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セルフ・コンパッションってなんだろう

 今回は『#1 セルフ・コンパッション』という事で、以下のお品書きで、進めていきます。
 「1.コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)を学ぶきっかけ」については、はじめましてのご挨拶に書いたことと、若干加筆しましたが、基本的には同じことを書いていますので、既にお読みいただいている方は、「2.セルフ・コンパッションってなんだろう?」からお読みください。
 なお今回のnoteの内容をstand.fmで放送しています。文章で読むより、音声で聴きたいという方は、記事の一番下にリンクがありますのでそちらからどうぞ。


1.コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)を学ぶきっかけ

 何か出来事が起きた時、頭の中にふと浮かぶ考えを「自動思考」といい、人は、自動思考によって気持ちが動き、行動します。
 一方、この自動思考に歪みがあると、人は現実を正しく認識できず、ネガティブな考えを強めてしまいます。

 キャリアについての悩みも、実はこの自動思考の歪みによるものが少なくないと言われています。
 具体的な例をひとつ挙げてみます。(完全なフィクションです)

 Aさんは、大学を卒業後、メーカーに就職し、20年間働いてきました。管理職になり、順調と思えたキャリアでしたが、ある時会社が外資と提携することになります。
 すぐに、外国人がたくさんAさんの部署にも配属されてきました。Aさんは、英語が不得意というわけではありませんでしたが、実際に外国人を目の前にすると、自分がイメージしていたように話すことはできませんでした。一方、若い部下の中には帰国子女もいて、戸惑いを見せることなく、あっという間にその状況に馴染んでいるように見えました。Aさんは、疎外感でいっぱいになります。そして、どんどん自信を失い、「このままでは、左遷されてしまう」「部下はこんな自分を馬鹿にしているに違いない」「上司は常に部下の手本になるべきだ」「落ちぶれた姿で会社にすがるか、辞めるかしかない」などと考えるようになったのです。

 Aさんの自動思考は、以下のような歪みがあると考えられます。


「このままでは、左遷されてしまう」⇒結論の飛躍
「部下はこんな自分を馬鹿にしているに違いない」⇒心のフィルター/レッテル貼り
「上司は常に部下の手本になるべきだ」⇒べき思考
「落ちぶれた姿で会社にすがるか、辞めるしかない」⇒全か無か思考/結論の飛躍

 不思議なもので、他人のことはよくわかると言いますが、Aさんの話を聞いて、「極端だよ~」と思っても、自分がその立場になると、意外と歪んだ自動思考をしている場合は多いものです。
 特に、ほとんどの人が、多少の「べき思考は」持っていて、これが強いと、自分を批判したり縛り付けたりして、気持ちとのバランスが取れなくなってしまいます。
 この歪みが、ちょっと可愛いキャラクター「ユガミン」として紹介されていてとても分かりやすい書籍がありますので、ご紹介します。

 この自動思考を修正して、バランスの取れた考え方と、前向きな行動を身につけるのが「認知行動療法」であり、うつ病や、パニック障害などに対し、科学的根拠に基づき有効であるとされている心理療法です。
 私はこの認知行動療法の考え方を学ぶことにより、質の高いカウンセリングができるのではないかと考え、専門家の集まる学びの場へ積極的に参加しました。
  その過程で出会ったのが、認知行動療法の第3の波と言われる心理療法「コンパッション・フォーカスト・セラピー(CFT)」です。
  CFTではエクササイズを通じて、セルフ・コンパッション(自己へのおもいやり)を身につけていきます。
 セルフ・コンパッションを高めることは、様々な分野において有効とされており、以下にその一部をご紹介します。

・自分を責めることが減る
・ストレスに強くなる
・自己を成長させるモチベーションを高める
・セルフ・コンパッションを身につけたチームリーダーは、自分に嘘偽りがないので、メンバーも成長や成功が引き出されやすくなる
・健全な老化
・運動競技でのパフォーマンスの向上
 

 私は、CFTに出会った瞬間、「これだ!」と思いました。
 すぐさまワークショップを探し、ベイシックコースのトレーニングを受講しました。
 来月からは、さらに一歩進んだコースを受講することになっています。
 ひとりでも多くの方に、この不確実な時代を生き抜く強さと、感情的なウェルビーイング(良好な状態)を手にして欲しいと思っています。


2.セルフ・コンパッションってなんだろう?

 「Self-Compassion」をの和訳は「自己への思いやり(慈悲)」です。もう少し言い方を変えて「自分への優しさ」でもいいかもしれません。
 ちなみにCompassionの語源について、ねこ英単語さんが詳しく記事にされていますので、是非一度読んでみてください。Compassionについて理解が進むだけでなく英語の勉強にもなり、一石二鳥も三鳥もあります。

 実は、マインドフルネスと同様、セルフ・コンパッションも、仏教やインド哲学を由来としています。原始仏典には『慈悲喜捨(じひきしゃ)』という心のありようを表す言葉があり、それぞれ以下のように解釈されます。

慈(生き物に対して楽しみを与えようとする心)
悲(生き物の苦しみを取り除こうとする心)
喜(妬みを捨てて他人の幸せを喜ぶ心)
捨(他人に対して偏りのない、落ち着いた心)


 この中で英語でCompassionと訳されるのは『悲』です。
 誰かの辛さに気付いて、それを取り除こうとする行動に結びつくものです。つまり、セルフ・コンパッションとは、「自分への優しさ」であり、それは「自分の苦しみに気付き取り除こうとすること」でもあります。

 米国のクリスティーン・ネフ博士は、セルフ・コンパッションには次の3つの要素があると説いています。

1.自分への優しさ(自己批判をしない)
2.共通の人間性の認識(人間である以上誰しも困難はあると認識する)
3.マインドフルネス(感情をありのまま受け入れる)

 これらの要素を獲得し、統合することで、真のセルフ・コンパッションを手に入れることができるのです。

 さて、セルフ・コンパッションに近いイメージを持たれがちなものに、セルフ・エスティーム(自尊感情/自己肯定感)というものがあります。これは、人が生まれてから生きていく過程で、親を含めた周囲の人との関りで、上昇したり低下したりするものです。自分自身を積極的に評価し、多くの場合平均以上を求めます。
 一方のセルフ・コンパッションは、自己評価や他者との比較を行いません。これまで他人を気にして、本当の感情を隠したり、無意識に気持ちを押し殺してきたりしてきたことに気付き、たとえ困難に直面したとしても、あるがまま、肯定的なこと否定的なことのどちらも、やさしく受け止めます。また、こうした困難や苦悩は人間であれば誰もが持つ共通性であると考えます。そしてそこから、改善点を見つけ、次の行動を起こすモチベーションに繋がっていくのです。
 セルフ・エスティームとセルフ・コンパッションは、肯定的な自己態度ということでは、相互に関係する部分があるものの、それぞれは違うものです。もし、セルフ・エスティームが高くなかったとしても、セルフ・コンパッションが育まれれば、心の安定と幸福感を感じることができるのです。

 今回のnoteの内容をstand.fmで放送しています。音声でお聴きになりたい場合はこちらからどうぞ👇



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