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この本のタイトルはどのように決まったのか?「SDGs人材からソーシャル・プロジェクトの担い手へ」

書籍で難しいのは、タイトルでしょう。タイトル次第で売れ行きも変わる可能性も高いですよね。今回の書籍のタイトル「SDGs人材からソーシャル・プロジェクトの担い手へ」には、どんな思いがあり、どのように決めていったのか、ご紹介したいと思います。

執筆時の仮タイトルは…

この書籍のタイトルについては悩みました。内容については、本の企画が始まった当初から、サステナビリティの歴史的な変遷、持続可能な開発教育(ESD)の経験からまとめられた持続可能性キー・コンピテンシーを若者やビジネスパーソン、地域づくりの担い手に伝えるものと決めていました。そして、「ソーシャル・プロジェクトを成功に導く12ステップ~コレクティブな協働なら解決できる! SDGs時代の複雑な社会問題」の姉妹本として出そうということも決まっていました。佐藤真久さんの中では、「ソーシャル・プロジェクト」の表紙のらせん階段の図は横から見たものですが、それを上から見たものにしたいというイメージも固まっていました。
タイトルは「サステナビリティ・キー・コンピテンシー」とシンプルにしてもいいのですが、「なじみのない言葉なので、誰にとって意味があるのか、わかりづらいかも?」という話になりました。そこで対象者像を取り入れた「VUCAの中で持続可能な社会 ・ビジネスを担うリーダーの条件」が、原稿執筆時の仮題としていました。サステナビリティが、ただ環境にいいことをすることを指すのではなく、多様なリスクが存在するVUCA(変動・不確実・複雑・曖昧)の中で社会もビジネスも持続できるようにするという意味になってきていること。それを企業、行政、地域等のリーダーが理解し、動き方を変えていくことが大切だということを伝えたいと思いました。また、僕としては、ドラッカーの書籍「チェンジ・リーダーの条件」がイメージにありました。この書籍は「急激な環境変化の中で、自ら変化を起こし、先頭に立つものしか生き残れない」がコア・メッセージで、それは、持続可能な経済社会への急速な変化の中で、変化を起こす人になってほしいという書籍の趣旨と共通していると思っていました。

SDGs人材は、ちょっと違う…

そして、(1)で書いたように、佐藤、広石での対話という形で原稿をつくっていったのですが、分量が多くなりました。そこで、出版社との打合せで、内容を絞ろうという話になりました。内容を絞るには軸を明確にする必要があり、出版に向けて、改めてタイトルを考えることになり、出版社の方たちとタイトルについて話し合いました。
まず、仮タイトルについて「この本に書いてあることは、リーダーの条件なのか?」という話題が出ました。持続可能性キー・コンピテンシーをユネスコが出しているのは、これからを生きる子供たち全員が、また同時代を生きる大人たち全員が身に着けてほしいからではないか。もちろん、最初から全員は無理なのでリーダー層からだし、先を行くリーダーシップも大切だろうが、そこが本書のメイン・テーマではない感じがするという意見が出されました。また、営業的には「SDGs」がタイトルにあったらいいという声もあり、「SDGs人材のあり方」という言葉を軸にして話が展開し、まとまりかけました。その議論の中で、「SDGs人材の人材が気になる」という意見が出されました。人材は「企業等が期待する要件を満たした人」という言葉ではないか。もちろん、企業が求め、学校で教えて、SDGsに取り組むことも大切だが、もっと主体的に持続可能な社会の実現に進んでいくような人物像をタイトルにできないか、という意見があったのです。今回の出版社は「みくに出版」ですが、日能研の子会社です。日能研では主体的に考えて動ける人を育むことを大切にされています。その考え方が、このような議論にも反映されることは大切なことだと感じました。

個人の変容と世界の変容は結びついていることを伝えたい!

そこで、改めて、この本で伝えたいこととして、原稿で印象に残ったことについて意見交換をしました。その中で、「“個人の変容”と“世界の変容”は結びついている」というのが印象的だという声がありました。佐藤真久さんも、本書のコア・メッセージとして「持続可能な世界を実現するには、個人が20世紀の考え方・動き方をするのではなく、持続可能性キー・コンピテンシーなどを基に新しいパラダイムに基づいた動き方をする必要がある」ということを大切にしていました。
僕自身も、大学の授業では「個人は社会を変えることができるのか?」について学生にディベートをしてもらっています。「社会なんて大きいものは、小さな個人では変えることはできない」という意見に賛成・反対の立場からディベートするのです。その際のポイントは、両方の立場を体験してもらうことだと思っています。その中で考えてほしいと思っているのが、「社会」「個人」という言葉の捉え方は一つではないということです。「社会」には、政府・機構・制度など「社会構造」という側面と、ソーシャル・ネットワークのような「人のつながり」という側面があります。大きな機構に一人の個人が挑んでも変化は難しいでしょう。しかし、人がつながり、それが広がる中で、機構の運営者も仲間にしてしまうことができれば、大きな変化を生み出すことができます。

個人の変容と世界の変容を結びつけるのが、ソーシャル・プロジェクト

SDGs、持続可能な世界という大きな変化も、ローカルの取り組み、そしてそこに参加する個人の行動変容のつながりのネットワークから生み出されます。ただ、“個人の変容”と“世界の変容”の結びつきは、なんとなくわかっても、なかなか実感が持ちづらい。だからこそ、企業・行政・地域などの多様な主体が協働して問題解決に取り組む「ソーシャル・プロジェクト」が大切なのです。
そのイメージを図にしたのが、下記のものです。

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DoとBeの姉妹本!

前著の「ソーシャル・プロジェクトを成功に導く12ステップ」では、ソーシャル・プロジェクトの進め方(Do)を扱っていました。それに対して、姉妹本となる本書では、ソーシャル・プロジェクトに携わる人のあり方(Be)を描いています。個人と世界の変容を結びつけることの大切さをテーマとしているという意味でも、姉妹本が明確になるためにも、タイトルに「ソーシャル・プロジェクト」が入っていた方がいいという意見でまとまりました。そして、先ずは組織内や外部要求に応えることができる「SDGs人材」が増えることが最初かもしれないが、その人が組織の枠を越境して多様な主体と協働してほしいという私たちの思いが、「SDGs人材からソーシャル・プロジェクトの担い手へ」という言葉にまとまりました。

「好循環」も本書のキーワード

ただ、「私たちの思いはこもっているけど、それは伝わるだろうか。SDGs人材でも難しいのに、その先?とならないかな」とも考えました。そこで、「持続可能な世界に向けて好循環を生み出す人のあり方・学び方・働き方」というタイトルも考えました。そこで、“好循環”は佐藤真久さんのこだわりのポイントです。「企画→実施→結果」へという線型的な考えや動きではなく、「対話→実践→関係性→学び→対話→・・・」という循環型の構造がソーシャル・プロジェクトの本質であり、その好循環を生み出すことが大切だということが、らせん階段の図に佐藤さんがこだわっていた理由なのです。
2つのタイトル文が固まり、一度、私は「持続可能な世界に向けて好循環を生み出す人のあり方・学び方・働き方~SDGs人材からソーシャル・プロジェクトの担い手へ」かな、と思って提案したのですが、話し合いで「SDGs人材からソーシャル・プロジェクトの担い手へ~持続可能な世界に向けて好循環を生み出す人のあり方・学び方・働き方」という方が本のタイトルとして良いという意見でまとまり、最終的に決定したのです。

ベストなタイトルなのか、もしかしたらもっといいタイトルがあるのかもしれないのですが、ここに書いたようなプロセスを経て、制作に携わってきた私たちの思いが詰まったタイトルとなりました。ぜひ手に取ってみてください!

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