見出し画像

ネクスト・シャインマスカット

秋、葡萄の季節。
イソップ童話には狐が意地悪をする果物として登場する。

子供の頃は葡萄と言えば巨峰かデラウェアのイメージで、ままある果物の一つという印象だった。葡萄は柿や栗といった秋の大衆的かつ渋い果物で、桃や苺の方がフルーツパフェを想起させる、ご褒美感のある存在だった。

ところが気づいた時には葡萄はフルーツの女王のような立ち位置にいたのだ。それは紛れもなく、シャインマスカットの登場によるものだと私は思う。

シャインマスカット
まず名前が良い、強い。名は体を表すと言うが命名センスが良いというより、広告代理店が考えたコピーのようなハマり具合だと思う。そしてその名を裏切らない輝く見た目、味。ツヤツヤと瑞々しいハリにあふれた果実とその糖度の高さ。単体で立派なスイーツと遜色ないのではないか。

近所のスーパーマーケットや八百屋にあるような少し黄みがかったシャインマスカットは思いのほか甘味が強いし、デパートの桐箱に飾られているピンとした皮の黄緑はことさらに甘く、それでいて爽やかだ。

田中みな実さんがシャインマスカットを気に入っている様子は、彼女とその葡萄のイメージに違和感なく入ってくる。ただ、まだ小学生の従妹が好きな食べ物を聞かれて「シャインマスカット~」と夢見がちな声で答えたのには驚いた。アイスワイン、貴腐ワインのような味わいだけれど、シャインマスカットは子供の好物にも選ばれるフルーツなのだ。

シャインマスカットは女王様なので価格も高い。一房で2000円くらいするし、シャインマスカット入りのスイーツ、たとえば3号ほどの小さなケーキやパフェ一つでも3000円はくだらない。ちょっとお高いけれどお高いだけあるので買ってしまう。なのでちょっと安いとなると迷いなく買ってしまう。でも仕方ないのだ、シャインマスカットだから。ちなみに我が家の食費は秋になると特別予算としてブドウ代を別に計上している。

とにかくシャインマスカットのせいかおかげか、秋になると葡萄を食べずにはいられない。それは別にシャインに限った話ではなく、特に甲斐路を日常的に口にしているように思う。パリっとして香りも良く、赤いマスカットと言われるだけある。大味な記憶だった巨峰も改良でもされたのか分からないが大人になると美味しく感じるようになり、よく食卓に並ぶ。あとはピオーネもよく食べる。小皿にコロコロと何粒かずつ乗せると見た目も可愛らしく、幸福度もエンゲル係数もぐっと高くなる。

秋しか食べられないので買い物に行けば葡萄を買ってしまう。特にシャインマスカット、甲斐路、巨峰、ピオーネ、このあたりは我が家の在庫を切らしてはいけない。デパートレベルでなければ比較的購入しやすいが、あまりに予算オーバーだったり、鮮度が落ちていたりすると潤沢とはいかなくなるので他の品種に目を向ける。

ロザリオビアンコ、マスカットオブアレキサンドリア(高い)、藤稔、安芸クイーン、バイオレットキング、紫苑、ナガノパープル、クイーンニーナ、デラウエア、スチューベン……

たしかに葡萄は売っているのだが、品種が増えすぎて訳が分からない。食べた記憶があっても思い出せなかったり、もはや聞き覚えもない葡萄たちが所せましと並べられていて、どれが自分の好みか全く不明だ。不明だが、買わないわけにはいかない。秋しか食べられないのだから!

そこで始まるのが葡萄ギャンブルだ。いたって簡単、己の勘を信じて見知らぬ葡萄を買うのみ。シャインマスカットの次を探すのだ。ただの勘なので好みから外れることも多いが、たまに当たることもある。また青果コーナーで出会えたら買うだろう葡萄たち、私的ヒット3選を記録しておく。

オリエンタルスター
大粒で赤紫色。果汁がジューシー。そんなことよりとにかくパリッパリ。噛むときにパチンとかパリッとか鳴っている気がする。ハリがすごい。とにかくハリがある葡萄。

マスカットノワール
やや小粒で黒紫色。小さい巨峰をイメージして食べるとなぜかシャインの味がして感動。ナニコレと思い調べると、シャインマスカットとジーコ(謎)を掛け合わせた品種らしい。全然売っていない。

コトピー
赤紫色。甲斐路的外見。これが最高だった。コトピー=甲斐乙女×シャインマスカット、甲斐乙女=ルーベルマスカット(謎)×甲斐路らしい。甲斐路とシャインのミックスみたいなことだと思う、たぶん。こちらも買った日以降見かけないまま秋が終わりそうで悲しい。流通が増えることを願う。

この葡萄運だめしの結果を率直に言えば、シャインマスカットが味・見た目・名前の三冠かつ一強として優勝している。それでもシャインの子供たちが十分すぎるほど美味しいことが分かったので収穫ありだ。何より、来秋からは見知らぬ名の葡萄でもシャインとの交配種かさえ調べれば、迷いなく買いだと気づけて良かった。それって結局シャインじゃん、とも思うのでネクストシャインの登場を楽しみに待ちたい。

ところでブドウ狩りに行けば思う存分、葡萄を食べられるのではと思い参加したことがある。一房でかなり限界だったので、思い出作り・体験としてのみおすすめする。でもまた行きたい。




この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?