優秀な新卒学生の初年度給料に、600万円出せるか問題 ― 『(略)優秀な外国人が結局、来日しない理由』を読んでの感想

『日本で働きたい優秀な外国人が結局、来日しない理由』

を読んでの感想です。

外国人の学生で、日本語ができて、優秀で、日本に行きたがっていて、しかも日本企業もその学生を欲しがっていて、つまり、相思相愛なはずが、
シンガポール企業からの600万円のオファーが入って学生が日本企業を断念した話が冒頭で紹介されています。

優秀な学生、特にエンジニア系の学生に対してはシンガポールやアメリカの企業からそのくらいのオファーが出るそうです。さらに中国では、一定の条件にハマるとそれ以上の金額が提示されることもある、と。

結論として、我々は日本語のできる欧米の優秀な新卒人材をマッチングすることは諦めました。
日本企業の場合、平成30年の賃金構造基本統計調査によれば大卒初任給は20万6700円、大学院卒だと23万8700円です。ボーナスも合わせて年収300万円くらいの会社が多いと思います。

外国人学生からすれば、600万のシンガポールと比べれば、「初任給、初任給、初任給は23万♪」「初任給、初任給、初任給は23万♪」「暮らしていけないよ!ジャン!」ということになりそうです(ポリンキーの替え歌)。

この2倍近い賃金の開きの一因を著者の丸山貴宏氏(株式会社クライス・アンド・カンパニー代表取締役)は、物価の違いで説明します。
海外とは物価で2倍の開きがあるそうです。
円安効果なのでしょうか?日本も安い国になったものです。
「日本企業側は、こういった物価の説明を先ほどの学生にしていたのか?」も、日本企業の交渉力問題として気になるところです。「日本は給料が安いように見えるけども、物価も安いよ」と、あとは、生活して残るお金(貯金できるお金)の差額を保証するだとか、手当があるだとか、交渉の余地は無かったのでしょうか?

 日本と海外で給与差が開く背景として、そもそもの物価の違いがあります。この冬、私は趣味のスキーをしにフランスへ行ったのですが、一日券のリフト代が60ユーロ、日本円にして約7500円でした。ところが日本のスキー場では4000円くらい。倍近い差があります。

 スキー場の食堂でランチを取ると、フランスでは日替わり定食のようなもので18ユーロ、およそ2200円でした。日本では1000円くらいでしょうか。やはり倍近い差があります。海外と行き来している人は強く感じていると思いますが、欧米の先進国などに比べ日本の物価はかなり安くなっています。

「物価抜きにしても、日本の給与競争力は低下している」と話は続きます。

 少し前、ニューヨークに帰国するアメリカ人の転職のお手伝いをしたときの話です。日本企業のニューヨーク支社幹部として年収1500万円のオファーが出たのですが、本人は「2000万円ないと生活できない」と難色を示しました。

 正直、「このポジションで2000万円は高いな」と内心思ったのですが、実際にアメリカ企業からあっさり2000万円のオファーが出て、そちらに決まってしまいました。物価差もあって、日本の1200万~1300万円くらいが向こうの2000万円くらいの感覚なのかもしれません。

 この案件で日本企業に2000万円は出せません。やはり先進諸国の中で、日本の給与の国際競争力は低下しています。


そして、世界を相手にする日本企業の問題点を著者の丸山貴宏氏(株式会社クライス・アンド・カンパニー代表取締役)は、こう指摘しています。

一般的な日本企業の給与システムは、若い頃は安く、長期的に増加していく「後払い型」ですが、これではタイムリーに優秀な人材を獲得することが困難です。一部の企業では新卒に対して柔軟な条件を出すようになるところも出てきましたが、まだまだ限定的です。

給与制度そのものを柔軟なものに変えていかないと、優秀な人材が確保できなくなる可能性を、日本企業の経営者や人事はもっと真剣に考える必要があると思います。

この話、何周遅れなのでしょうか。
以前より、海外の優秀な学生は、韓国・中国も含めた日本以外の企業に就職していっているという話は出ています。

ここでは、もうひとつ、問題があります。
それは、「はたして、日本企業が優秀な学生を600万円なりで雇ったとして、賃金に見合う仕事を割り当てられるか?」という問題です。
別の言い方をすれば、「利益の高い仕事を、高賃金者を使って創出できるか?」という問題です。

日本はエニアグラムのタイプ6の国であり、タイプ6は安心・安全・安定がとても大事な性格タイプです。そして皆同じで一律が好きな横並び体質です。

もしもシンガポール企業なり、外国企業が日本にどしどし進出してきて、新人600万を優秀な学生に提示しだしたら、他の日本企業も横並びするでしょう。後先考えずに。
ただ、そこから、その優秀な学生に高度な仕事を任せられるか?と言えば、そこで開きが出てくるように思います。
タイプ6は、安心・安全・安定が好きな一方で、それが損なわれる変化や混沌が苦手です。また安心・安全・安定の外と関わることになる決断が苦手です。

リストラやコストカットなら比較的簡単です。
ですが、「利益の高い仕事を、高賃金者を使って創出できるか?」となると難易度が上がります。
現在、日本で「イノベーション」「イノベーション」と言われている現状を合わせると、こういった創出活動が日本人の苦手とするものだと分かります(アメリカなどでは、日本のようにあえてイノベーション、イノベーションと言い、意識せずとも、イノベーションを起こせています。一生懸命 意識して、それでも難しい日本のイノベーション)。

引用した文の始めのほうで、「中国では、一定の条件にハマるとそれ以上の金額が提示される」とありました。中国は、利益の高い仕事を、高賃金者を使って創出できるので、一定の条件にハマるとそれ以上の金額を提示できるのでしょう。そういったことが、始めの文章からは読み取れます。

これまでたびたび書いていますが、今の時代との相性は、日本より中国のほうが良いです。
というか、タイプ6日本だけが変化と混沌の時代を苦手としている現状です。
 → 『日本のレベルが落ちている原因』『農耕民族なタイプ6の性格が日本の高度成長期を支えました(そして、今は・・・)

もしも年功序列を止めるのであれば、
「利益の高い仕事を、高賃金者を使って創出できるか?」
が問題(カギ)となってくるのですが、できるのですかね?

蛇足
逆に今の(世界から見たときの)日本の低賃金を利用した仕事を何か創出できているかという問題もあります。
もしかしたら日本観光が、日本の低賃金・低物価を反映した「お安い観光」と化して成功している可能性はあったりします(喜んでいいのかは別にして・・)。

2019/05/17追記
日本の観光産業、日本国内において職としての魅力が無いらしく、外国人移民(国連の定義では1年以上にわたってその国に住む外国人は「移民」となるそうです)を使おうとしているようです。

『外国人技能実習生 職種に「宿泊」追加へ 人手不足が深刻』
2019年5月16日 NHKニュース

外国人技能実習生が働くことができる職種に、新たに「宿泊」が追加される見通しです。

人手不足の原因は賃金でしょうに。。。
低賃金の方向でしか頑張れないのでしょうかね。

2019/06/03追記
ソニーは対応し出すようです。

ソニー、デジタル人材の初任給優遇 最大2割増の730万円
2019/6/3 2:00
日本経済新聞 電子版

ソニーは新入社員の初任給に差をつける取り組みを始める。人工知能(AI)などの先端領域で高い能力を持つ人材については、2019年度から年間給与を最大2割増しとする。対象は新入社員の5%程度となる見通し。

これについてはの “はてな”でのコメントに、
「 いいんだよ、最初はこれで!(略)最初から完璧じゃないと認めないってのは日本人の悪い癖」
というのがあって、私も同意見です。

この「最初から完璧じゃないと認めないってのは日本人の悪い癖」については、ある本からの引用を考えています。ただ、その本は引用したい箇所が多過ぎて、いつ文章にまとめられるかは未定です(現在2ヶ月目、結局あきらめる展開もあり)。

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