日本の指導者で思ったこと

新聞の書評に『昭和の指導者』戸部良一 (中央公論新社•1900円)
が出ていたので、書評を読んでいて思ったことを書いてみます。

 昭和初めの激動期になぜ日本は統率力を欠くリーダーしか登場しなかったのか。著者はその原因が分かれば、現代のヒントにもなると指摘している。
 まず取り上げたのは、戦後に首相を務めた吉田茂、中曽根康弘両氏。いずれも日米関係を基軸とする外交を展開し、強い指導力で長期政権を率いた。「ワンマン」「大統領型」との世評には、強引な政治手法への批判的要素も含まれていた。
 戦前では近衛文磨、東条英機らに焦点を当てた。2人の元首相は最も難しい時期に、国家のかじ取りを担った。軍の圧力を跳ね返せず、対米交渉は行き詰まる。敗戦後は連合国に「戦争責任」を問われた。過去の判断や既成事実に縛られ、途中から引き返せない日本型組織や指導者の姿が浮かび上がる。

「過去の判断や既成事実に縛られ、途中から引き返せない日本型組織や指導者の姿が浮かび上がる」
この部分を読んで、この部分であればエニアグラムで説明可能だと思った次第。

日本はエニアグラムのタイプ6の国で、タイプ6は、安心・安全・安定が好きで、通常の状態だと、その安心・安全・安定を自分の外の何かに求めるので、前例主義となり、また自ら安心・安全・安定の外に関わる判断が苦手なので、ずるずると引き返せなくなってきます。

これは、すでに、決められない病(始められない病)として
「PDCAが日本の病の原因だ」を読んでの感想 ーーー 「日本企業は、"決められない病"にかかってる」と言われても
で取り上げ、
止められない病として
「ASTRID(アストリッド)」は何処へ行くのか?――「止められない病」は日本人全体の 問題
で取り上げています。

ですから、「途中から引き返せない日本型組織や指導者」と書かれていますが、
これは、組織や指導者のみならず、企業や個人を含む日本全体の問題です。

「組織や指導者」だけだと思っていると、この問題は永遠に続く課題となるでしょう。


それで、この本は、どうやら、
近衛文磨、東条英機らを軍の圧力を跳ね返せず、対米交渉は行き詰まらせたとして悪く書いていて、
一方で、戦後に首相を務めた吉田茂、中曽根康らを、日米関係を基軸とする外交を展開し、強い指導力で長期政権を率いたとして持ち上げているようです(本は読んでないのですけど)。

これ、間違えています。
どこがかと言えば、後半部分。

タイプ6というのは、通常の精神レベルにおいて、一択癖があります。
複数の選択枝があると、安心・安全・安定が感じられないと思い、たったひとつの答えを求める傾向があります。
また、安心・安全・安定を求めるタイプ6は、それが損なわれる可能性を考えることすら嫌います。
これらが合わさると、2つの圧力(もしくは価値観)をさばくことは非情に困難になります。
元々、一択癖があるのに、複数の圧力の間で、綱渡りをするなんて芸当はタイプ6には無理です。
ですが、その現状をタイプ6は見ようとはしません。楽観の元、「大丈夫」「大丈夫」と言いながら、実際には、その危機に目をつむります。安心・安全・安定が損なわれる可能性を考えることがストレスで、思考にストップが入るからです。
それで、引き返せないところまで行くことになります。

今の日本だって、「大丈夫」「大丈夫」と言いながら、大丈夫じゃ無いときのプランBや、出口戦略や、そのようなものが曖昧な政策は多いですよね。
そういうことです。
今も昔も変わらず、です。

では、戦後の首相はどうであったのか? その政策の方向性がアメリカのそれと一致していたから問題が出なかったというだけです。ただただ幸運だったというだけです。もう少し細かく言えば、国連とアメリカと国内の政策が、“ほぼ”かも知れませんが一致していたので、問題が出なかったのです。
ですから、戦後首相の強い指導力は、結果としてそう見えているだけのものです。

ちなみに、その後、日本は、湾岸戦争あたりで国連とアメリカが一致しなくなって、一択癖のために二つを同時に尊重することが困難になってきて、それで今は、アメリカ一択になっています。

また、引用文中では、長期政権と言っていますが、これも日本人の一択癖のなせるわざです。
変化が嫌いなんですよ。安定しないから。だから、日本に2大政党制とか無理なんです。


2つの価値観や圧力の間で、綱渡りや交渉ができないのは戦前の話では終わらず今も同じです。
安倍政権は長期政権ではありますが、北方領土交渉で実質失敗しています。
始めのころは、北方領土が返ってくると楽観していました。しかし、「日本に返した北方領土にアメリカ軍が入ってくる」とロシアから言われて、今は領土返還にだんまりです。
で、支持者の方々も、自民党支持・安倍支持の一択癖がどうやら強くなってきているようで、この北方領土返還の現状にだんまりです。地域としての北海道もだんまりです。
つまり日本人全体が交渉事が苦手で、これは今も昔も変わらないということです。

それで、今後、日本がアメリカ以外の国や地域と交渉する中で、その方向性がアメリカ一択の日本と一致しないときに、どう複数の価値観と折り合いをつけるか?
たぶん難しいでしょう。たぶん無理でしょう。
タイプ6は、通常の精神レベルにおいて「依存的」だと言われています。
そして今の日本の依存先はアメリカです。
複数の価値観が現れたときに、日本は、そのどれかひとつを依存先にしたいという欲求が生まれるでしょう。でもそれが絞れないときには・・・、またもや成り行きまかせとなるのです。

直近では、中国がTPPに参加を申し込んだときにどうするか? 日本以外の国の中には歓迎する国も出てくるものと思われます。このとき(「TPPは中国包囲網」としていた日本は)どうするか?

もう一つは、民主主義に対し、それとは異なるアジアを始めとする非欧米諸国が台頭してきたときに・・・、同時に相対的に欧米諸国が力を無くしてきたときに、日本は、どう振る舞うのか?

このときに、あらためて、「日本の指導者は、激動期に弱く、安定期に強い」ただそれだけだ、ということが分かることになるでしょう。
そして、「激動期に弱く、安定期に強い」は、指導者のみならず、日本人そのものの特徴だということも、追って認識されることになるのでしょう。

最後に蛇足ながら、書評の後半を引用します。

 著者は最後に、陸軍大臣などをつとめた宇垣一成について触れる。軍縮を進め、朝鮮総督にもなった人物だ。1930年代の政界や言論界で首相候補として期待されたが、組閣の「大命降下」を受けながら陸軍の横やりで阻止されてしまう。
 もし宇垣内閣ができて、国民的指導者になっていたら対米開戦の流れは変わったろろか。同じく軍縮に取り組んだ浜ロ雄幸も志半ばで凶弾に倒れた。歴史におけるリーダーの大切さを改めて考えさせる一冊だ。

日本は上から下までタイプ6の社会です。
その中で、例外的な人物(や組織)が出たとしても、タイプ6社会としての復元機能は強いということです。押し戻されるということです。

では、そうやって、現状を維持させて、安心・安全・安定なのかと言えば、そうでは無くて、
(これがエニアグラムのレベルの妙で)
レベルが低くなればなるほど、タイプ6の求める安心・安全・安定からは、実は離れていっているのです。
でもレベルが低いとこれを止められない。
自分の性格に、自分が食われる状態となる。
これはどの性格タイプでもレベルが低くなるとこうなります。
前回の文章では、タイプ3アメリカのそういったことを取り上げました。

だからまず自覚が必要だと私は思っていて、繰り返し、こういった文章を書いています。

蛇足でした。

参考
通常のタイプ6(これで近頃の日本を説明する)
タイプ6は心配事・不安に どう反応しているか、 精神レベルにより どう変化していくか』タイプ6の精神レベルによる変化を私なりに解説しています。ひとつ上の文書の補助になると思います。
タイプ6日本人の「健全な状態」の、たぶん実例

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