ぼろアパート物語「第5夜」
当時の私は月いちのものが重く、毎回痛さのあまりのた打ち回るほどだった。
ある日、その105号室の彼女が家に招いてくれ、子宮を強くするというお茶を振舞ってくれた。
ハーブティーのブレンド。
それから植物の力を認識し、私の興味はハーブやアロマに広がっていった。
ところで。
しつこいようだが、ここは「ぼろアパート」である。
キッチンに色とりどりのハーブの瓶があるというのはちょっと不釣合い。
何十万もする健康器具もある。
そして福岡人なのに、なぜか家にたこやき器もある。
カオスだった。
社会人の彼女は近所のもつ焼き屋さんに時々連れて行ってくれた。
そこでもつ焼きのおいしさを知り、ファンになる。
毎週土曜日9時からの1時間は絶対彼女の家に行ったり、連絡をしてはいけない。
「世界不思議発見!」のミステリーハンターの動きを勉強しているのだ。
取材時の大変さやカメラにどう映るか、ハンターになるのにはどれだけ大変かなど、えらく熱心に語っていた。
105号室の彼女には、会うたびに「想い人」の話を聞かされた。
もう10年も片思いをしている人だそうで。
想い人と自分のささやかな共通点を見つけては、キャーキャーいう乙女だった。
7歳下の私が冷静にツッコミをいれるくらいには。
真上と真横をはじめ、ぼろアパートは全体的に濃密というか、肉体的というか、そんな感じだったので、プラトニックな彼女には好感が持てた。
このアパートは全部で8部屋あったと記憶している。
みんなイイ子だとは思うが、私生活がオモシロすぎる強烈な人ばかりだったので、この時期に「人は見かけによらない」「私の思っている普通は普通じゃない」ということを学んだ。
というか、そう思わないと頭が混乱した。
ついにアパートを出るときが…
私の弟は東京の会社に勤め、社宅に入っていた。
ところが退職によって社宅を出ざるを得なくなったので、行き場を失い私の部屋に転がり込んできた。
前述の通り、男子禁制というわけでないので弟が部屋に入ることは禁止されていないが、六畳一間の部屋ではあまりにも狭すぎた。
私も社会人になって金銭的にも余裕が出てきたので、引越しをすることに決めた。
アパートに住み始めて1年半が経つ頃である。
(次、最終夜です)
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