統合失調症の労務管理に関する裁判例


統合失調症と解雇

①国・気象衛星センター事件(大阪地判H21.5.25)
・それまで通常の職務をこなしていたにもかかわらず、突然に無断欠勤したこと,同僚らに対して何度も宗教勧誘を繰り返したこと等を踏まえると、既に統合失調症を発症していたと推認される。
・上司は,46日連続の無断欠勤が自由意思に基づくものであることについて疑いを抱くことは十分可能であったから、懲戒免職処分は裁量権を逸脱濫用したとして取り消されなければならない。

日本HP・諭旨退職処分事件(最判H24.4.27)
・Xは,Yに雇用されてから約7年半の間は特段の問題なく勤務を続けていた
が、ある日,加害者集団から職場の同僚らを通じて嫌がらせを受けているとして,上司に対し,「ストーカーの件でいい加減頭にきたので,警察に行ってきます。しばらく有給休暇が続く限り休みます。」などと記載されたメールを送信し,以後,有給休暇を取得して出勤しなくなった。
・有給を消化したことから休職の特例を認めてもらえるように上司に依頼したが,Yからは,休職の特例を許可することはできないとの回答を受けた
・同僚らの会話を録音したICレコーダーのデータ等をまとめた資料を作成して調査を求めたが、主張する被害事実は認められなかったため,Xに対し,Yとしては被害事実はないとの結論に達した旨回答するとともに,Xが欠勤することについて正当な理由又はやむを得ない理由は認められないこと,就業しなければ欠勤となることなどを伝えた。Xは、自分自身が上記の被害に係る問題が解決されたと判断しない限り,出勤しない旨述べて,有給休暇を全て取得した後も出勤しなかったため、就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たるとして,Xを諭旨退職処分とした。
・使用者であるYは,精神科医による健康診断を実施するなどした上で,その診断結果等に応じて休職等の処分を検討し,その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり,そのような対応を採ることなく,直ちに諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは,使用者の対応として適切なものとはいい難いとして,Xの欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たらず,諭旨退職処分は無効であると判断した。

武蔵村山市事件(東京地判H24.9.26)
・ 裁断した紙をシュレッダーの周りに散らかしたままで片付けずに戻ったために、上司から注意・指導を受けたが、注意指導中に提示になると勝手に帰り支度を始め,上司を無視して帰ろうとしたなどの問題行動を理由に、分限免職処分を下す。
・統合失調症を中心とする精神疾患に起因するものと推認されるところ、3年までの文言休職を命じることが可能で、指定医師の診断も求めずに、分限免職処分を行うことはできない。

④長崎地判R3.3.9
・ 原告は,遅くとも平成4年10月には統合失調症を発症していた。
・家族との会話や入浴・睡眠をせず,自室に大量の食品や衣類等を持ち込むなど自宅における異常な行動が増えていた,職場においても独り言などの奇異な行動をとるようになった、本件退職願を提出する前日異動の内示につき大声で不満を述べるなどしていたから、統合失調症は相当程度悪化していたといえる。
・本件退職願提出直後には、上司が原告母に引取りを依頼するほどの異常な言動がされ、隔離病棟に医療保護入院し,入院後も妄想や支離滅裂な言動をし,医師から成年被後見人相当であったと診断される状態であった。
・原告の判断能力は,統合失調症のため,自身の置かれた状況を正確に把握したり,自身の言動がどのような影響をもたらすか,特にどのような法的効果をもたらすかについて判断したりすることができない程度であったと認めるのが相当である。退職願は無効

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