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社会課題解決する起業家育成の最前線ーヘルシンキ大学のインキュベーション

イノベーションやデザインを学ぶため、アアルト大学に留学したのが5年前。今は「90 day Finland」に参加しながら、新たな視点で「北欧らしい」社会の仕組みやイノベーションについてネットワークを広げています。

今日共有するのはヘルシンキ市からの出資をもとに、ヘルシンキ大学の最先端の研究技術を社会に実装するアクセラレーター、Helsinki Incubatorsです。

特に、社会課題を解決するインパクト志向のスタートアップに焦点を当てたプログラムが印象的で、20を超える起業家たちの夢やビジョンを具現化するサポートを行なっているので、ご紹介したいと思います。

話を聞かせてもらったMikaelさん(HP

約20社のスピンアウト実績

Helsinki Incubatorsは、Helsinki Think Companyという起業家マインドを醸成する機関からノウハウをもらいながら、わずか1年ほどの準備期間で、3年前に開始されたプログラムだそうです。

そのわずかな期間の間に、20社近いスピンアウト(支援プログラムを卒業し出資を受けて法人化した企業)があるそうです。

以下のリンクから会社の事例を見ることもできますが、その多くは、ヘルシンキ大学で研究されている技術をベースにしているそうです。特に、免疫系疾患の予防、介護者向けeラーニングなどのヘルスケアや教育関係のスタートアップが多いように感じています。

スタートアップの一覧

ビジネスに全く縁のない研究者や学生が参加

ヘルシンキ大学の学生や研究者が多く応募するプログラムであるため、そこに参加する起業家候補の人は、全くのビジネス初心者だそうです。

例えば、以下のビデオに出てくるように、その研究分野では超一流のプロですが、起業や新規事業という側面では、本当に1から学び始めています

さらに、研究活動とも並行して進めるため、ゆっくりと時間をかけて顧客、プロダクト、ビジネスモデル、資金調達など順番に学びながら進めることができる初心者にも優しいプログラムとしているとのことです。

教育から試作品開発、資金調達まで

このように、ビジネスに全く縁のない研究者や学生が参加するため、初めの入り口としては、教育や起業家教育のマインドセット醸成のようなプログラムから入り、徐々に、プロトタイプ開発や資金調達といった本格的な支援へ進展していくようです。

例えば、以下のような約6ヶ月のプログラムが本格的なアクセラレーションの流れとなっています。

Week 1 キックオフ
Week 2 問題を理解する
Week 3 デザイン思考
Week 4 リーンキャンバス
Week 5 ブルーオーシャン戦略
Week 6 顧客ニーズを理解する
Week 7 インパクトをつくるテクノロジー
Week 8 デジタルマーケティング
Week 9 ピッチング
Week 10 セールス
Week 11 ストーリー
Week 12 チーム形成
Week 13 メディアとブランド
Week 14 公共からの資金調達
Week 15 Slush(スタートアップ祭典)
Week 16 知的財産
Week 17 クリスマスパーティ
Week 18 プロトタイピングと実験
Week 19 法律の問題(契約、株主)
Week 20 法律の問題(ブランドなど)
Week 21 現代的なHR
Week 22 成長率
Week 23 セミファイナル
Week 24 スタートアップのモメンタム
Week 25 テスト
Week 26 資金調達ツール
Week 27 役員会の運営
Week 28 ピッチを磨く
Week 29 最終発表

このようにあらゆる側面から0ー1に必要な知識やスキルを養うプログラムがデザインされています。

社会課題解決型のスタートアップ・プログラム

この約6ヶ月のプログラムのなかでも、社会課題を解決するインパクト志向のスタートアップに特化したプログラムがあるそうです。

私が聞いた限りは、以下の4つが特に印象的な内容でした。

  • 社会イノベーションのためのデザイン思考

  • 共感マップ

  • 社会イノベーションのためのテクノロジー

  • インクルーシブなピッチ

デザイン思考のなかでも、顧客に深く共感して問題を捉えるだけではなく、より社会の視点から複雑に絡み合った問題を「システム」のように捉えて、最もインパクトが大きくなるような問題点を見つける手法があります。

こうした社会のマクロ視点と顧客・ユーザーのミクロ視点を掛け合わせるような考え方が特徴的だと考えています。

そして、社会課題の多くは、苦しんでいる人を対象にしたものが多く、その課題を抱える人への共感もとても大切にされています。

例えば、集合住宅などにおける住民間の合意形成がうまくいかずに、問題を抱えるケースがあり、その合意形成をサポートするスタートアップが生まれていました。

あるいは、若者のメンタルヘルスが問題となっていますが、サポートを受けるハードルは今でも高く、不安などの感情に寄り添ったオンラインサービスを提供しているものもありました。

そして、テクノロジーを社会課題解決に役立てるプログラムや、収益だけではなく社会性を大切にする起業家が資金調達をするために重要な共感を生むストーリーテリングなどのスキルも教えているそうです。

このように、Helsinki Incubatorsでは、学生時代から、あるいは、研究者にとっての本格的な起業家教育と起業への道筋をナビゲートする役割を果たしています。

私が「北欧らしい」と感じたのは、こうした起業家プログラムを受けた学生や研究者が、もし起業に失敗したとしても、もう一度挑戦したりあるいは、就職したとしてもここで培ったスキルをもとにして、社会に価値を還元してくる、と信じており、そのような中長期に「社会的に意味ある」プログラムを提供しているということです。

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私が留学していた5年前には存在していなかった組織ということですが近年こうした公共系の支援機関が増えているそうです。

サステナビリティや社会課題解決型のスタートアップの需要が伸びており、その領域を北欧、フィンランドとしても取りに行きたいという思いがあるように感じました。

実際にはもっと色んな話をざっくばらんに聞くことができ、興味を持った方はウェルカムということでしたので、ご連絡いただければ、お繋ぎできるかもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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