土曜の夜に思い出す
ごはんを食べたら眠くなり、ちょっとだけとベッドにもぐり込んだとある土曜の夜。
目覚めたら日がまわっていました。
電気は少し暗くしたけれど、テレビはつけっぱなしで、まだぼーっとしているところに聞こえてきた声。
「カウントーダウンッ」
CDTV…今はCDTVサタデーというらしいけれど、この番組は全国区なのかしら。
もうずいぶんと長いこと放送している気がする。
「カウントダウン」の声もサブキャラの入れ替えはあるけれど、メインキャラの声は変わっていないはず、たぶん。
だからか、起き抜けに聞いたこの一言でずいぶんと前の記憶が蘇ってきました。
23年前、もう誰もいなくなった夜更けに、雑然とした社内で上司と一緒にCDTVを見ていたこと。
その頃わたしは、4冊出版されるシリーズ本の編集補助をしていました。
念願の出版に関わるお仕事で、本に対する約1年のみの契約ではあったのだけれど、あの1年間は今でもなにかのきっかけで思い出すキラキラした青春のような日々。
青春のような、と感じるもうひとつの理由が、なんというか部活のような打ち込み具合だったこと。
あの頃はまだ労働基準法がどうたらというのもそこまで言われることなく、というよりわたしがいた出版社の人々…いや少なくともわたしの上司・加藤さんは、本が好きで出版に携わっているものだから、よいものを創るためには時間というものはあってないようなものでした。
古き良きおおらかな時代。
朝タクシー券を使って帰ることもよくあったし、週末も必要ならば出社なんてことはざらで。
それは加藤さんのスタイルで、わたしは定時でもよかったのだけれど、もうお仕事がしたすぎて。
いつの間にかわたしもそのスタイルに染まっていました。
あ、大型企画の書籍にも関わらず、本のスケジュールがとんでもなくタイトで、かつ関わる人間も少なかったのも付け加えておきましょう…加藤さんの名誉のために。
加藤さんは、これまで編集経験のないわたしにもどんどん仕事を任せてくれて、任されたお仕事はどれも初めてのことばかりで、ドキドキしながらも幸せだった。
書籍に載せる画像を探しに写真家さんのもとへ行ったり、大学の著名な教授やその道の第一人者に原稿をいただきに行ったり、原稿の裏付けのために神田神保町の古本屋を巡ったり。
まだパソコンが普及していませんでしたから、直接的なことが多かったのです。
今はとても便利になったけれど、あの不便な時代を体験できてよかったなぁ。
思い起こして書きながら、頬が緩みます。
一生懸命お仕事していたなぁ。
あれを充実した日々というのだと思う。
昼間はそんな感じで外出が多かったので、原稿の校正やらレイアウトやらは人が動かなくなった夜になることが多く、わたしたちの編集室以外灯りの消えた社内で、おのおの好きな音楽を持ち寄り、それを順番に流しながら黙々と仕事をするのが習慣になっていました。
加藤さんが好きだったスピッツを聴くと今でも、当時の仕事風景を思い出す。
そんな感じで、わたしも加藤さんもJ-POPが好きだったので、土曜に休日出勤してしかも朝までコースの夜には、息抜き&ご褒美で一緒にCDTVを見ていたわけです。
お互い好きなアーティストがどちらが上の順位をとるか、とか、1位は誰か、とか、他愛もない話をしつつ、曲を口ずさんで。
誰もいない広いフロアで、その一角だけピンスポットのように照らされながらCDTVを楽しむ姿はある意味シュールだけれど、見終わって「さぁ、もうひとがんばり!」っていうあの雰囲気が、うん、部活の合宿みたい。
…合宿したことないけれど。
もう四半世紀近く前の大切な思い出。
大切なものがあることをほんのりとあたたかく感じた夜。
〈付記〉
加藤さんとお仕事をした時間と教えてくださったことは、その後の仕事への姿勢に大きく影響していて、間違いなくわたしの恩人です。
昨今出すのをほぼ辞めてしまった年賀状を加藤さんにはまだ出していて、加藤さんも返してくださるのですが、今年はなんと加藤さんからいただいた年賀状と、加藤さんの住所を書き損じた年賀はがきがどちらも当たりまして、かわいいなと思っていた切手シートを手に入れることができました。
加藤さんは恩人であるとともに、ラッキーパーソンでもあるらしい。
ありがとうございます、加藤さん。
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