見出し画像

「ごめん」と言わないでほしかった


好きな人に好きだと伝えてから、もうすぐ2ヶ月が経つ。


「俺も好きかも。でもまだ分かんない。」

あの時、そうやってちっぽけな期待を私に抱かせた彼。


彼と1ヶ月ぶりくらいに会った。いつものように夜ごはんと称して飲みに行った。飲み始めてちょっとしてから、彼と会う前に買ったちょっと高めのチョコレートを渡した。遅めのバレンタイン。

もともと今日はこれを渡すことを口実に会う約束を取り付けたようなものだった。バレンタインの日、LINEでチョコレートを貰ったのか彼に尋ねたら、もらっていないと返ってきた。だから、じゃあ私があげたいから、と会う約束につなげた。


チョコを渡してから、私が「本命だよ」と笑いながら言ったら、彼は屈託のない笑顔を向けながら「ありがとう」と返した。やっぱり彼の笑顔に勝てるものはないと思った。



1軒目を出たところでもう終電の時間が迫っていたけれど、もう1軒行こうと言う彼に私は何も言わずに着いて行った。


2軒目を出た時には23時半近くになっていて、当然終電はなかった。「泊まっていい?」と聞いたら、当然みたいな顔をして「いいよ」と言う彼。



部屋に入ると彼の匂いがした。心地いい。貸してもらった部屋着に着替えて、メイクを落として、帰りにコンビニで買ったお酒を飲みながらサッカーの試合を観た。

試合が終わってからは、お決まりのゲームタイム。やっぱり私は下手くそで、彼が代わりに何個もステージをクリアしてくれた。


2時半、負けても懲りずにゲームを続ける私に眠そうな彼がキスをした。可愛い、と何度も呟いていた。

私はつい「可愛い?じゃあ付き合って〜」なんて言ってしまった。そんな私に彼は「ごめん」「俺が悪い」と言いながら何度もキスをした。

私が「好き」と言っても彼は「ごめん」としか言わなかった。私は笑いながら「わかってるからいいんだよ」そう返した。

こんなに辛い「ごめん」は初めてだった。



その後も彼は「ごめん」と言いながら私を抱いた。一枚ずつ服が脱がされるたびに、彼が優しく触れるたびに、少しでも油断したら泣いてしまいそうだった。行為中、私は辛くて彼の目が見れなかったのに、彼は私を真っ直ぐ見てキスしてきた。それがまた余計に辛かった。


「ずるいよね」そんな言葉が私の口から小さくこぼれた。多分今にも泣き出しそうな声だったと思う。でも、この言葉に彼は「ごめん」とは返さなかった。



結局、この夜、私は泣かなかった。こうなるとわかっていたから。




朝、何度も起きたり寝たりして浅い眠りを繰り返しながら夢を見た。彼の部屋で、彼の隣で、浅い眠りを繰り返す私。現実と全く同じ場面だった。唯一違ったのは、彼が私に愛おしそうに好きだと言っていたことだった。

目が覚めて、自分が見たものが夢なのか現実なのかわからないぼんやりとした状態から、はっきりとそれが夢だったと気づいた瞬間、すごく虚しかった。心のどこかにあった叶うはずもない微かな望みが夢に現れたことが、なんだか惨めだった。

その時、私は確かに彼の隣にいたのに、確かに彼の胸の中にいたのに、確かに彼に触れていたのに、孤独だと思った。


.
.
.
.




彼が私のことを好きではないということが辛かったのだろうか。でも、それは前からうっすらとわかっていたことだったはずだ。

じゃあ、私は何がそんなに辛かったのだろうか。


私はただ「ごめん」という一言がとてつもなく辛かったのだと思う。私の好きを受け入れられないことを、好きを返せないことを、申し訳ないことだと、悪いことだと、思ってほしくなかった。

何も言わずに笑っていてほしかった。あるいは、いっそのこと「俺は好きじゃない」と言ってほしかった。


わがままだとわかっているけれど、ただただ、謝らないでほしかった。「ごめん」なんて言わないでほしかった。


だってまるで、私が彼を好きでいることが、悪いことみたいに感じてしまうから。




そして、何よりも辛いのは、何も悪くない彼に「ごめん」と言わせてしまう私の「好き」が消えないことだった。


だからきっと、この先私は、彼に再びこの気持ちを伝えることはしないと思う。また返ってくるであろう「ごめん」の辛さに耐えられる気がしないから。



この記事が参加している募集

スキしてみて

忘れられない恋物語

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?