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「極悪女王」のリアリティ 1980年代的昭和っぽさとは?

大谷翔平が“51-51”を達成し、日本中のニュースやバラエティ番組のトップが「大谷」一色となった昨日。巨人の星やあしたのジョー世代の日本人の感覚では、希望的な夢でもせいぜい日米野球で大リーグチームに勝つことくらい。すべての大リーグ記録を塗り替える歴史的快挙を日本人のプレーヤーが米国で達成することなど想像もできなかった1960年~70年代。
1980年代に入ると経済成長とともに“ジャパンアズナンバーワン”などと持ち上げられて日本人は少しずつ調子に乗り始めました。
70年代の最後に“ビューティーペア”が解散し、84年から“クラッシュギャルズ”が活動開始。そんな時代の女子プロレスのヒールのナラティブ「極悪女王」をネットフィリックスが配信を開始しています。

女子プロレスという興行を営む企業の中で、スターとしての名声や評価、金や地位をどう掴むかという少女たちの成功と挫折の物語です。
松本香がなぜ“ダンプ松本”になったのか?、中野恵子が“ブル中野”なった訳は?など興味深いエピソードがちりばめられていて飽きません。
気になったのが80年代の空気感です。1960年代から70年代前半にかけて日本社会はまだ経済成長途上であり、貧困ではないけれど決して裕福ではありませんでした。80年代に入ると円安を背景に輸出関連企業の業績が増加し景気が良くなり、80年代中盤以降はいわゆる“バブル経済”に社会全体が踊り始めました。街の様相は派手で煌びやか、どこもかしこも軽薄で浮ついた状況。しかしこのドラマは80年代に入ってもどこか背景の描き方が暗く貧しい。登場人物がやたらと煙草をふかして粗暴。千草と香が初めて行ったディスコ(クラブじゃない)で千草が踊ってますがどこかクラブ風、当時は振り付けとステップとパラパラとフリーがごちゃ混ぜでした(例えればフットルース的)
昭和っぽいけど昭和60年前後じゃない。ラストシークエンスのダンプ松本の引退試合は平成寸前の昭和63年。バブル経済崩壊前の日本が一番浮かれていた時期です。白石監督はその時13歳、鈴木おさむプロデューサーは16歳。大人としての昭和最終期のリアルな体験はまだしていない年齢ですので、微妙なずれや違和感は仕方ないかもしれません。

唐田さんと剛力さんは身体を相当鍛えたと思いますが、あと5㎏筋肉を増やせるともっとリアルだったと思います。ゆりあんはそっくりでした!

引退試合のエキビジションマッチシーン

もう一点。これはあくまでも個人的な好みなのですが・・・
ラストシークエンスで主な登場人物が皆ハッピーエンドを迎えます。
長年家族とうまくいかず、顔も見たくない、殺してやりたいとまで
言った親や姉妹と涙を流して抱き合う。敵対していた同僚・先輩とも
握手。コアなファンからも祝福され、次の世代を担うであろう少女も
リングの戦いを見て目を輝かせる…。世の中そんなに甘くて単純じゃ
ないだろうと、挫折を味わい大病を経験した身としてはややひねくれた
気持ちになってしまうんですね。年寄りは面倒くさい。
でも気持ちよく見終わるにはこういった予定調和がいいですね。

さてプロレスがテーマの映画やドラマはこれまでも結構あります。
私の一押しは「レスラー」(2008年 ダーレン・アロノフスキー監督)です。
ミッキー・ロークとマリサ・トメイの関係、ラストのファイトシーンでは
大泣きました。映画館が暗くてよかった!
女子プロ物のドラマでぜひ見ていただきたいのは「GLOW: ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」 1980年代のアメリカの女子プロレス界を舞台にした痛快コメディで、人種も育った環境も、性格も年齢も異なる女性たちが「人生の負け犬」という共通項で慣れないプロレスの世界に飛び込み成功を目指す物語。アメリカという国の成り立ちや風土、文化が垣間見えてとても面白いです。ネットフィリックスで配信されていますので興味のある方はぜひご覧になってみて下さい。


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