起業家精神を自然と育む北欧の教育とは
北欧といえば、ファッションやデザイン、社会福祉制度、サウナや森など、牧歌的なイメージがありますが、その社会や文化の面だけでなく、世界的なイノベーションが多数創出されていることも注目を集めています。
例えば、音楽ストリーミングサービスのSpotify(スウェーデン)、海外送金サービスのTransferwise(エストニア)、次世代モビリティサービスのMaaS Global(フィンランド)など、立ち上げ当初から「世界」を視野に入れて、成長を続けるスタートアップがたくさんあります。
その背景には、スタートアップ・エコシステムが優れていることもありますが、なにより、幼少期から受けている「教育」にその秘密があると私は感じています。
エコシステムについては、JBIC IG Partners(国際協力銀行と経営共創基盤の合弁会社)が北欧現地で調査した今月発行のレポートが参考になります。
この記事では、わたしが2年間現地で大学教育をうけながら、子供をもつ親として現地の友人と話すなかで感じたフィンランドの教育について、起業家マインドの育成に、どのように貢献しているかというテーマで書きます。
書籍としては「フィンランド教育はなぜ世界一なのか」や「フィンランドx日本の教育はどこへ向かうのか」の2冊を参照しています。
1. 学生時代から人それぞれの価値を知ろう
誰でも社会に出てから、自分がやっている仕事は本当にこれでいいのだろうか?向いているのだろうか?本当にやりたいことだろうか?といった問いを考えることは1度はあるのではないでしょうか。
フィンランドでは、学生時代から、社会の変化に柔軟に対応でき、子供たちそれぞれの強みや好きを自らが発見し、将来、自分なりの価値を提供できることを目指しています。
フィンランドの教育庁のエイヤ・カウっピネン専門官は次のように話しています(2016年9月28日)。
教育課程基準の改訂はどのような考えるに基づいてなされたのですか?
⇨社会の変化に対応した教育にすること、そして、多様な子どもたちが、 まずは自分の力で価値を見いだし、多様な人生において多様な生きがいを見いだしていけるようにすること。そのために必要な力は何か、その力を育むために、学校教育はどうあるべきか。そういった考えが、教育課程基準改訂の背景にあります。
キャリア(人生も)パズルのように組み上げる
日本でもキャリアは自分の選択次第で自由に築くことができるという考え方が徐々に浸透していますが、フィンランドではその発想が定着しており人生もキャリアもパズルのようなもので、どこから組み立てても、どういう経路でも自分らしい絵を完成させていくもののという考えがあります。
北欧バルトには、「人生もキャリアも状況変化やタイミングに応じて、さまざまな選択肢のピースを柔軟に組み上げていくパズルのようなもの」という考え方があり、柔軟なキャリア形成は国民の幸福感の高さに一定程度貢献している。
そのため、私が知り合うフィンランドの方々は、家庭環境の変化に応じて、キャリアの途中で子育てをしたり、介護をしたり、社会に出てからも大学に入り直したり、起業をしたり、状況や希望にそってキャリア・パスを選択していくことはごく一般的です。
3年経てば転職するのが当たり前
その考えを象徴する教育として、大学生の時に、自分の価値を高めるために3年同じところで働いたら次の環境へ移ろうという教えがあります。
さらに、1番最初についた仕事がフィットするかは分からないのは当たり前で、転職をするなかで、自分らしい働き方が見えてくるということも教わるそうです。
例えば、今の40代のビジネスマンの場合は、平均して5-10社程度の職場経
験があるというように言われています。私のフィンランドで出会った方々も事業会社⇨コンサル⇨学校で学び直し⇨起業⇨大学の先生⇨エンジェル投資家と、縦横無尽にキャリアを経験しながら、自らの価値を高める生き方をする人を何人もみました。
家族でキャリアを支え合うのが当たり前
このようにキャリアを自分らしく変えながら、価値を高め、自分らしく働くというフィンランドですが、その価値観は男性だけにあてはまるものではなく、女性にも当てはまります。
日本の「専業主婦」という考え方はフィンランドにはなく、働いていない人はどうやって食べていくのだろう?と、たとえ、子供がいても疑問に思われます。世界一男女平等ともいわれる国だけあって、キャリアについても男女関係なく、自分のキャリアを築いていきます。
それを可能にしているのが、社会福祉制度もありますが、パートナー同士でキャリアを支え合うという考え方です。例えば、3年間は女性が子育てをメインで行い、3年後からは男性が子育てをメインで行い、その間にキャリアを追求している側が転職をしたり、がんばって実績を作るという発想です。
象徴的な話として、フィンランドで尊敬されている女性の1人として、子供を3人育てて、その間5年ほどキャリアを中断していたにもかかわらず、その後、夫(政治家だったと記憶しています)が私のキャリアはもう十分だからと、子育てを中心に行い、その女性(妻)はある有名な企業の社長をしているという話を聞いています。
子育てをしているということが、どうやら、フィンランドでは「マネジメント」にたいして、プラスに働く経験だと捉えられることもあるようです。
このように共働きで双方がキャリアを追求しながら、家族を大切にする働き方を小さい頃から当たり前と思って教育を受けていることは、今世界が目指している方向でもあると思いますし、素敵なことだと感じます。
生き抜く厳しさを自然から学ぶ
フィンランドでは日照時間が極端に短く、−20度近くなる厳しい冬があり、また、森や海がとても身近にあります。
壮大な自然を目の当たりにしながら生きることは、自然のなかで、厳しさを学ぶことになります。日本でも子供を自然で育てるという新しい形の教育が少しずつ増えていますが、フィンランドでは当たり前のように、自然で怪我をしたり、寒くて、外に出られないという経験をするなど、その自然の変化や剥き出しの厳しさを肌で感じています。
フィンランドでは、SISU(シス)という言葉があり、「毅然とした決意、強さ、勇敢さ、意志力、忍耐力、不屈の精神」というような意味になります。
このような過酷な自然環境で育つ人は、起業に求められる精神性を身につけやすいのだろうと感じています。
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・自分の価値を知る
・様々な経験を通して価値を磨く
・キャリアはパズルを組み立てるようもの
・家族でキャリアを支え合う文化
・自然は生き抜くもの
という5点の教育が自然と行われ、起業家にもとめられる資質が自然と育むことがされていると感じています。
最後まで、読んでいただきありがとうございます。
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写真:フィンランドのロバニエミで撮影
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