でも完全無欠ではない。成長も見える。
何を出発点にして、行動しているんだろう。
何を経験して、こうした言動をするんだろう。
不思議の中に、根拠も持っている。
こういう風に生きてみたいという憧れも抱かせる。
もし自分が担当している生徒に彼女がいたならば、
私はその成長を見てみたい。
行動や言葉の奥にある”筋”を見てみたい。
ただ、指導はしづらいだろうな(笑)
でも、大人が出来ることは、見守ること。
そう感じさせてくれる主人公。
これを”魅力”と言わずして、なんと言うか。
書籍の帯に書かれていた
「”かつてなく”最高の主人公、現る!」
は、『言い得て妙』である。
高校生のリアルな葛藤「線がつながる」
個人的には、第4章にあたる「線がつながる」が好きな話でした。
全ての話が、面白いものであるのは間違いないのではあるが、高校生のリアルな葛藤がこの章には描かれていて、面白い。
”成瀬あかり”という主人公に翻弄される周囲。
特に、プラスの感情で翻弄されることだけではなく、
やはり”不思議”はマイナスの感情にも働く。
太陽は必要ではあるが、時として眩しすぎる。
その明るさに、ついていきたくなる人もいれば、
眩しすぎて、それが鬱陶しく感じることもある。
これは多感な時期であれば、尚更。
こうした心情や、実際の生活の中での葛藤に悩む様子も考えさせられる。
そこに悪意はない。
今を生きることに精一杯なだけ。
そうした心情変化・成長の様子もこの章のなかで描かれています。
もし私が現代文の問題を作るなら…と考えながら、読んだ章でもあります。
是非、高校生の葛藤、成長を見れるこの部分、読み進めてみて下さい。
もし、まだ”読書感想文”で題材に困っている学生・生徒の方がいれば、
ギリギリかもしれませんが、まだ間に合う!笑
大人の方でも、あの時代は…という懐かしい想いを馳せることが出来る作品だと思います。
そして私は、ちょっとお尻をたたかれた気がしました。
もっともっとやれることありますよね?と。
こうした作品に出会えたこと。
感謝です。
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