世界的知性から言われる「なぜ日本人は、東京五輪を中止できないのか」を読んでの感想

『世界的知性が続々苦言「なぜ日本人は、東京五輪を中止できないのか」(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社』

に関する感想です。

たとえばピーク時の今年1月初旬、一日に7万6000人もの感染者を出していたイギリスは、同月中旬からワクチン接種を急加速し、現在は新規感染者を一日2000人程度まで抑えることに成功している。これは日本の半分の水準だ。

コロナの抑え込みについに成功しつつある欧米諸国から見て、いまや日本はコロナ対策後進国である。彼らからすれば、東京に自国の選手団を送り込むのは不安で仕方がないだろう。

しかし日本政府、そして五輪を取り仕切るIOCの首脳たちは決して「中止」を口にしようとはしない。その最たる理由が「大損をするから」だ。

いやたぶん、そうではなくて、
単純に止められないんですよ。
「止める」とか「後戻りする」という言葉は、日本の辞書(というかルールブック・行動規範)にないのですよ。

公共事業の計画でも、当初の目的から見れば必要がなくなっても、理由を変えて進めるじゃないですか。
原発でも、耐震設計が今時の一般住宅より劣っていても、稼働させようとするじゃないですか。
国際協力の高速炉「ASTRID(アストリッド)」でも、開発主体のフランス政府が規模縮小を検討しても止めようとしなくて、結局フランスの凍結で止まったじゃないですか。

だから、
プロジェクトXで語られる話の中には「初志貫徹の向こうに成功が待っていた」なんてものがありますけど、
私から言わせれば「単に止める選択が無かっただけでしょう?」と思うことがあるのです。
それでまた日本人はそういう話が好きだったりするわけです。
そりゃそうです。予定通りに物事を進めて、艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えて、その先にある成功を掴むというのは、タイプ6の理想の形なのですから(タイプ6なら苦労はできるだけ避けるたがるでしょうけども、艱難辛苦があるからドラマとして語り継がれるわけです)。


5月11日、米最大手紙のニューヨーク・タイムズに「五輪を中止せよ」と題する歯に衣着せぬ論考が掲載され、世界中で話題となった。

〈科学的思考にもとづいて、この危険な茶番を止める時が来た。東京五輪は中止すべきだ〉

〈だがそれでも、五輪という暴走機関車は止まらない。三つの大きな理由は、カネ、カネ、そしてカネだ〉

この論考の筆者であり、元五輪サッカーアメリカ代表選手で、現在は米パシフィック大学教授・政治学者のジュールズ・ボイコフ氏が言う。

この「三つの大きな理由は、カネ、カネ、そしてカネだ」という、アメリカ人であるジュールズ・ボイコフ氏の見解は、まさにアメリカ的な視点・アメリカ的な価値観だと言えるものです。
それは、後で紹介するロサンゼルス・タイムズのスポーツコラムニスト、ディラン・ヘルナンデス氏の言葉、「アメリカは経済最優先の国ですから、たとえ人が死のうが経済を回せ、という雰囲気がある」とも連なるものです。
アメリカの今後の行動がここから予想されます。


(ドイツ・ボン大学国際哲学センター所長の)ガブリエル氏は、「日本が五輪中止を言い出さざるを得なくなった場合、IOCからの訴訟の嵐に見舞われるのではないか」と懸念する。

「開催都市契約」の第9条「IOCに対する請求の補償と権利放棄」では、かいつまんで言えば、「五輪に関するあらゆる損害賠償や損失の補填は、開催都市が負う」ことが定められている。

五輪に関する謎の一つに、損害賠償の問題があります。
でもこれ、メディアも著名人も関係者も責任ある人ですら、誰もそれを説明してくれません。
今回の記述で少しだけ内容が分かりました。

損害賠償や損失補填が交渉事となれば、日本は弱いでしょうね。交渉や喧嘩が苦手な国民性でもありますし。
それを頑張るよりは、国民に知らせず、黒塗りにして、サッサと負けを認めるような気がしています。
どうせ自分が払うお金ではないのですから。。

東京五輪を強行して、もし大規模なクラスターが発生したり、あるいは「東京株」とでも言うべき変異株が生まれてしまったら、東京五輪は日本の汚点になる。

「こうなることはわかっていたのに、なぜやったのだ」と、全世界から批判が殺到することは避けられない。

一方で中止に踏み切れば、日本はただでさえコロナ対策で身の丈に合わない支出を垂れ流しているのに、さらに大きな金銭的負担を背負わされるかもしれない。どちらを選んでも、待ち受けるのは茨の道だ。

似たような話で、『日本の医師による「東京五輪株」危惧発言が海外で大波紋(東スポWeb) - Yahoo!ニュース』というのが出ています。
ネットでは「新型コロナ変異株五輪」だとか「蠱毒(こどく)」なんてことも言われています。

大規模クラスター、「東京株」などの死者に関しては、言われていても止められないのが今の現状です。
これはもう、集団自殺伝説のあるレミングを笑えなくなっています。

※ レミングの集団自殺は、1958年のウォルト・ディズニーによるドキュメンタリー映画『白い荒野』で有名になった話。“やらせ”だったらしい。


また前出のボイコフ氏は、「五輪を強行したときに考えられるリスクは、コロナそのものだけではない」と指摘する。

「五輪が『スーパー・スプレッダー(ウイルスを爆発的に拡散させる原因)』となる危険性はもちろんあります。しかしそうなった場合に恐ろしいのは、感染爆発だけではありません。

ある知人は、『もし東京五輪で感染爆発が起きたら、アメリカではまたアジア人に対する暴力が多発するのではないか』と懸念していました。私も同じ危惧を抱きます」

これはあると思っています。
アメリカ人であるボイコフ氏が言うくらいです。あると思います。

南ドイツ新聞記者、ハーン氏が言う。

「(略)今回のコロナ禍で分かったのは、日本は『予防すること』には長けていても、想定外の事態に的確に対応するだけの危機管理能力が欠如しているということです。(以下略)」

安心・安全・安定が大切な日本だから、『疑念者』となって、減点思考で、『予防すること』になりはするのです。
ただ一方で、その予防には限界があって、一定以上の予防になる場合や、その対応が混沌や未知と接するようなときには、逆に楽観となって、大丈夫とばかり無視する傾向が出て来ます。
これは、311以前に安倍元首相や専門家を含む大半の日本人が、原発に対する津波の脅威を無視したのと同じ構造です。

そして、南ドイツ新聞記者ハーン氏の指摘の通り、安心・安全・安定が壊れた状態の「想定外」となった事態に対応するだけの危機管理能力は、もちろん欠如しています。

日本人は、未知や混沌に弱いのです。それは、安心・安全・安定が崩れた状態だからです。
未知や混沌に対応できないから、日頃は安心・安全・安定を大事にして、減点思考で それを維持しようと心掛けるのですが、
その堤防が決壊してしまったら、もう対処はできないのです。

※ 『タイプ6は心配事・不安に どう反応しているか、 精神レベルにより どう変化していくか


ロサンゼルス・タイムズのスポーツコラムニスト、ディラン・ヘルナンデス氏は「ここで勇気をもって中止を宣言したほうが、日本らしいのではないか」と話す。

「アメリカは経済最優先の国ですから、たとえ人が死のうが経済を回せ、という雰囲気がある。でも日本はそうではない。

(略)

日本人には『おカネよりも大事なものがある』という文化がある。IOCの言いなりになる日本の姿なんて見たくありません。仮に中止にしたとしても、イメージダウンには絶対になりませんよ」

「イメージダウン」ということを気にするのはアメリカらしいです。

それと、アメリカに「たとえ人が死のうが経済を回せ、という雰囲気がある」のは知りませんでした。
アメリカは成功と称賛を求める国だと、私は書いてきましたが、「たとえ人が死のうが」とまでなっているというのは驚きでした。

確かに日本には、「おカネよりも大事なものがある」という文化はあると思います。
ただ、一度事前に決めた予定を変更すること、止めることが関わってくると、そこが難しくなってくるという。


先の引用で紹介したように、
元五輪サッカーアメリカ代表選手で、現在は米パシフィック大学教授・政治学者のジュールズ・ボイコフ氏は、
「五輪という暴走機関車は止まらない」
という表現をしました。

日本で言えば、それは新幹線に例えられるかも知れません。
日本では2017(平成29)年12月11日、異音が聞こえる中、新幹線を走らせ続けた事件が発生しました。後に台車は破断寸前だったことが判明しています。
暴走機関車というよりは、異音を無視して予定通り走らせた新幹線に例えるほうが今の日本を表しています。


亀裂からくる異音が聞こえる中、新幹線を走らせている菅首相。
乗客の多くは新幹線を止めるべきだと思ってはいますが、特に騒がずだまって運転を任せています。
運転手たる菅首相は言います。「予定通りに運行してみせますよ。皆さん」。
菅首相は今日も一生懸命です。
乗客たる国民は、全てを白紙委任しているかのように、それを見守っています。

五輪反対署名もありましたが、新幹線は止められていません。


はてな でのコメントを見ていたら、
日本人でくくられることに抵抗感を示すコメントがいくつかあります。ですが、実際に日本人でくくられても妥当だと思っています。
今動いているものを「止める」「変更する」「巻き戻す」力が弱いという意味において。
それと、南ドイツ新聞記者ハーン氏指摘の「想定外の事態に的確に対応するだけの危機管理能力の欠如」という意味において。



蛇足
「日本政府は、日本への来航を全面禁止すれば良い。日本以外の国はオリンピック不戦敗となるが、IOCはそれに対して異議申し立てできないはず」というコメントもありました。
この発想は面白いとは思います。ですけど、そんな胆力があったなら、今、このような事態にはなっていないわけで。
中国やロシアとの外交において、こんな胆力ある外向交渉が見たいものです。






これを書いている最中に見かけた五輪関連の話をいくつか紹介

アメリカ政治さんはTwitterを使っています 「2022年のオリンピックにオスロが撤退した理由は委員の要求が多すぎたからです - ノルウェー王室負担で王との面会とカクテルパーティー - 公道に委員専用の車道を設ける - 空港に委員専用の出入り口を設ける - ホテルは委員を笑顔で迎える - 委員長の歓迎セレモニーをする - 季節の果物とケーキを用意」 / Twitter
https://twitter.com/America_seiji/status/1397925943474212876

丸川五輪相「あれっと思った」五輪ファミリー3000人来日「ここから減っていく」
https://news.yahoo.co.jp/articles/fe8718f57db8077a6c78493bd953de0c102a6058

オリパラ関係者1432人、2週間待機を免除 4・5月
https://www.asahi.com/articles/ASP5X6K8MP5XUTFL00V.html

東京五輪は海外報道陣3万人が“野放し”に 行動管理の徹底は到底ムリ
https://news.yahoo.co.jp/articles/3fff907a02a553fbde00188564678d0041273ee5

五輪パラ選手村で酒類持ち込みが可能と判明「選手同士の交流の場」規制せず
https://news.yahoo.co.jp/articles/7a52aa355396ae774404e3132df1df2a65bc8dbd

IOC 五輪選手らに“コロナで死亡は自己責任”同意書義務付け、唐突ぶりに不満噴出
https://news.yahoo.co.jp/articles/9811c3e535ed1a30e10a687568817458a7355b48

五輪観客はプロ野球参考に対応可能と首相
https://this.kiji.is/770979763666190336

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