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【ExperienceDay2021開催レポート】EX-CXが組織を強くする ~エンゲージメント向上と顧客体験向上の仕組みづくり~

CX(顧客体験)の向上を目指すためには、顧客と接する従業員のEX(従業員体験)の向上も欠かせません。その関連性を考えるうえで知っておきたいのが、「サービスプロフィットチェーン」の考え方。
本セッションでは、日本トイザらスの土屋隆夫氏(以下、敬称略)と物語コーポレーションの春山陽介氏(以下、敬称略)をお迎えし、人事的あるいはマーケティング的な観点からサービスプロフィットチェーンの捉え方についてお話しいただきました。

おもちゃやベビー用品を扱う日本トイザらスでは、“人”を起点に、NPS・eNPSとビジネスの収益性・生産性の相関について分析中。一方、「焼肉きんぐ」や「丸源ラーメン」をはじめとした多業態を国内外で約590店舗以上運営する物語コーポレーションでは、NPSを導入し、効果的にCXMを運用するノウハウを体得。両社から、よりよい店舗づくりにNPSを役立てるためのポイントを学びます。

EXとCXの関連性を示すフレームワーク「サービスプロフィットチェーン」とは?

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佐野:
本セッションのお題は、EX(従業員体験)とCX(顧客体験)が組織をどのように強くするのか。従業員体験や従業員エンゲージメントがどのように顧客体験や顧客満足につながっているかを科学しながらディスカッションしていきます。

土屋:
日本トイザらスは1991年に日本に第一号店が上陸して、今年で30周年を迎えます。私は人材本部に所属し、従業員のタレントマネジメントに取り組んでいます。NPSを導入して4年目、eNPSは2年目になります。

春山:
当社ではさまざまな外食チェーンを運営していまして、特に有名なのが食べ放題の焼肉店「焼肉きんぐ」です。ほかにも、「丸源ラーメン」や「お好み焼本舗」など、国内外で約590店舗を展開しています。私は営業企画部に所属し、顧客満足度を測るNPSと従業員満足度を測るeNPSを会社指標とするために、さまざまな業務に取り組んでいます。

佐野:
はじめに、EXとCXの関連を考える時に使われる「サービスプロフィットチェーン」の考え方をご説明します。

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サービスプロフィットチェーンはもともと、ES(従業員満足)とCS(顧客満足)の関連性を考えるためのフレームワークで、こちらはEXとCXに置き換えたようなものです。つまり、EXが良くなることによってサービスをつくる土台ができ、良いサービスを提供することでCXが向上します。そしてCXが上がった状態で提供するサービスはお客様から受け入れられます。CXを高めることによってお客様が増え、企業の収益が上がり、従業員の体験に還元できる。このサイクルがサービスプロフィットチェーンの考え方です。

このサービスプロフィットチェーンについて、土屋さんからは人事的な観点で、春山さんからはマーケティング的な観点でお話をうかがいます。


日本トイザらスの事例に学ぶ、人事的な観点から見たサービスプロフィットチェーン

土屋:
サービスプロフィットチェーンに注目した背景は、3つあります。

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ビジネスの3要素という考え方においては、「カスタマーサティスファクション」「従業員サティスファクション」「プロフィット」が重要だといわれています。ただ、それぞれを高めるのではなく、全部をバランス良く高めることがビジネスにとって成功であるといえます。私はもともとこれを知っていたんですが、サービスプロフィットチェーンを知った時、考え方が似ているなと思いました。

次に「顧客満足調査と組織風土調査の課題」という点です。当社ではNPSとeNPSをはじめる前に、別のフォーマットで顧客満足調査や組織風土調査を実施していました。やり方が異なると目的も異なり、行なっているアクションが必ずしも効果的ではない状況もありました。そのため、これらをどのように連動させるべきを考えた時、サービスプロフィットチェーンの考え方がフィットしました。

最後が人事としての視点で、サービスプロフィットチェーンは「Engaged Employee」が起点となっていて、従業員満足を高めれば顧客満足も高まり、利益も上がる、それを従業員に還元すればサイクルが回るという好循環を示しています。

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実践的にビジネスで捉えると、ビジネスの状態が思わしくない時にどうするでしょうか。そういう状態になったら、一般的には従業員のエンゲージメントが低下する傾向があると思います。その時に会社としては、マーケティング戦略や商品戦略によって業績を高め、そうすることで従業員満足も上がると考えます。しかし、人事としてそれを待つのではなく、従業員エンゲージメントを高めることでどのように会社の業績に貢献できるか考えたいという視点から、サービスプロフィットチェーンを捉えました。

やみくもに取り組むのではなく、どのようなポイントに絞って従業員エンゲージメントを高めれば顧客エンゲージメントにつながるのか、ひいては会社の利益につながるのか。そこを分析したいと思ったのが、サービスプロフィットチェーンに注目したきっかけです。

物語コーポレーションの事例に学ぶ、マーケティング的な観点から見たサービスプロフィットチェーン

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春山:
当社はNPSとeNPSをはじめてちょうど3年になります。サイクルとしてはサービスプロフィットチェーンと一緒ですが、どこが起点か考えると、eNPSは予報のようなものではないかと捉えました。BtoCのビジネスモデルにおいて、NPSやeNPSによって店舗の現状がスコア化されるのがポイントです。できている部分とできていない部分がわかると、店舗を統括する本部として改善すべきところが見えてきます

一方で、お客様へのサービスの現状を測るものさしが NPSだと捉えています。お客様からの評価が見える化されると、結果的に店舗でのチームワークや新人の教育度合いのようなものがNPSにはね返ってきます。従業員側の体制が整っているかどうか、NPSのスコアから推測することができます。

NPSのスコアは都度変わっていきますが、おしなべてすばらしい店舗はブランドとしてあるべき姿を体現できていると思っています。最終的なお客様からの通知票のようなものですね。

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つまり、売上を上げる要因はもちろん、下げる要因も一緒に見ることができます。そういったものを総合的に得られるところが、このサイクルの一番のメリットです。

また、できている・できていない、あるいはそれが実際の成果になっているかどうか、数字をたどって答え合わせができるのは、本部からするとありがたいです。実際に全国各地の店舗に足を運ぶのは難しく、当然コストがかかります。現場から物理的に離れている本部にとって、まずはスコアで確認ができるのは大きいメリットです。

NPSとeNPSは経営理念の実践を目指すための指標

佐野:
物語コーポレーションさんは、売り上げという成果だけではなく、NPS・eNPSを経営理念につなげて考えているのが特徴ですよね。

春山:
弊社には「Smile & Sexy」という経営理念があります。自らを磨いて自立している人間は自ら意思決定ができるという考え方で、業務において経営理念を実践できる人間をたくさん育てたいというのが、トップから現場まで一気通貫している想いです。

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図の中心には社員とパートナーが据えられていて、従業員が辞めずに店舗で長く活躍していただくことでいろいろな能力を獲得して成長していくことができます。個人の成長は会社の成長につながり、個人も会社も幸せになれる。一人ひとりの物語が寄り集まって会社の物語である、という経営理念です。

これを実現するためのツールとして、NPSとeNPSを活用していこうとしています。NPSは売上と利益を正しく増やすための指標、eNPSは従業員に長く続けてもらうための指標です。結果として経営理念を全員が実践できる状態を目指そうという意味で、これらのツールがとても適していると思います。

NPS・eNPSとビジネスの収益性・生産性に相関はあるのか?

佐野:
両社のアプローチは入口がそれぞれ違いますが、起点は“人”であるところは共通していて、成し遂げたいミッションにつなげるうえでこのフレームワークがフィットしたんですね。理論としては理解できるのですが、実際に実践してみていかがでしょうか?

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土屋:
ここで説明しているのは仮説ですが、NPS・eNPSと、ビジネスの収益性・生産性に相関があるとしたら、eNPSのスコアが高い店舗はNPSも高いでしょう。そしてその店舗は高い収益性と生産性を示すはずです。もうひとつは、その店舗はeNPSでの強みにおいて共通点があるのではないか、ということです。

この仮説が成立するならば、そのポイントを強化することで他のすべての店舗において収益性や生産性を高めることができます。非常に楽観的な仮説ではありますが、理想的ですよね。

佐野:
どうやったら良い店舗ができるのか、どうやったら売上が上がるのか、そういったところがわかれば、本部が配置をうまく行なうことでどんどん良い店舗ができると。

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土屋:
実際はまだ分析途中で、資料にある通り“△”が現状の結果です。というのは、NPSとeNPSで散布図をつくった場合、きれいな相関関係が現れるわけではないんですね。そこでEmotion Techさんの分析チームの力をお借りして、eNPSを聞いた店舗のメンバーに対して、お客様の視点でNPSに答えていただく方法をとっています。「従業員として働く場所としてトイザらスを知人にすすめたいですか?」というeNPSで、その一文に「あなたはお客様として自分のお店を知人におすすめできますか?」という質問を入れています。ここのスコアに相関性が見えてくるのではないかと考えています。

もうひとつは、店舗のグループをセグメントして、両方とも高いグループと相関的にそうではないグループを分けた時にNPSの共通点が見えるのではないかとアドバイスをいただいて、そういった切り口でNPSとeNPSの結果を分析しているところです。

NPS・eNPSの運用を効率よく行なうノウハウ

佐野:
物語コーポレーションさんは、店舗数が非常に多いなかでNPSとeNPSに取り組んでいますよね。運用は大変ではないでしょうか?

春山:
数が多いとそれだけノイズが多くなるので、はじめはノイズの要因を現場の店長からヒアリングして探すという宝探しのようなことを延々とやっていました。ですので、実際に全店舗の店長に会って、その人がどんな人なのか、マネジメントの特徴、強みや弱みを知るところからスタートしました。

これは、上層部の人間がNPSとeNPSを会社の指標にするという強い意志を持っているので、そこまでコストをかけているということでもあります。とにかくスタートするところが大変でしたね。そこまでやるのかは規模や条件によって変わってくると思いますが、我々がそういうことに取り組んだ結果得られた、効率よく行なうためのノウハウをまとめたのがこちらの資料です。

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まずは、NPSとeNPSどちらについても、積極条件(やったほうが良いこと)と必要条件(やるべきこと)を明確にすべきだということです。そのうえで、できていることとできていないことを見える化します。

とはいえ、結果を出しただけではなかなか浸透しないので、店舗ごとの差が見えるようにいかに可視化するかがポイントです。

そして、ギャップを埋めるために競争する仕掛けを入れると、店舗が多くても少なくても回りだしていきます。成功体験に対してはきちんと褒めることも必要です。

これを実行するために、まず上位と下位の要因を探し、上位の店舗が行なっている具体的な行動を見つけて達成可能な指標として回していきます。こういったところを着眼点として進めていくと良いのではないでしょうか。

運用の苦労は皆一緒。辛抱強く数字と向き合うべし

佐野:
NPS・eNPSの取り組みは、大変さがありながら、しっかり取り組むと成果が出るということが、お二人のお話から発見できたと思います。最後にお二人からひとことお願いします。

土屋:
春山さんのお話から、これから弊社で分析を進めていくうえでのヒントをいただきましたし、大変刺激になりました。

春山:
他社の取り組みを見る機会はなかなかないので、土屋さんのお話を聞いて、苦労するところは一緒だと共感しながら聴かせていただきました。今後も引き続き、辛抱強く数字を眺めながら、まだ見えていないところを科学していきたいと思います。

佐野:
皆さんもぜひ2社の事例を参考に、いろいろな取り組みを考えてみてはいかがでしょうか。本日はありがとうございました。


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