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【cinema】SIMONE 『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』

今年はそこそこ映画を観ていて、一言云いたい作品はもっとあるけど、今日観たものからにしましょ。

『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』

シモーヌ・ヴェイユの存在自体があまりにも重厚でドラマ以上にドラマティックだから、映画としてああだこうだ語るのがなんとも陳腐にすら思えてくる。
少し前に『あのこと』で1960年代に予期せぬ妊娠で非合法な中絶と向き合わなければならないフランスのことが描かれていたが、その約10年後にこのシモーヌ・ヴェイユ保健大臣(当時)の尽力で人工中絶の合法化法案が可決。そこから物語は始まるのだが、女性のみならず、受刑者、移民、エイズ患者と常に弱き者への眼差しを注ぎ、言葉に、行動に、政治に結びつけて具体的にまさに力を貸すことができる圧倒的な強さと優しさ。
彼女はWWllの時にアウシュビッツ収容所へ送られ、両親と兄を失い、それでも生き抜いてきた過去をもつ。自らも徹底的な理不尽によって虐げられた経験のある彼女は、弱き者が追い込まれている窮状を真正面から受け止め、彼らに寄り添う深さが半端ない。この作品を観るまでシモーヌの存在すら知らなかったが、これは、フランスでスーパースターにならざるを得ないだろう。

意識的に原爆のことやホロコーストについて描かれた文献、映画は積極的に観るようにしているが、フランスのそれについてはもっと知ることが必要だ。同じくホロコーストを生き延びた91歳のフランス人による体験記マンガがあるのだが、フランス語をこれを機に憶えればいいのにね。

※ここはちょいとネタバレ
収容所に到着してしまい、順々に身包み剥がされるシーン。あらゆる私物が没収されるところで、仲間のひとりが「LANVINの香水よ」と必死になくなるまでシュッシュする。近くの人にもシェアできるようにランダムに。当時だからARPEGEだろうか、、どこかで私の願望が記憶をかき換えているのだろう、少女は黒い丸いボトルを握りしめていたような気がする。無論そのボトルは没収され、そして前後に遺体を焼却する臭いに眉を顰めるわけだが、噴射した「香り」は没収できないのである。形を持たないLANVINの「香り」は、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、彼女たちを高揚させたはずだ。香りは奪えない。香水好きの私が胸をかきむしられたシーン。一度も身につけたことない『ECLAT D'ARPEGE』を纏ってみたくなった。

シモーヌ役のエルザ・ジルベルスタインの着こなしの賜物ではあるけど、今までで一番CHANELのスーツがかっこいいと思った。実際のシモーヌ・ヴェイユもお洒落だったらしいし、恐ろしく似合っていたんだろうな。

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