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米国と北欧デザインスクールのカルチャーの違い【感性思考のウェビナーの振り返り】

Takram佐々木さんの著書「感性思考」に関するウェビナーに参加しました。大変勉強になり、このような機会を提供していただきた佐々木さんとグロービス経営大学院の方々、ありがとうございました。

このウェビナーを聞きながら、終止考えていたことは、佐々木さんの出身校であるIIT Institute of Design (ID)のデザイン教育の思想が、私が留学していたアアルト大学IDBMのデザイン教育と、同じところもありつつ、違いが面白いなあということです。

本質は、デザインを活用して、ゼロワンで新規事業や、社会イノベーションを創造することで、共通していると思います。しかし、広島風お好み焼きと、関西風お好み焼きが、同じ美味しいお好み焼き料理でも違うように、同じ野球でも、広島の勝ち方と、巨人の勝ち方は全然違うように、風土や思想などの「文化」に大きな違いがあるように感じました。

ウェビナーの内容を振り返りながら、IDとフィンランドのアアルト大学のデザイン教育の共通点あるいはユニークさについて、考えたいと思います。

新規事業の構想に再現性をもたせる「フレームワーク」

IDのデザイン教育の話を聞いて印象的だったのが、デザイナーではない人がビジネスデザインを実践するために、「フレームワーク」を徹底的に叩き込んで、使いこなせるようにすることです。

感性・創造性と聞くと、特別な人だけに与えられた才能と思いがちですが、IDでは、誰でもそのクリエイティビティを実践し、再現性を持って、価値のあるビジネスを生み出すフレームワークを重視しているようでした。

ウェビナー中で紹介いただいた授業の例として、全ては覚えていませんが、
・デザイン分析手法
・イノベーションメソッド
・ビジネスモデル設計
・行動観察手法
などがあったと思います。

名前を見ると、ビジネススクールでも教えていそうな内容が多く、佐々木さんご自身も、デザインスクールの面を被った「ビジネススクール」だと形容されていたように、ゼロワンでビジネスを生み出すことに特化しています。

「ビジネスデザイナーが用いる最も特徴的なフレームワークは?」という質問に対しては、カスタマージャーニーマップだとおっしゃっていました。こちらのフレームワークも、近年MBAなどでも教えている内容となりつつあり、デザインスクール、ビジネススクールはどちらも両者のいいとこどりをしているんだね、という話が上がりました。

加えて、フレームワークとは「自ら生み出すことができる」ものだという話もありました。「守破離」の原則のように、今あるフレームワークを学びつつ、身につけた上で、状況に応じてオリジナルなものを生み出すというアプローチをとるとおっしゃっていました。

ロジカルに「創造性」を捉える

創造的に新しい事業を生み出すという「思考法」も、ロジカルに捉え誰でも実践できるようにできるという話がありました。

Managing by Designというデザインマネジメント領域では非常に有名な論文の中で、示されている下記のダイアグラムがあります。こちらの図に似たようなものをウェビナーで紹介されていたと思います。

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Managing by Desing, Academy of Management Journal 2015, Vol. 58, No. 1, 1–7. http://dx.doi.org/10.5465/amj.2015.4001

要するに、デザインのアプローチは、アイデア(抽象)と現実世界(具体)そして、現在(分析)と未来(創造)を行き来しながら、新しい何かを創造します。

エンジニアリングと比較すると、具体的な現実世界の中で、問題の発見から解決に進むという2つの領域を使っています。一方、デザインは4つの象限の思考を場面に応じて使っていきます。この思考の幅と深さに創造性の源泉があると考えられ、このように、ロジカルに思考形態を捉え、適切なタイミングで、意図的に実践することで、「ロジカルな創造性」を身につけることができるのではないでしょうか。

アアルトIDBMの特徴「自分らしさと社会性」

IDで教えられている(と私が理解した)「ロジカルな感性思考」と比べて、アアルト大学IDBMでのプログラムでは、フレームワークを全く重視していませんでした。

この点、正直、IDBM教育の弱い部分だなと思います。自ら論文や書籍を読んで、フレームワークを勉強する機会はありますが、同じコースの人が同じフレームワークを知っているわけではありません。また、実際のデザインプロジェクトでもフレームワークを使いこなすということも重視されていませんでした。

一方、アアルト大学IDBMは、自分の感性(ワクワク、怖い、面白いといった感覚)そのものを磨くことに力を入れている印象がありました。「あなたはどう感じるの?」、「あなたはどのように進めたいの?」というセンスを磨く教育スタンスでした。

最小限のフレームワークのみを学んだ後は、敢えて、ステップバイステップで何をするのかについては教えられません。むしろ、自分たちで考えてやってくださいという方針で、「意思」「自分らしさ」「内発的動機」などの、内面で感じていることを引き出してくることに主眼が置かれていました。

共通の型がないなかで、デザイン・ビジネス・テクノロジーの領域の人達がプロジェクトをすることで、「カオス」な状況が確実に生まれます。IDBMは国際デザインビジネスマネジメントという名前の通り、マネジメント教育であるため、イノベーションを生み出すために必要な「多様性の衝突」をいかにマネジメントをするのか、失敗しながら、肌感覚を手に入れていくという狙いがあったように思います。

加えて、ゼロワンの事業構想(ビジネスデザイン)に力を入れているというよりは、社会のためのデザインという面も重視されていました。

授業でいうと、
・Sustainable Product and Service Design
(サステイナブルな社会へのデザイン)
・Sustainable Entrepreneurship
(持続可能な社会のための起業家精神)
・導入教育は、宇宙開発についてでした。
・企業とのデザインプロジェクトは、私のケースはケニアの食の安全性

といったように、ビジネスを生み出すということに変わりはないのですが、視線が「社会」の方に向いている気がしました。これは、歴史的を考えるとフィンランドは、戦後フィンランドを立て直すために、公共政策のために、デザインを取り入れていたこともあります。伝説のストラテジックデザインファームのヘルシンキデザインラボも同じように、政府が意思決定をするのを支えるために、デザインを用いていました。

この2つの特徴「自分らしい感性を育むこと」・「社会のためのデザイン」がアアルト大学あるいはIDBMらしさであると私は考えています。

サブコアとしては、デザインのための心理学は強い印象です。教授陣も心理学出身の先生が多かったです。

IDBMの卒業生は、ゼロワンで事業を構想するビジネスデザイナーというよりも、自分の好きな領域で起業するとか、心理学に強いデザインリサーチャーやUXデザイナーだったり、社会性の強いシンクタンクのサービスデザイナーだったりとか、の方向感に関心が強いように思いました。

===

ウェビナーを振り返りながら、改めて、アアルト大学のデザインスクールで学ぶコアについて書いてみました。米国のID的な「ロジカルで創造性」を学び、再現性を持って事業を創造することも大切だし、北欧のアアルト的な自分らしさや意思などのありのままの感性を磨くこと、社会のためのデザインも大切だなと思いました。何より、国柄というか文化の違いが反映されていて非常に興味深く感じています。

Cover Photo by Vitaliy Lyubezhanin on Unsplash

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